第41話 手紙
「北部地区の復興は凄いですね」
ユニは協会への帰り際に言っていた。
ユニを見送りつつ俺も街を眺める……。
たしかに北部地区にエルフたちが帰還してこの地区は更に活況を呈するようになった。
俺としてはもう少しゆっくりしたペースでの復興が望ましいんだが。
まあユニもお忍びでマインたちと楽しんでいるようなので、俺はそんな北部地区の復興は微笑ましく見ていた。
◆◇◆◇◆
今夜はお忍びで来ているユニが、マインたちとお泊り会をするようだ。
ティエラ母娘も参加なので、さぞかし賑やかになることだろう。
マインハウスには近寄らないようにせねば。
俺には久しぶりにひとりの夜だ。
光精霊術を行使し、ふらっと天界山山頂まで来ていた。
「セイル!起きてるか?」
「ガア!」
……セイルと夜空を舞う。
あれからセイルも高高度に慣れ、俺たちはかなりの高さからこの星を眺めていた。
「……綺麗な星だよな」
俺の独り言に、セイルが『ガア!』と反応した。
「そうか、お前もそう思うか」
そう言うと高めた精霊力を目に宿らせ、宇宙(そら)からこの星を『視』る。
俺が放つブルーブラックの光に歓喜し吠えるセイル。
……しばらくのあいだ見つめ続ける俺の瞳には、この星と精霊の姿が映っていた……。
「ガア?」
静かに佇む俺が気になったのかセイルが声をかけてきた。
「すまない、少しぼーっとしてしまったな。そろそろ降りよう」
「ガアアアアアアア!!!」
セイルは急降下時の『お腹が浮く感じ』が好きらしく、ひとり絶叫している。
俺はセイルとフリーフォールを楽しみながら下降した。
セイルと下降し、天界山の火口湖を真上から眺める。
火口湖に反射する月の光が美しかった。
満月までは、おおよそ2週間くらいか。
俺は精霊界、そしてそこでの自分の役割に思いを馳せていた。
先ほどと同じく、しばらくのあいだ火口湖を眺めた俺は、中央都市ミドルーンへと帰った。
◆◇◆◇◆
マインたちのお泊り会から数日後……。
『タタタタタ……』
ん?フィアが駆けてくる。
『ドスッ……グシャッ』
フィアは俺にわざとらしくぶつかると、わざとらしく俺のポケットに手紙らしきものをグシャッと突っ込み走り去った……。
……お前、手紙がグシャグシャだぞ……。
そしてその手紙はリーファからのものだった……。
◆◇◆◇◆
リーファに誘われてきた場所は、ミズラフ大森林の実家だった。
久しぶりに行きたくなって俺を誘ってくれたようだ。
だが着いたとたん……。
リーファはせっかくの時間なのに、実家の大掃除を始めた。
「ルン♪ルン♪」
そういえばリーファはお掃除が好きなんだった。
どうも掃除自体がリフレッシュに良いらしい。
鼻歌を歌いながら掃除するリーファとリクライニングチェアでくつろぐ俺。
……そういえば2人だけで過ごすのって初めてじゃないか?
そしていつも元気でしっかり者のリーファには世話になりっぱなしだな。
楽しそうに掃除をするリーファを見て、ふと思いつく。
よし!
掃除中のリーファを横目にそっと家を抜け出した俺は、空を駆けミズラフ大森林の最深部に向かう。
「ん?あれか?……姿は虎なんだな」
俺の精霊視は森林の奥に眠る『大森林の狩人ハクト』を見つけ出した。
光精霊移動を使った俺は、瞬く間にハクトの巨大な背中に着地する!
『……ガ?……???』
「悪いな、またいつかゆっくり遊ぼう」
俺はハクトに全く反応させることなく、毛をひと束いただくと一気にリーファの元へ帰った。
そして無事リーファに気づかれずリクライニングチェアに戻った俺は作業に入る。
まずは手に入れたハクトの毛に4P精霊力を行使し『魂』を注ぎ込む。
……するとハクトの毛が虎の姿に生まれ変わった!
