第42話 特盛つゆだく親子丼
マインの手紙にはこう記されていた。
『いっぱいお話したいです♡』……マインって意外と達筆だな。
俺はマインの元へと飛んだ。
◆◇◆◇◆
「凄いです!私たちの世界がこんなだったなんて……あ!アーツ様、あれはミズラフ大森林ですか?わたしの家はどのあたりかしら?」
ハイドシップから身を乗り出したマインは子供のようにはしゃぐ。
俺はマインを連れて天界山からずっと上空、空の彼方に来ていた。
ゆっくり話をするなら邪魔の入らない空のうえにかぎる。
俺は子供のようにはしゃぐマインを微笑ましく眺める。
この場所を選んで良かった。
『ガアアア』
そんな俺たちの乗るハイドシップの横をセイルが優雅に飛ぶ。
月明かりのした、俺とマインは甲板にテーブルを出して紅茶とお菓子を並べていく。
うん、なかなかにロマンチックな雰囲気だ。
「ここからだと月がとっても大きく見えますね!……月が綺麗ですね」
俺は月に横顔を照らされるマインに見惚れそうだよ。
……俺たちは月に照らされながら……長い長い時間語り合った。
初めてこの世界に来て出会ったのがマイン。
俺たちは時を忘れて昔話に花を咲かせた。
ふいに間が空いて……黙る俺たち。
静かな時間が流れる。
「そういえばお泊り会はどうだったんだ?ユニとの時間……久しぶりに子供の頃に戻れたんじゃないか?」
俺は静かな時間をそっと終わらせるよう……マインに声をかけた。
「はい!それはもう!リーファも私と姉さんに呆れてました。あ、そうそう!ユニ姉さんの夢見で視たところ『な~が屋』もますます発展だそうです!それからアーツ様の事も……あ!!!」
そこまで話してマインは固まる……どうやら口が滑りかけたようだ。
そしてマインは少し悲しそうな顔で笑ってごまかした……。
お泊り会で何があったのか分からないが、おそらくユニの夢見の話だろう。
その夢見に俺はどう映っていたのか……。
そんな物憂げな空気を変えるべく、俺はマインに話しかける。
「そうだ、君に渡すものがある」
俺はセイルの協力で製作した指輪をマインに渡す。
「まあ!指輪!とても嬉しいですアーツ様♡一生の宝物にします!」
マインは指輪にうっとり微笑み、その指輪にそっと口づけをした。
「その指輪には水精霊が住んでいる。マインのイメージで生み出していいぞ」
俺は水精霊の姿をマインにまかせることにする。
すると……。
『デーレン♪デーレン♪……』
このオープニングテーマは!?
ま、まさかサメ!?ジョーズなのか!?
『ザッパーーーン!』
「うわぁぁぁ!……ってこれタコじゃねえか!!!」
スライムから足を生やしたような可愛らしいタコがぷるぷるしてる。
驚く俺に笑うマイン、どうやらマインもさっきの湿っぽい空気を変えたかったようだ。
マインは笑顔で続ける。
「オクトパスだから……オーさん!」
何も考えずにマインは言い放つ……やっぱり天然なだけかも。
「却下だ」
世界の1本足打法だぞ……お前タコは8本足だろう。
「……じゃあワンちゃん!」
「却下!」
けっきょく名前は『オーちゃん』に落ち着いた。
このオーちゃん、のちに『な~が屋隠れ』でオイルマッサージの『神の手』としてあがめられることになるのだが、それはまた別の話。
……このまま楽しい時間に浸っていたかったが、マインの顔から少し目をそらして月を見つめる。
そしておもむろに言った。
「今夜は十三夜……間もなく満月だ。そろそろ準備しないとな」
「そうですね……あ!そうだ!満月までのあいだ皆でこうして過ごしませんか?どちらにせよ満月のときには天界山にいないといけませんよね」
「そうだな……よし!皆を呼びに行こう」
俺はマインの方を向き、笑顔で答えた。
◆◇◆◇◆
満月まであと1日。
マインと戻った俺は皆と合流し、ふたたび天界山の上空にハイドシップを走らせていた。
皆、大空から望む世界の絶景に息をのんでいる。
普段は感情を表に出さないフィアも眼下の絶景と優雅に飛ぶセイルに目が離せないようだ。
