第29話

 練習が始まってから二週間ちょっと、遂に迎えた体育祭。安定の校長の長い話を聞き流しながら俺は雲一つない空を眺めていた。


「えー以上で終わります」


 校長の話が終わり、まばらな拍手がグラウンドに響く。


「やっとか」


 横にいる生徒の呟きに心の中で同意する。こんな日くらい話を短くしてもいいのにとは思う。まぁでも校長もきっとためになる話を聞かせてあげたかったのだろう。ほとんど聞いてないと思うが。


「続きまして生徒会長、篠崎紅愛さんお願いします」


 この瞬間、生徒達の雰囲気が変わった。校長の時と違い一言一句聞き逃さないと言わんばかりの空気だ。

 白軍のTシャツを着た紅愛が台に上がり、一礼する。


「皆さん、おはようございます」

「「「おはようございます!!」」」


 校長の時の倍以上の声量で返される挨拶。俺の彼女になってからも紅愛の人気は留まることを知らない。むしろ以前よりも綺麗になったと噂されるくらいなのだ。


「今日は待ちに待った体育祭です。これまでの練習の成果を出し切って全員で盛り上げていきましょう」

「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」


 止めてあげて!校長が涙目になってるから!自分の十分の一にも満たないスピーチで自分より歓声が上がって校長涙目になってるから!


 ただの挨拶だというのに口笛まで聞こえてくる程の人気を誇る紅愛。生徒達の歓声が鳴り止まない中、俺は校長に少しだけ同情した。










「いやぁ〜……白強ぇ」

「それな」


 午前の部が始まってしばらくしたのだが……白軍が強すぎる。今のところほとんどの競技で一位になっていた。今行われている綱引きも文字通り瞬殺だった。トーナメント形式のため決勝まで勝ち進んできた相手の軍も決して弱くはないはずなのだが、それを物ともしない我が軍。


「いいぞぉー!白軍ナイスぅぅぅ!!」

「「「ナイスぅぅぅぅ!!!」」」


 そんでもって先輩達のやる気がすごい。もう下級生達が引いちゃってるよ。


「これで綱引きを終わります。次の種目は障害物競走です。参加する生徒は本部前に集まってください」

「お、行ってくるわ」

「おういってら」

「頑張ってこいよ」

「おう」


 圭が立ち上り、本部に向かって走っていく。


「何位だと思う?」

「一位だろ。圭めっちゃ足速いし。それにこの前の体育でパルクールみたいなことして遊んでたぞ」


 先日のことを思い出す。跳び箱とマットを使ってパルクールもどきを楽しんでいた圭。あれが出来るなら学校の障害物競走ではまず一位以外ありえないだろう。


「え?いつ?」

「お前が休んでた日」

「マジか」

「かっこよか「蒼太くんっ♪」おっと……紅愛?仕事はどうしたの?」


 後ろから紅愛が抱き着いて甘えるように頬ずりをしてきた。可愛い。


「んふふ〜♪少しだけ休憩をいただきました。それより何の話をしていたのですか?」

「この前圭が体育でやってたパルクールもどきの話」

「………あぁ、やってましたね」

「あんなこと出来るなら障害物競走も一位獲れると思うよね?」

「思います」

「そんなに凄かったんか。見たかったなぁ」


 雅紀が残念そうに声を漏らす。ただこいつはその日サボっていたので自業自得である。


「あっ……もうすぐ時間です。では蒼太くん。またお昼に会いましょう。守屋さんも」

「ん、じゃあまた後でね」

「また後で」


 紅愛が俺から離れ、本部の方へと帰っていく。その背中を見送っていると横から雅紀に声をかけられた。


「見事なまでに興味なさそうだったな」

「紅愛らしいね」

「本当に……どうやったらあそこまで惚れさせられるんだよ」

「さぁ?ただ好きな人には誠実であろうとしただけだよ」

「それが出来れば苦労しねぇんだよなぁ」


 本当にその人が好きなら出来ると思うんだけどなぁ。


「準備が出来ましたので只今から午前の部最後の競技、障害物競走を始めます」

「まっ、それよりも今は明の応援しようぜ」

「……それもそうだな」


 圭は二位以下に大差をつけての一位だった。










「蒼太くん、あ〜ん」

「あ〜ん。ん……やっぱり紅愛が作る料理は美味しいね。はい、お返し。あ〜ん」

「あ〜ん」

「………ん?どうした?」


 午前の部も無事終わり今は昼休憩。俺、紅愛、雅紀、圭の四人で昼食を食べていた。その途中、紅愛と食べさせ合っていると雅紀に見られていることに気付いた。


「いや……幸せそうだなぁって」

「紅愛が作った料理を紅愛に食べさせてもらえるんだからそりゃ幸せだよ」

「もう……蒼太くんってば///」


 紅愛が照れたように俺の肩に頭を押し当てる。


「あー甘い……ちょっとコーヒー買ってくる」

「俺も」


 雅紀と圭が席を立つ。バッグから財布を取り出して教室から出ていった。俺と紅愛は顔を見合せ同時に首を傾げる。


「……そんなにイチャついてるかな?」

「控えめなんですけどね」

「まぁいいか。紅愛、その唐揚げ欲しいな」

「いいですよ。はい、あ〜ん」

「あ〜ん」


 結局雅紀達は昼休憩が終わる10分前まで帰ってこなかった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

今年は寒いですね。皆さんも体調に気をつけてお過ごしください。

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