名前はそのまま小虎……『コトラ』にしておこう。
風の精霊存在である『コトラ』を、今度は土精霊で作製した指輪におさめていく。
「コトラよ、お前の家はこの指輪だ……そしてお前の飼い主はあそこで楽しそうに掃除をしている女性だぞ」
コトラは指輪からあらわれ、コクコクと頷いたあと指輪へ戻っていった。
俺はコトラにそう言い聞かせてからリーファを呼んだ。
「ゆ!指輪!? 」
「ああ、そういえば皆にはこの世界に来てから、ちゃんとしたお礼などしてなかったからな」
「……べ、べ、べ、別に嬉し、嬉し、嬉しくなんて、なんて……」
指輪を受けとったリーファが壊れたロボットみたいになってる。
『ボッ!』
そしてついに顔から火を出したリーファは自分の部屋に飛び込んでいった。
……しばらくしてリーファの部屋から声が聞こえてくる。
「ちょ、ちょっと今はアーツの顔を真っすぐ見れそうにない!♡……だからもう少しここにいるわ。アーツはこれを読んで先に帰っておいて」
と、ドアの隙間から手紙を渡された。
……手紙はティエラからだった。
次はティエラか……リーファはコトラもいるし大丈夫だろう。
俺は、鼻歌が聞こえてくるリーファの部屋をあとにし、空へと舞い上がった。
◆◇◆◇◆
……ティエラとの待ち合わせの日。
ティエラが指定してきた場所は、なんとラウドの上だった。
お前たち仲良くなってたんだな。
「アーツ様、おつきあいいただけますか?」
……ティエラの言う『おつきあい』とは近接戦闘訓練のことだった。
そういえば訓練してもらうって言ってたよな……すっかり忘れてた。
「では基本の組手から行きますね」
ティエラの言葉で始まる訓練だった……。
『ヒュン!ガッ!!!……バシーーーン!ドガッ!!!』
肉体同士のぶつかりあい、投げ合いの音が続く……。
最初は手取り足取りの初心者訓練であったが、本(ブック)の影響のせいか、ティエラから教わった技がどんどん吸収され、俺はティエラのように動けていた。
しかも俺の動きには自然と精霊力が付加されていく。
4P精霊の威力は半端なかった。
ティエラも途中から土精霊力をまといながら戦っていた。
俺たちの動きに鳴る地響き!飛び散る汗!……下で震えるラウド……。
「悪いティエラ!精霊力が勝手に乗ってしまう!」
俺はインパクトのある拳を繰り出しながらティエラに謝る。
『パシィッ!……ビュン!!!』
ティエラは巧みに俺の拳を払い受け、しなやかで重い蹴りを放ってくる。
『ガシィッ!!!……ズダーーーン!!!』
ヤバい!俺はとっさにティエラの足を手で受ける!
そしてそのまま柔道の谷落としのような切り返しでティエラに投げを決め、馬乗りになった。
「それで良いんです。あなたは精霊に愛されていますから」
馬乗りになった俺の下でティエラは告げる。
「……そして私たちもあなたを愛しています」
俺を真っすぐに見つめるティエラ、身体を起こし俺にキスをする。
お互いの汗が混じり合うキスは、妖しい気持ちになる味がした……。
マズい!今本(ブック)に戻ったら渡すものが渡せねえ!
俺は泣く泣く自分の欲望を押し殺し、立ち上がりティエラに手を貸す。
「ティエラに渡すものがある」
俺はそう言うと、ラウドの破片を使いアルマジロのような精霊を生み出し、指輪に住まわせる。
アルマジロ……『アルマ』が住まう指輪をティエラに渡す。
「ゆ、指輪!……ちょ、ちょっと失礼します……」
言うや否や、大地に両手を叩きつける!
