第17話

「……くん。蒼太くん、朝ですよ〜」


 耳元で声を掛けられ、体を揺すられる。


「紅愛……おはよう」

「おはようございます。さぁお顔を洗って、目を覚まして来てください。その間にご飯を並べますから」


 制服にエプロン姿の紅愛は既に準備を終えているようだった。一体いつから起きていたのだろうか。


「分かった……ふぁぁ。んー」


 ベッドから体を起こし、ぐーっと腕を伸ばす。


「ところで蒼太くん。明日から春休みですよね。宿題を早めに終わらせて2人でどこかに遊びに行きませんか?」


 紅愛の提案で今日が終業式だったことを思い出す。色々ありすぎて忘れてた。


「いいよ。紅愛の誕生日でもいいかな?」

「もちろん構いませんが……なにか企んでます?」

「んーまぁ。特別な誕生日にしてあげたいな〜って」

「えへへ、嬉しいです」


 嬉しそうにはにかむ紅愛。ほんといつまでも見ていたくなる笑顔だなぁ……っといけない。早く準備しないと遅れてしまう。


「じゃあそういうことで」

「はい。約束ですからね」

「もちろん」


 









「……お楽しみ、ですか?」

「うん。当日までどこに行くか秘密にしたいんだけどいい?」

「いいですけど……できれば一緒に決めたかったです」


 項垂れる紅愛を抱き寄せて、頭を撫でる。

 俺も一緒に決めたかったが、今回ばかりはそういう訳にもいかないのだ。


「ごめんね」

「……許します。その代わり今度は一緒に考えてください」

「分かってる。今度は2人で決めよう」


 紅愛は俺の言葉に頷き、大人しく頭を撫でられる。


「そういえば新学期になったらクラス変わるよね。紅愛と一緒になれるといいなぁ」

「あっ……ちょっと学校に用事が出来ました。蒼太くんは待っててください」


 俺の腕から離れ、スマホを取り出す紅愛。用事って何だろう。


「紅愛、用事って」

「心配要りません。すぐに帰ってきますから」


 紅愛は爺に電話をし、車を出してもらうと制服に着替えて学校に向かってしまった。


「クラス替えの話をした途端だったけど……まさかな。さすがに紅愛でも既に決まったクラスは変えれないだろ」


 ……変えれないよな?










「ただいま戻りました」

「おかえり……何してきたの?」

「生徒会の残っていた業務を終わらせに行ってました。待たせてしまい申し訳ございません」


 ほ、本当か?……もしかしたら俺が学校の話をしたから思い出しただけで、クラスは関係ないのかもしれない。…うん、そう思っておこう。


「そっか……もうすぐ夕飯の時間だけどどうする?今日は頼む?」

「いえ。私が作りますよ。蒼太くんには毎食私の手料理を食べてほしいですからね。今日はペスカトーレにしようと思ってます」

「ペスカトーレ?」

「魚介類を使ったトマトソースのスパゲッティのことです」


 あっ、どっかで見たことある気がする。ペスカトーレなんて名前だったのか……


「では早く作っちゃいますね。出来上がるまでくつろいでてください」

「いや俺も何か手伝うよ」

「そんな悪いですよ。蒼太くんはくつろいでてください」

「そんな……俺は必要ないの?」


 必殺泣き落とし。女々しいと言う勿れ。紅愛にはかなり効果のある技なのだ。

 俺の予想通り狼狽える紅愛。


「い、いえ。決して必要ない訳じゃなくて、むしろ私にとって必要すぎますけど……」

「……手伝わせてくれない?」

「うっ……わ、分かりました!手伝ってもらいますから泣かないでください!でも、包丁を使うのは危ないので洗い物などをしてくださいね」


 危ないて……俺は子供かよ。いや子供だけど。

 紅愛に子供扱いされたのが気になるけどとりあえず手伝わせてもらえることを喜ぼう。







「あぁ!蒼太くん、まだ水は冷たいですよ!手が冷えちゃいます!」

「えっ、だ、大丈夫だよ」


 やばいな……手伝ったのはいいけど紅愛の心配事を増やしてる気がする。紅愛は作業をしながらチラチラ、というよりほぼガン見でこちらを見ていて手元に集中できていない。


「紅愛、俺は大丈夫だから」

「し、心配です……」

「大丈夫だって、それより危ないから手元に集中して」

「分かりましたけど…き、気をつけてくださいね?」

「はいはい」


 どうやら紅愛の言うように好意に甘えておけばよかったかもしれない。洗い物でこんな過保護になるなんて……








「「ご馳走様でした」」


 美味かった。やっぱり労働をした後に食う飯は格別だな……まぁ対してしてないけど。

 紅愛の分の食器も一緒に流し台へ持っていく。すぐに洗っておこう。


「ありがとうございます。あっ、水ではなくぬるま湯ですよ?」

「分かってるよ。紅愛、その間に風呂沸かしてきてくれる?洗っておいたから」

「あら、ありがとうございます。ふふっ、二人で家事をするのも夫婦みたいでいいですね。偶には蒼太くんにも手伝ってもらいましょうか」

「うん。任せて」


 つっても今日の感じだと大した事もさせてもらえなそうだけどな。徐々に信用してもらおう。


「あっ……」

 ガシャン!


 手から滑り落ちた皿が床に落ちて割れる。ジト目の紅愛と目が合う。


「お怪我はありませんか?」

「はい……」

「なら良いです。はぁ…破片が危ないので動かないでくださいね。今新聞紙と箒持ってくるので」

「申し訳ないです……」


 やっぱり俺は駄目なのかもしれない……



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

遅くなってしまい申し訳ございません。忙しさと少々筆が乗らなかったのと友人に誘われてうまぴょいしてました…マックイーン可愛すぎ案件。やってる方、誰推しですか?

次回更新は早めにできるように自分に喝を入れたいと思います。

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