第13話

 昨日は色々あり、疲れを取るためにも早く寝たのだが、今朝になってもその疲れは取れないでいた。


「蒼太…あんた今にも死にそうな顔してるわよ。やっぱり今日は休む?」


母さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「大丈夫。少し眠いだけだから…紅愛が来たら少し寝させてもらうよ」

「分かったわ」


 玄関で靴を履き、紅愛の迎えを待つ。5、6分程するとチャイムが鳴り響いた。


「いってきます」

「いってらっしゃい。気を付けるのよ?」

「はーい」


 ドアを開けるとまず目に入ったのは、太陽の光に照らされ輝く紅愛の金髪だった。

 次に目が合い、紅愛は俺にだけ見せてくれる 可愛らしい笑顔を浮かべた。


「おはようございます蒼太くん!」

「おはよう紅愛……爺もおはよう」

「おはようございます蒼太様。さっお乗りください」


 昨日と同じように紅愛と一緒に後部座席に座る。だが昨日とは違い、自ら紅愛の方へ倒れ込んで太ももを枕にした。

 紅愛は倒れ込んだ俺に一瞬驚いたがすぐに俺が寝やすいようにと位置を調整してくれる。


「あらあら……今日の蒼太くんは甘えん坊でしたか。ふふっ自分から私を求めに来てくれるなんて嬉しいです。よしよし♪ぐーっすり眠っていいですよ。まだ時間はありますからね」

「…ごめんね紅愛」

「いえいえ………ということよ。爺」

「かしこまりました。では昨日と同じ場所に」

「ありがとう。さっ蒼太くん。なでなでしてあげますから良い子に寝ましょうね〜」

「あぃ……おやすみぃ……」


 俺は紅愛に頭を撫でられながら眠りについた。







「いってらっしゃいませ」

「えぇ、いってきます」

「いってきます」


 紅愛の膝枕で40分程寝させてもらったら疲れが大分取れた。ベッドより紅愛の膝枕の方が俺は安眠できるらしい。8時間の睡眠が40分の睡眠に負けてやがる。


「それにしても目障りですね」

「そんなこと言うなって……それに俺を敵視してる人が多いってことはそれだけ紅愛が魅力的で愛されてるってことじゃん」

「私は蒼太くんに愛されてさえいればいいです。有象無象の安い愛情など要りませんし迷惑です」


 紅愛は不機嫌さを隠そうともせず周りの生徒を睨みつける。睨まれた生徒は一瞬怯るがまた悔しそうに俺を睨んでくる。


 いつまで経っても慣れることのないだろう視線の中を俺は溜息をつきながら歩いた。






「二人共お疲れ……その様子だと篠崎さんじゃなくて蒼太ばっかに敵意向いてる感じ?」

「えぇまったくもって腹が立ちます。ここのように私と蒼太くん半々に敵意が向いてるならまだしも、蒼太くん一人だけに向けて……ほんとにうざいです」


 めちゃくちゃご立腹じゃん……紅愛の口からうざいなんて単語が出てきたの初めてじゃないか?

 紅愛の頭を撫でて宥めながら、雅紀に気になっていたことを聞く。


「まぁまぁ……つーかあいつら様子おかしくないか?」

「蒼太も気付いたか。そうだよな。……絶対何か企んでるぜ」


 雅紀がチラッと視線を寄越した先には紅愛の元取り巻きのグループとその傍らでニヤついている菱山の姿がある。もはや隠す気もないのだろう。


「……行ってみるか」


 菱山達の方へ向かおうと足を一歩踏み出したところで、佐藤さんが焦った様子で教室に入ってきた。クラスの皆が佐藤さんに注目する。佐藤さんは学校新聞らしきものを持っていた。


「し、しのっち!神っちも!た、大変だよ!これ見て!教務室から戻って来る途中にあったんだけど……」


 大スクープ!?生徒会長 篠崎紅愛は援交をしていた!?

