第28話
お久しぶりです。
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5月ももう終わりを迎えようとしていた。その頃になると始まるのが6月上旬に控えている体育祭の練習である。今日は体育館で応援練習を行うらしい。体育館へ向かうと既に大勢の生徒が集まっていた。ちなみに俺達は白軍だ。
「何処?」
「……あれじゃね?」
「あれっぽいな。行こうぜ」
雅紀と新しく出来た友人、
圭はサッカー部に所属しているこんがりと焼けた肌がよく似合う野性的な男だ。また俺が男子生徒から圧倒的に恨まれていた頃、最初に話しかけてくれた人でもある。
閑話休題
集合場所に着いた俺達は横一列になって腰を下ろす。それから少しして、応援練習が始まった。
「練習エグいって!」
「こんなのがしばらく続くのか……」
白軍の先輩方は優勝を目指しているのでその分練習もハードだった。他の軍と違い、帰る頃にはほとんどの生徒がへとへとになっていた。
「つか腹減った。飯食いに行かね?この近くに新しく出来たラーメン屋があるんだけどそこガチで美味いんだよ。この前サッカー部の奴らと行ったけど美味すぎて軽く感動した」
「いいな!あっ、でも蒼太が」
「すまん。紅愛も待ってるしまた今……」
そう言って断ろうとした瞬間、ピロンっとスマホの通知音が鳴った。開いてみると
『私のことは気にしないでどうぞ食べに行ってください。友人との時間も大切ですしね。私も今日は友人とご飯を食べてきます。男ではないので安心してください』
……え、待って。怖い怖い怖い。なんで聞いてないのに分かるんだよ。
「どうした蒼太。そんなに怯えた表情をして」
俺が戦慄していると不審に思ったのか、圭が声をかけてきた。
「これ……」
二人にスマホの画面を見せる。するとすぐに二人とも驚きに目を見開いた。
「……は?」
「……蒼太、盗聴器とかは」
「つ、付いてないはず」
真剣な顔つきの雅紀に言われて制服を確認しようとすると、そこでまた通知音が鳴った。
『愛です。盗聴器なんて使わずとも私の愛があれば蒼太くんのことは全てお見通しです』
いやそれもう超能力なんよ。愛とかじゃ説明つかないって。前みたいに俺の心を読むだけならまだしも流石にこれは……
「…篠崎さんって凄いんだな」
圭が感心した様子で呟く。それに雅紀も同意するように頷いた。
「な。俺もある程度蒼太の考えてることは分かるけどこんなこと出来ないわ」
「ある程度分かる時点で雅紀も凄くね?」
「まっ、これでも幼馴染みだからな」
「そういうもんか?……まぁ、とりあえず篠崎さんからの許可も出たことだし蒼太も行こうぜ。篠崎さんとの話とか聞かせてくれよ」
「あ、あぁ」
俺はスマホをポケットに仕舞い、雅紀達と共にラーメン屋へと向かった。
「ただいま」
「おかえりなさい蒼太くん。守屋さん達との食事は楽しめましたか?」
「うん。楽しかったよ。着替えてくるからちょっと待ってて」
「はい」
二階に上がり、部屋で着替えを済ませたらリビングへ行く。すると紅愛がコーヒーを用意してソファに座っていた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
紅愛の隣に座りカップを手に取って一口飲む。美味い。
「ふぅ……それにしても今日は驚いたよ」
「そんなに驚きましたか?」
紅愛が意外そうな表情を浮かべる。逆になんであれで驚かないと思うのだろう。
「それはもう。本当に聞いてなかったの?」
「はい。心配でしたら制服を調べても構いませんよ。でもそれで盗聴器を確認できなかったら私を疑った罰としてひどいお仕置きが待ってますけどねっ」
心外だと言わんばかりに語気が少し強くなる紅愛。慌てて俺は弁明する。
「う、疑ってるわけじゃないんだけどさ。タイミングも何もかもが完璧すぎてちょっと……」
「冗談ですよ。それで先程の答えですけど、やはり愛という他ありません。私くらい蒼太くんのことを愛していれば、蒼太くんがいつどこでどんな会話をして、どんな反応をするのか手に取るように分かります。応援練習後にそういう会話をするだろうなということは想像出来ましたし、その上で蒼太くんが私の事を思って守屋さん達との食事を断ろうとすることだって分かってました。流石に食事の内容までは分かりませんけどね。でも蒼太くんの匂いから察するに……ラーメンを食べてきたのでしょう」
「せ、正解です」
「ふふん」
紅愛は誇らしげに胸を張る。ここまで言われれば信じるしかない。紅愛は俺への愛で俺の行動を全て把握しているのだ。ありえないと思うだろうが本当のことらしい。
「そもそも、蒼太くんが嫌がるようなことを私がすると思いますか?」
「思いません」
「そうでしょう?それに盗聴器なんて付けたら蒼太くんを信じてないと言ってるのと同義です。私がするわけないじゃないですか」
そう言われると少しでも疑ってしまったことが申し訳なくなった。
「ごめん紅愛」
向かい合って頭を下げる。
「いいですよ。でも蒼太くんに疑われて私は悲しかったです」
「うっ……俺に出来ることなら何でも」
「なら私がいいと言うまで膝枕をして頭を撫でてください」
食い気味に答えて俺の太ももに頭を乗っける紅愛。返答が早かったがまさかここまで計算済みだったのか?
「うふふっ、さぁ?どうでしょう。それよりも蒼太くん。早く撫でないと本当にいじけちゃいますよ。さっ、早く早く」
紅愛は蠱惑的な笑みを浮かべると、はぐらかすかのように急かしてきた。追求しても無駄だと理解した俺は諦めて紅愛の頭を撫でる。髪を梳くように手を動かすと紅愛は気持ちよさげに声を漏らし、目を閉じた。
「んふ〜♪また一段と腕を上げましたね蒼太くん。ふぁ……ぁぁ♡この私が、ここまで骨抜きにされるなんてぇ……♡」
段々と弱々しくなっていく紅愛。ここで俺はある悪戯をしてみることにした。
「……んひぁ!そ、蒼太くんっ…何を……ひっ!み、耳はだめぇ……///」
紅愛がか細い声で抵抗してくるが聞こえないふりをして耳を触り続ける。縁をなぞったり、耳の奥に軽く指を入れたりと色んな方法で紅愛の耳を責める。
「んっ、だめ……駄目ですってばぁ……///」
可愛すぎる。
「いい……もういいですからぁ///耳触るのやめてくださいぃ///」
そこでようやく紅愛の耳から手を離した。耳まで真っ赤になった紅愛は荒い息を吐いて潤んだ目でこちらを睨む。全く怖くない。
「蒼太くんのばかぁ///」
「悪戯したくなっちゃった。ごめんね」
「ふんっ。もう知りませんっ」
紅愛は顔を背けた。喋らないし、目も合わせてくれない。ただ頭は依然として俺の太ももの上に乗っけており、本気で紅愛が怒っているわけではないことを表していた。俺は紅愛が再び喋るまでゆっくりと頭を撫でながら待った。
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明けましておめでとうございます。一年ぶりの本編更新、お待たせいたしました。今年もよろしくお願いします。
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