第2話 依頼



 殺し屋は陽の光で目を覚ました。痛みはすでに消えていた。朝になるといつも治まっているのだ。ただベッドの上で悶え苦しんだせいで、シーツが破れていた。


 汗だくの額を拭って一杯の水を飲み干した。そのまま朝のルーティンで、仕事専用の携帯を確認する。1件の留守電が入っていた。


「仕事の依頼ね」


 殺し屋の一番の上客であるこの男は、華僑最大の秘密結社のトップに君臨する男だった。その割には占い師を殺すほど、気が短い。


「この女を殺して。組織の裏切り者よ。居場所と写真はあとから送るね。注文は特にないけど、今日中にってくれた2倍払うわ」


 倍とはだいぶ気前がいい報酬だ。裏切り者は相当の大物なのだろう。なら見せしめに苦痛を与えて殺すものだが、今回はその手の指示がないのが不思議だった。


 すぐに相手の居場所と写真が送られてきた。それを見た殺し屋の息が一瞬とまった。


 相手は幼い少女だった。プロファイルを見ると10代の黒髪の東洋人とあった。不鮮明な写真で見ても、痩せていて血色の悪い顔をしていた。どうみていも倍額の報酬を払って殺して欲しい大物には見えない。


「まあ、いい。別に怖気づいたわけじゃない」


 殺し屋は独りごちた。ここまで幼い相手を標的にするのは初めてだが、彼はプロだった。報酬が条件にあえば依頼を断る理由はない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る