 ふざけた見出しの下にはデカデカと紅愛がスーツ姿の男と並んで歩いている写真が載っていた。


「は……?」


紅愛が……援交?そんな馬鹿な。

呆然としている俺の耳に不愉快なほど大きい笑い声が入ってきた。


「ぶはははは!篠崎が援交だって!?あははは!ついに清廉な生徒会長の化けの皮が剥がれたなぁ!」


 その瞬間俺の中でブチッと何かが切れた音がした。こいつだ……こいつがこんな記事を書きやがったんだ。


「クソが……てめぇらぶっ殺してやる!」

「落ち着け蒼太!今殴ったらあっちの思う壺だぞ!」

「わわっ!か、かかか神っち!落ち着いて!」

「どけっ!」


 俺を止めに来る二人を振りほどき、菱山の前まで行き、胸ぐらを掴む。


「おうおう神谷ぁ…自慢の彼女が援交してて悲しいのかぁ?親切に教えてやった俺を殴るのか?ん?」

「てめぇ!」

「落ち着きなさい蒼太くん!」

「っ!?」


 殴りかかる寸前、俺に一度も向けられたことのなかった紅愛の怒声により、反射的に体の動きが止まってしまう。

 振り向いて紅愛の方を見るが紅愛から取り乱している様子は一切感じられない。それが俺をさらに混乱させた。


「くれ、あ……」

「いつの間にこんな写真を撮られたのでしょうか。この歳になって親と歩いている姿を晒されるのは恥ずかしいですね」

「……親?」


その言葉にクラス中がポカンとする。


「はい。私の父ですけど。あれ?テレビとかにも出てますから顔を知っている方もいると思ったのですが……意外ですね。少なくとも教員の方々は知っていると思いますよ。世間には詳しいので」

「……あっ!よく見ればしのっちのお父さんだ! ほら神っち!」


 佐藤さんが新聞を見せてくれる。……言われてみれば確かに紅愛のお父さんだ。テレビやスマホでも何度か見たことがある。

 菱山から手を離し、紅愛の方へ向かう。

 思い返せば俺との時には血を流していた。それにそれからはずっと一緒にいたし、紅愛が援交しているはずがなかったんだ。


「少しは落ち着きましたか?」

「うん……」

「後でお仕置きです。蒼太くんにはもっと私を信じるということをしていただきたいです」

「……ごめん」


 あんなに愛してくれている紅愛が浮気紛いのことをしていたと俺は思ったのか……クソっ、少しでも疑ってしまった自分が情けない。


「はっ?おい待てよ篠崎!そんな嘘ついたって分かんだよ!」

「何がですか?」

「援交してんだろ?神谷に捨てられたくないからって嘘ついてんじゃねぇよ。佐藤もそんな嘘に付き合ってんな」

「はぁ……馬鹿はどこまでいっても馬鹿ということですか。では実際にお父様について調べてみればいいです。この男性と同じ顔の方が出てきますから。さて…これは私とお父様への名誉毀損になりますよ。ついでに盗撮もですね。二つとも犯罪です。こちら側はあなた方を訴えられる事をお忘れなきよう。私は今、私の純新無垢な蒼太くんが傷つけられてとても腹が立っています。それはもうとてもとても……今すぐあなた方を殺してやりたいくらいです。私のためを思って怒ってくれた蒼太くんを怒鳴るのがどんなに心苦しかったか分かりますか?分かりませんよね?まぁいいです。理解されても困るだけですから。ということで怒っている私は何でもしますよ?例えば…あなた方の家族が明日から路頭に迷うことになってしまったりなんてどうです?どうせあなた方の親が働いているのなんて子会社のどこかでしょうし辞めさせるのも容易いでしょう。自給自足のホームレス生活やってみますか?私がお願いすればお父様も喜んでやってくれるに違いありません。だって久しぶりの娘からのお願いなんですもの……」


 瞳から光が失せ、紅愛の声に段々と抑揚が無くなっていく。最後の方など無機質すぎて機械みたいだった。


「か、神っち……しのっちが怖いよ…………神っち?」

「……ん?えっ?ど、どうしたんだ?」

「いやしのっちが怖いって」


 確かに今の紅愛を見て怖くないという人はいないだろう。それだけ紅愛の迫力が凄かった。

 菱山達はすっかり涙目だ。家族が巻き添えを食らうとなれば流石の馬鹿でも下手な真似は出来ないのだろう。


 紅愛がこの場の主導権を握り返したところで教室に在原先生が入ってきた。


「席に着け〜。あっ、お前が持ち出したんか佐藤。すまんがそれ持ってきてくれ。…………ありがとな。でも勝手に持ってくなよ?これ回収してたやつだから。それで大事な話なんだが、お前たちの中にいるか分からんけど篠崎が親と歩いている姿を盗撮して偽った情報を書いた奴がいる。何故この顔を見て篠崎の父親って分かんないのかが俺には分からんのだが、それは今言ってても仕方ない。正直に聞くぞ。やった奴は手を上げろ。これは篠崎と篠崎の父親への名誉毀損、立派な犯罪だ。すみませんで済む話じゃないぞ。この学校まで大変なことになる」

「……あ、あいつがやった!神谷と篠崎を別れさせる方法があるって!」


 菱山が田中さんを指差し、そう告げた。今度は仲間割れか……哀れすぎる。


「は、はぁ!?何裏切ってんの!そ、そそそんなこと言ったらあんただって勝手に印刷室の鍵盗んできたじゃない!」

「お前が指示出したからだろ!?」


 何か知らんけどこのまま話させとけば芋づる式に他の罪まで見つかるんじゃね?

