第16話

 翌日、新居にて家具の配置について紅愛と話していた。細かいところは紅愛が呼んだレイアウトのスペシャリストなる人と話し合うので、大体の位置を決めるだけでいいらしい。


 しばらくして玄関のインターホンが鳴り、業者の人が来たことを知らせてくれる。


「私が出ますね」


 紅愛がリビングを出て、玄関に向かう。少し話し声が聞こえた後に重い足音が近づいてきた。二人がかりで家具を運び込む業者の人達に挨拶をして紅愛と共に隅っこに移動する。


 全て運び終えたタイミングでスペシャリストさんも到着した。


「お嬢の護衛の花岸と申します。今日はお嬢の命令により参りました。以後お見知りおきを」


 …ん?花岸って確か……


「蒼太くんの想像通りですよ。彼は初デートの時に蒼太くんを私の家まで運んだ人です。花岸、これは私達が考えたレイアウトなのだけれどどうかしら?」


 紅愛が先程まで一緒に考えていたレイアウトの紙を花岸さんに渡す。というか花岸さんめっちゃガタイがいい。絶対に怒らせたらやばい人だ。


「来て早々ですか。相変わらずお嬢は人使いが荒いですね…えー…………うん、いいと思いますよ。でもお嬢、テレビの位置はもう少しこちら側にした方がよろしいかと。その方が部屋を広く感じますよ」

「……そうね。確かにそっちの方がいいわ。指示してきなさい」

「了解しました……すみません。そのテレビとテレビ台はそこへ…ソファはその前に、センターテーブルも……はい、ありがとうございます。次は……」


 花岸さんは簡潔な指示を出し、ささっと家具の配置を決めていく。つーか護衛なのになんでこんなこと出来るんだ?


「花岸はセンスが良いんですよ。本人もよく分かってないみたいですがそういうセンスらしいです」

「へぇ〜……紅愛、今俺が思ってること当ててみて」

「え?…紅愛は可愛くて一途で家事ができて奉仕もできて本当に良い女だなぁ……きゃっ///そんな恥ずかしいです///」

「急に嘘つかないでくれるかな!?」

「でも良い女って思ってくれてますよね?」

「それは……まぁ。紅愛以上の女性はいないとは思ってるけどさ……」


 あー小っ恥ずかしい。何で人前でこんな事言わないといけないんだよ……


「ふふっ、んふふふ…その言葉が聞けたので満足です。えっと今の蒼太くんの心の中を当てるんでしたっけ?あー小っ恥ずか「いやもういいから!お口チャックしようね!」んむ……」


 紅愛の唇を指で摘んで塞ぐ。アヒルみたいに唇を尖らせた紅愛がこちらを見上げてくる。なんか凄く可愛いのが無性に腹が立つ。


 紅愛が俺の指を外して口を開く。


「はふっ……蒼太くんの心の中を読むなんて赤子の手をひねるより簡単なことです。だから蒼太くん…隠し事をできるなんて思わないでくださいね?」

「はい……重々承知してます」


 もとより隠し事をできるなんて思っておりません……あっ、でも隠し事をしたら何をされるんだろう?試してみ……やっぱやめた。絶対に後悔してしまいそうな気がする。


「お嬢、指示は出し終えたので私はもう用済みだと思うのですが帰ってよろしいでしょうか。これ以上この場にいると喧嘩中の妻に会いたくなってしまうので」

「えぇ、ありがとう。後でボーナスをあげるわ。それでご機嫌取りしなさい。さようなら」

「はい、ありがとうございます。蒼太様も」

「あっ、はい。ありがとうございました」


 花岸さんは一礼してから出ていった。最後まで礼儀正しかったなぁ。っていうより喧嘩中の妻って……花岸さんが何かやったのか。


「結婚記念日を忘れてしまっていたらしいです」

「あーそれは大変だ」

「蒼太くんは忘れないでくださいよ?蒼太くんが忘れてしまったら私……何するか分かりませんもの」

「だ、大丈夫だよ。絶対忘れないから」

「ならいいですけど……それにしても7人体制での作業とは…」

「凄いよね。まぁいっぱい買ったし早めに終わらせるとなるとこんくらいの人数必要だよ」


 それにしても作業早いな。ソファも気付いたら組み立て終わってるし、此の分だと後三十分くらいで終わりそうだ。


「終わるとちょうど昼前くらいですね。昼食は蒼太くんの好きなハンバーグにしましょう。私が買い物に行ってくるので蒼太くんは待っててくれますか?」

「俺が行くよ。紅愛一人だと危険だから。何買ってくればいい?」

「そんな悪いですよ!私が買ってきますから」

「だーめ。紅愛は自分が可愛いこと自覚して。紅愛一人で行かせるなんて絶対に許可できない。ね?何買ってくればいいの?」

「……では合い挽き肉と麩と野菜を買ってきてください。あとお金はこれで払ってください」


 紅愛がブラックカードを渡してくる。さすがに使えないので返そうとするが拒否されてしまう。


「暗証番号は蒼太くんの誕生日と私の誕生日を足した数字の1023ですから」


 俺の誕生日が6月20日だから…… 4月3日?もう少しじゃないか!誕生日プレゼント買わなきゃ。


「じゃあ行ってくる!」

「はい。行ってらっしゃい」


 俺は昼飯の買い出しと紅愛の誕生日プレゼントを買いに外に出かけた。






 かなり時間はかかってしまったが、結果から言うと良い物は買えたと思う。しかし問題があった。

 後10日……紅愛にバレないように隠さなければならないのだ。隠し事をするなと言われた手前、初っ端から隠し事を作るのは不安でしかないがやるしかない。


 家の前で深呼吸する。どうやら俺が買い物している間に業者の人は帰ったみたいだ。紅愛へのプレゼント選びに大分時間をかけてしまったのでしょうがない。


「すぅ…よし。ただいま……うぉっ!?」


 玄関のドアを開けると腰付近にドンッと強い衝撃が伝わってきた。何かと焦ったが直ぐに金色の髪が靡くのが見えたのでほっと息をつく。


「おかえりなさいぃ……寂しかったですよ蒼太くん」

「ごめんごめん。買ってきたよ」


 手に持ったビニール袋を少し持ち上げる。


「ありがとうございます。それじゃあ出来上がるまでリビングで待っててください」


 紅愛は俺に抱きつくのをやめ、挽き肉などが入ったビニール袋を受け取ってキッチンへ向かう。俺も紅愛の後を追い、何か手伝おうとすると止められてしまった。



 大人しく待つこと一時間、テーブルの上にはハンバーグやサラダと美味そうなものが並んでいた。もう限界だ。早く食べたい。


「美味そう!紅愛、早く食べよ!」

「ふふっ、ではいただききましょうか」


「「いただきます」」



 新居での初食事もとても美味しかった。

この後新居記念ということで紅愛主体による運動が行われたのは言うまでもないだろう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

最後の運動はご想像にお任せします。もしかしたら純粋に運動をしたのかも……

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