第12話

 校舎裏。人気が少なく、雑草が生い茂っているここは普通の生徒ならば近寄ることすら憚る場所だが、今は二つの人影が校舎の白い壁に映っていた。


「美桜、お前神谷なんかと付き合いたのか?」

「輝明こそ篠崎なんかと付き合いたいの?」


 男の名前は菱山輝明ひしやまてるあき。そして女の名前は田中美桜たなかみお

 奇しくも彼らは今朝、蒼太達に返り討ちにされた2人だった。放課後になり、何となくここに訪れた2人は会って早々に互いに目的を話し、協力関係を結ぼうとしていた。


「輝明はなんであんな重い女好きなの?」

「あっ?別に好きじゃねぇよ。金もあるし体も顔もいい。極上の女だろ?狙わねぇ方がおかしいんだよ」

「ふーん」

(やっぱりこいつクズだ)


 美桜は輝明のことを心の中で蔑んだ。まるで自分は違うかのように。

 しかし輝明からしてみても蒼太と付き合おうとする美桜は馬鹿以外の何ものでもなかった。


「……とりあえずこういう作戦はどう?これが成功すれば神谷くんもきっと篠崎と別れるだろうし傷心中の篠崎を輝明が手に入れることが出来ると思うよ」

「…言ってみろ」

「えっとね……」


 互いが互いを蔑みながらも己の目的のために協力しようとする何とも奇妙な関係が今、結ばれようとしていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はぁ〜……今日は疲れちゃいました。早く蒼太くんの服に着替えないと死んでしまいそうです」


 蒼太くんと家の前で別れてからもう一分……既に蒼太くん成分が枯渇してきてます。


 あぁ蒼太くん…私もそろそろ限界みたいです。あなたを傍に置いておきたくて仕方ありません。いつでも手の届くところにいてほしいです……今度お義母様達に話して同棲を許可してもらいましょう。もうすぐで家も出来ますしね。




 部屋に辿り着き、真っ先にクローゼットを開けて適当に一着だけ蒼太くんの服を取り出す。

 蒼太くんが小さくなったからと渡してくれた服も私にとってみれば大きい事には変わりありません。


 蒼太くんの身長が181cm……私と20cm差です。この服の数々は170cm位の時の物と仰っていたので普通に大きいです。


 制服を脱ぎ捨て、下着姿で蒼太くんの服を身につける。肌に触れる生地の感触、蒼太くんの匂いに包まれることによる幸福感が今日の嫌な出来事を全て忘れさせてくれます。


 脱ぎ捨てた制服をハンガーに掛け、ベッドに寝転ぶ。


「……それにしてもあの方達、ふざけた真似をしなければいいのですが」


 今朝の出来事が脳裏に浮かぶ。田中さんとえっと……菱山君でしたっけ?あの二人はきっと何かしら問題を起こしそうな気がします。


 菱山君の目的は私と付き合うこと、そして田中さんの目的は蒼太くんと付き合うこと……何れも私達が別れることが最初の目的のはず。そんなことは天地がひっくり返ってもありえないんですけど危険な芽は摘んでおくに越したことはありません。


 しかしどうしましょう?転校させるのは簡単ですが、それだと蒼太くんも怒るでしょうしなるべく平和的に解決したいですね…………うん、蒼太くんに相談しましょう。声も聞きたいですし。


 電話を掛けると3コール目で出てくれました。今日は少し遅かったです。


「もしもし蒼太くん?少しお話よろしいでしょうか?」

「もうちょっと待ってて。今、着替えてるから……」

「なるほど。それで電話に出るのが遅かったのですね」

「……遅い?まぁいいや。それじゃあちょっと待っててね」


 スマホ越しから聞こえるガサガサという音で、蒼太くんのお着替えを想像していると、1分ちょっとで蒼太くんが戻ってきました。


「それで話って?」

「はい。2つあるのですがまず短く済む方から話しますね」

「うん」

「実はお父様に頼んで建ててもらっている家があるのですが、蒼太くんの御家族が許可してくださったら一緒に住みませんか?」

「いいよ。母さん達も紅愛との同棲なら喜んで許可するだろうし」


 やはりすぐに終わりましたね。これで同棲は決定です。次は少々めんどくさい話に移りますか。


「分かりました。ではこの話は終わりにして…次の話に移りたいのですが少々長くなると思うので時間は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だよ」

「良かったです。実は私、今朝の2人がなにか企んでいるのではないかと考えてまして、それを阻止しようと思ったのですが、恥ずかしながら転校させる以外には思いつかなくて……」

「……なるほどね。俺もそう思う。あの2人ならなにかしそうだ。それで一緒に案を出そうってこと?」

「はい」


 本当はこんなことに頭を悩ませたくないのですが仕方ありません。私たちに関係ある以上やるしかないのです。






 しかしあれから一向に話し合いは進まず、転校に変わる案は浮かんできませんでした。仕方が無いので今日はとりあえず保留ということにしました。

 まぁ明日から動きがあれば様々な方に協力していただきましょう。絶対に思い通りにはさせませんから。


 それと蒼太くんから同棲の許可を貰ったとLINEが来ました。これでずーっと一緒です♡

お義母様達にも後でお礼を申しましょう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

更新が遅くなり申し訳ございませんでした!

変な箇所があったらご指摘ください。

それと暫くは更新が遅くなると思いますがエタるわけではないのでご了承ください。

あっ、鬱展開なんてものはこの作品にはないのでそれを期待していた方には申し訳ございません。鬱なんてのは紅愛が全て消し去ってしまうのです……。

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