 在原先生の方を見ると馬鹿を見る目で菱山達を見ていた。


「はい。正直に言ってくれてありがとな。二人とも付いてこい。お前らも誤った情報を流さないように注意しろよ?丁度いいから三限の授業の時にはそれについて話すわ。んじゃ今日も一日頑張って」

「ど、どど、どうすんのよ!」

「知らねぇよ!元はと言えばてめぇが「はいはい喧嘩は後でな。親御さん呼ぶから黙って付いてきてくれ。くれぐれも逃げんなよ?逃げた瞬間、後悔する羽目になるからな。それでも逃げるなら勝手にしろ。明日から地獄行きだ」


 先生が圧をかけて二人を黙らす。二人はそれから一言も喋らずに先生と共に教室を去っていった。


「蒼太くんこっちです」

「あっ…」


 間髪入れずに俺も紅愛に手を引かれて教室から連れ出された。


「紅愛?」

「……」


 名前を呼んでも反応しない。前を向いているのでどんな表情をしているかも分からないが、雰囲気からして怒っているのは確かだ。



 紅愛は屋上に続く階段の所まで来ると、足を止めてこちらを向いた。


「何故私が怒っているか分かりますか?」

「れ、冷静な判断もしないで、殴りかかりそうになったから……?」

「違います。それは私を思ってのことでしょうから怒る理由にはなりません。いいですか?私は蒼太くんが自分の手を傷付けたことに対して怒っているのです。蒼太くんが傷付くなんて私許せませんから。見せてください」


 言われた通りに手のひらを上にして紅愛に見せる。手のひらからは予想していたが血が流れていた。ハンカチで拭おうとすると止められいきなり血を舐め取られた。


「ぺろっ……んっ、ちゅっ、ぺろ…ぺろっ」


 紅愛の生暖かい舌は俺の血を舐め取り、口内へと運ぶ。代わりとばかりに唾液を垂らして、俺の手を汚していく。


 手のひらを舐め終わると紅愛はしゃがみ込んで、ベルトを緩め、俺のズボンとパンツを引き下ろした。が、学校でする気なのか……


「蒼太くん、少しでも自分が悪いと思っているなら今すぐ私の口にそれを差し出してください♡キツいお仕置きをしてあげますから♡ですが悪いと思っていないならそれをお仕舞いください……さぁどうひまふか♡」


 口を大きく開けて、期待した目で見つめてくる紅愛。そんな待ち方をされたら選択肢は一つしか用意されてないようなものだろう。

 俺は屹立したそれを大人しく紅愛に差し出すことにした。


「……大人しく罰を受けるよ。そうしないと後が怖いから」

「へんへいへふ(賢明です)♡…あ〜んっ♡♡」


 次の瞬間、俺の息子が紅愛の口に飲み込まれ、その姿を消した。

一限をサボり、たっぷりお仕置きをされた俺にはこの後の記憶がほとんど残っていなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

4日も更新できずに申し訳ございません。シリアスもどきの展開はこれにて終わり、これからも変わらずイチャイチャをお送りしたいと思っております。


そしてお願いなんですが、どうかこの作品にマジのシリアスを求めんといてください。


それとレビューを書いてくださった方には非常に申し訳ないのですが、正直僕の作品は人気ラノベ作品と比べることすら烏滸がましいものです。僕はひたすらキャラ達がイチャつく姿を書くことしか出来ず、名作には必ずあると言っても過言ではないキャラの苦悩等を書く才能は一切ありません。伏線張りや回収なども然りです。僕にはそういった事が一切出来ません。


つまり何が言いたいのかと言うと山場も無いワンパターンで単調な作品が出来上がってしまうのです。

なのでここで皆さんに言っておきたいと思います。


この作品にシリアス展開、またはそれに似た展開を求めている方は今すぐフォロー解除すべきです。そういったものを求めていた方、本当にすみません。自分がもっと精進した際にはそういうのも是非書いてみたいと思います。

今回はそれだけ伝えておきたいと思い、こんな話をしました。


次回は登場人物紹介です。

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