そうして絶景のなかをすすみ、ハイドシップは天界山の上空に到着した。
◆◇◆◇◆
フィアが楽しそうに『チョウさん』を空に舞わせている。
チョウさんは火の精霊力で一生懸命肉を焼いている。
俺たちは甲板にテーブルや食材を運び出し、ちょっとしたバーベキューを開催していた。
焼き鳥、焼き豚、焼き野菜、上位種モンスターの甘味オイル焼き……次々と焼かれていく食材を皆で食べ、満たされていく俺たち。
皆、思い思いの時間を過ごした。
甲板の手すりにもたれかかり、甘味ワインを味わうティエラの姿は大人格好いい。
ほろ酔いのティエラは『アルマ』を呼び出し、甘味ワインをペロペロ舐めさせてる。
そのうちリーファも『コトラ』を呼び出して、甲板で遊ばせはじめた。
コトラは虎だけに肉に目がなく幸せそうに頬張っている。
「母さん……なぜタコなの?」
マインが指輪から呼び出した精霊獣に驚くリーファ。
「タコじゃないわ。世界のオーちゃんよ」
おい、紛らわしい呼び方をするなマイン。
オーちゃんは器用に1本足で立ち、素振りをしている。
お前もやめろ。
ちなみにオーちゃんは、チョウさんと仲が良い。
水と火で相性が悪いと思ったんだが……。
そのうち2匹で素振りを始めた。
お前らやめろ。
そんな賑やかな時間が過ぎ、4人の精霊獣たちも満腹で眠くなったのか指輪の中へ戻っていった。
◆◇◆◇◆
バーベキューのあと、皆にお風呂をすすめられた俺は身体を洗ったあと寝室に入った。
何故か俺の衣類がないのでタオルを巻いて戻ったが、寝室にも衣類はない。
しかたなく全裸でベッドに入る俺。
全裸で洗いたてのシーツに包まれる感覚……これは恐ろしく気持ちいいものだ。
俺がしばらくの間この快感を味わっていると……。
『ゴソゴソ……』
ベッドの端の方から誰かが俺の快感シーツに入ってくる。
だ、誰だ!?……全員だった。
ひとり味わっていたはずのシーツの心地よい感覚が、いつしか彼女たちの肌触りという肉感的な感覚にすり替わり、俺を包み込んでいった。
彼女たちの柔らかく柔軟な身体に溺れ、俺はいつも以上に燃え上がり、そしていつも以上に彼女たちを燃え上がらせた。
肌という肌の全てがねっとりと密着し、身体中の全ての水分が溶け合う。
4人と1人が溶け合い、一心同体となったとき、俺たちは輝く光のなか、意識が飛ぶほどの快感の波に押し流された。
どれほどの時間が経ったのだろう……俺が気づいたとき、マインたち皆が失神していた。
火照ったままの身体が汗に濡れ、窓から差し込む月明かりで妖しく照らされている。
肉欲的な格好のままで横たわる彼女たちは、それでも神々しく美しかった。
しばらくすると、ひとりまたひとりと目を覚まし俺に甘えてくる……。
こうして4人の女と1人の男の時間は、長く長く続いていった……
◆◇◆◇◆
俺は火照った身体を冷ますため、甲板の手すりにもたれかかり、天界山火口湖を眺めている。
外気にさらされた俺の身体からは、湯気が立ちのぼっていた。
さっきまでの情事で昂っていた緊張感は、皆のおかげで澄みきった感覚に切りかわっている。
俺の髪と目にはブルーブラックの光が宿る。
今宵は満月。
真上から突き刺さるように伸びる満月の光。
その光を受けとめる火口湖は、かつてないほどに光り輝き、俺たちを待ちうけていた……。
その光景を見ながらふと思い出す。
ユニの見た俺の夢見。
けっきょく俺は知らないままだがそれでいい。
セイルと見たこの星と精霊の姿……そこに答えがあるんだろう。
俺はできることをするだけだ……そんな事を考えながらひとりの時間が過ぎていった。
『ガチャ』
俺が部屋からいなくなったことに気づいたのか、皆が寝室から出てきた。
皆、生まれたままの姿の上にベッドのシーツを巻いている。
俺のとなりに並ぶ彼女たちは、俺と同じように静かに火口湖を眺めた。
俺は眩しく光る火口湖から目を離さず声に出す。
「さあ、行こうか。精霊界へ」
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