大きく揺れるラウド!ビビるラウド。
指輪のアルマも飛び出して俺の後ろに逃げ込んだ。
「嬉しいーーーーー!!!!!♡」
『ガンガンガン!!!』
……とにかく落ち着け、ラウドの甲羅が割れる。
俺は何とかティエラを落ち着かせ、ラウドとアルマに謝った。
「アーツ様、私はもう少し喜びを噛みしめたく思いますので、ここで失礼します。これはアーツ様に」
と、砂だらけの手紙を渡し、ティエラは走り去った。
ごめんラウドとアルマ、もう少しだけティエラに付き合ってやってくれ……。
と、詫びながら開けた手紙はフィアからのものだった……。
◆◇◆◇◆
フィアに誘われたのは南海群島だった。
ここでフィアは大変な目にあっている……。
大丈夫かと思っていたが、フィアは特に不安を感じさせず、俺たちは南海群島の漁師町や、ボルカン城の城下町など普通にデートを楽しんだ。
フィアには『普通の』生活経験がほとんどない。
なのでフィアにはこうした普通のお出かけがすごく新鮮なんだろう。
街を歩いているだけだが、フィアはとても嬉しそうにキラキラと目を輝かせていた。
俺もそんなフィアの感情に引き込まれ、露天商のグルメやお土産などをティエラと大いに楽しんだ。
……フィアの笑顔やスカートでくるくる回る姿は貴重だ!本(ブック)に焼き付けておこう。
……そんな楽しいデートに時間を忘れ……。
すっかり遅くなってしまった!
フィアにも指輪を渡したい俺は、フィアを誘って火山に来ていた。
ボルカンの火山は活火山だが、今ではすっかりおとなしくなっている。
このことがフランマ王を狂わせたのだが。
火口のマグマは……小さくなりながらも『ボコボコ』と煮立っていた。
あたりはすっかり夜、マグマの灯りが赤く綺麗に光を放つ。
「わっ!?……危ない!!!」
フィアが突然マグマに手を突っ込んだので焦る俺!
しかし俺の心配も気にせず、フィアはまるで池の水のようにマグマに触れる。
「アーツも……」
催促してくるフィア……お、俺も?
ふう……覚悟を決めてマグマに手を入れる!……熱っ……くない!?
「私たち……火の精霊……」
フィアの言葉に気づく……そうか俺たちを、火は傷つけない。
そうと分かれば俺はフィアに告げる。
「フィア、少しここで待っていてくれ」
そう言うと俺は、そのまま『ザブン』とマグマに飛び込んでいく。
……やっぱり寝てやがる……見た目は不死鳥みたいだな。
俺の目の前で『燃え盛る慈悲ニクス』はグーグー寝ていた。
もう放っておこう。
「羽をもらうぞ」
俺は遠慮せず『ブチッ』と巨大な羽を抜き、火口へと戻っていった。
「ニクスは不死鳥だったよ」
俺はそう言うと、フィアにも指輪を製作する。
嬉しそうに指輪をつけたフィアは、歌いながらくるくる回る。
「不死鳥♪チョウさん♪チョウさん♪」
おいおい、長(チョウ)さんは俺のいた世界では偉大なリーダーだぞ……仕方ない。
指輪の精霊の姿はアゲハ蝶にしておこう。
炎のアゲハ蝶が空を舞う。
「チョウさん、フィアを守ってやれよ」
俺の言葉にチョウさんは嬉しそうにフィアの周りを舞う。
そしてフィアはチョウさんと踊りながら俺に手紙を渡してくる。
手紙の主は……やはりマインだ。
しばらく踊っていたフィアは、最後の決めポーズなのか俺を指さす。
そして叫ぶ……「オイッス!」
な!?おいおい!……何をいってるんだお前は。
俺はまだ何か言いそうなフィアを小脇にかかえ、さっさとこの場所から飛び立つのであった。
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