第35話 ミズラフ大森林
この世界の東に大きく広がるミズラフの大森林。
中央都市ミドルーンを出てずっと東に進んだ先にあるエリアだ。
俺が召喚された場所であり、マインの故郷の森だ。
俺は久しぶりにこの大森林に足を踏み入れている。
ボルカン城から戻り、皆のおかげでフィアはようやく元気を取り戻したが、今回の事で俺はひとつの懸念が生まれていた。
マインたち皆の生活力向上と自己防衛能力、いわゆる戦闘能力を上げておく必要を感じたのだ。
俺がいる限りは大丈夫だと思うが、俺がいない時やフランマ王のように変な奴が現れたときは危険だろう。
ということに加え俺は精霊界を目指すうえでも、皆の能力を上げておくため、ミズラフ大森林で修業を行うことにした。
もちろん俺自身の身体的な戦闘能力も上げておきたい。
大森林の奥深くにたどり着いた俺たちは、あえてハイドシップなどは使わず、野営の準備を皆に任せた。
このあたりも生活力の向上にはかかせないだろう。
マインとティエラが、お互いの生活環境での知恵を出し合いながら準備を進める姿を見て、俺は安心して自分の作業に入る。
今回の修行には別の目的もある。
皆の武器作成だ。
ティエラ用に作った即席の鉄製ダガーが折れたこともあるが、このところいろんな場所に出向くおかげで、様々な材料が手に入ったからだ。
俺はせっかくなので、皆の精霊力をバックアップするうえでも専用の武器の作製に取り掛かった。
◆◇◆◇◆
先ずはフィアだ。
彼女はとんでもない隠密能力がある。
いつも気づいたら背後から『ギュウ』と抱きしめられている。
この隠密性は母のティエラをも凌駕している。
……君はアサシンか?忍者か?
というわけで彼女には小回りの利く短剣を作製した。
素材には隕鉄を使用し、俺の血液を混ぜ、精霊力の伝導を最高に高めている。
続いてティエラ。
彼女も隠密行動には優れているが、実際に戦っているの俺には彼女の強みが分かる。
彼女の突破力を活かすなら切り込み隊長だろう。
あとは、素材として面白いものが手に入ったことも大きい。
フィアの隕鉄とはちがう、よく分からない大昔の隕石が地中探索から見つかったため、その素材を使い日本刀を作製した。
けっきょく彼女は単純な戦闘力では他の追随を許さない存在になってしまった。
……やり過ぎたかな?……大地の担ぎ手ラウドも震える突破力になってしまったのだ。
そしてマイン。
彼女に細かいことは必要ないだろう。
そこで天然の彼女らしい武器を作製した。
ミズラフ大森林の超硬質樹木で作成したバズーカだ。
全体に俺の血液を流すことにより水精霊電動を最高に高め、超強力な水精霊のロケット弾をぶっ放すことができる。
バズーカの後方からも水が噴射する無反動砲だが、撃った後はマインが水浸しなので、いろいろ透けていろいろエロい。
最後にリーファ。
リーファにも超硬質樹木で作った武器だ。
一番の年下なのに何故かお姉さんキャラのリーファには、2丁拳銃だ。
才女のリーファらしい武器だと思う。
少し興味本位で、前世界のガンプレイを見せてみたら、独学でほとんどのガンプレイを習得し、サミング、ファニング、ガンスピンなど完全に西部劇の人になってしまった。
まあ強いから良いのだが。
ミズラフ大森林での修業は順調に進み、彼女たちの個性も良い方向に花開いた。
準備が整った俺たちは、パーティの配置を決め、戦闘訓練をおこなった。
パーティの配置と彼女たちの内容を以下にまとめておく。
【斥候】
名前:フィア
戦型:物静で偵察が得意。
もしかして暗殺も得意?
武器:業火のダガー2本持ち
【前衛】
名前:ティエラ
戦型:クールに全てをぶった切る。
寸止めも覚えてください。
武器:天降石の日本刀
【殿】
名前:俺……アーツだ。
戦型:素手!
ごめん!修行する時間がない!ホントごめん!
※殿は『しんがり』とは読まない。皆いわく『との!』だそうだ!
【中衛】
名前:マイン
戦型:天然だが稀に見せる鋭さがヤバい。
男の隠し事を見抜くタイプ。
これ戦型か?
武器:溟海のバズーカ
【後衛】
名前:リーファ
戦型:ツンデレ乱れ打ち。
キメのポーズにも拘る。
後衛としてどうなの?
武器:暴風のガン2丁持ち
本当は俺が殿(しんがり)を務めたかったが、
とにかく皆の希望で俺を囲むような配置になっている。
「本当はワカとラシェルを入れて、もっと強化したいところですが……」
ティエラ、君は戦争でも始めるつもりかね?
前述したが、ちなみに修行のあと、ラシェルの用事でちょっと村に帰ったとき、じゃれてきたラウドを、護衛に連れて来ていたティエラが一刀両断しかけたのはまた別の話。
ミズラフ大森林でも何種類かの上位種モンスターとの遭遇があり、修行相手に食材にとありがたいモンスターたちだった。
今日は『アラシウサギ』……ヤマアラシとウサギが混ざったような上位種モンスターと遭遇している。
こいつらは少し変わっていて、単体は猪程度の大きさだが大量の群れをなし行動している。
集団が集まって上位種モンスターとなるレギオンタイプだ。
単体でもヤマアラシの超硬質な針と、ウサギの跳躍力で侮れないモンスターだ。
そして超高速タイプでもある奴らは、いきなり俺たちに襲い掛かってきた!
◆◇◆◇◆
『キン!キーン!』
フィアがアラシウサギの群れの中で舞うように戦っている。
普通じゃ絶対に避けられなさそうな、雨あられの中を踊るように移動していく。
フィアに切り捨てられるアラシウサギも多数いたが、フィアのスピードに翻弄され、お互いがぶつかり同士討ちするアラシウサギも多数いた。
フィアの前ではヤマアラシのジレンマも通用しないようだ。
『ズシャァ!ズシャァ!!!』
ティエラは、縦横無尽に駆け回るアラシウサギをバッサバッサと叩き切っている。
さすがだな……でも流石に日本刀は小回りが厳しそうだ。
ん?刀を地面に突き刺した!?
『ボコッ!ボコボコボコッ!!!』えっ!?
……あなた、殴ってますよね?
面倒になったティエラは撲殺に切り替えていた。
どんだけ近接戦闘キャラやねん。
『ドカーーーン!!!ドカーーーン!!!』
ああ、あれはマインのバズーカだな……もう放っておこう。
森林破壊は止めて欲しいが、水精霊のロケット弾だから自然には優しそうだな。
あとはキャアキャア叫び、透け透けの姿で逃げながら打ちまくっている。
やっぱり放っておこう。
『ガガガガガッ!!!……ジャキッ!』
お!リーファ2丁の連射が格好いいぞ!……いやいや、何故そこでリロードする?
風精霊の弾だからそんな必要ないぞ。
どうも本人には格好良いらしく、ポーズを決めている。
皆の動きに応じて、それぞれの武器がブルーブラックに光の線を描く。
全ての武器に俺の血を混ぜてるので、持ち手にブルーブラックの血が流れているような意匠になっている。
とんでもない量のアラシウサギ達だったが、動きに慣れ出してからは皆にとって丁度いい訓練相手となってくれた。
俺は本当に何もすることがない……これが『殿』ってことか。
そんなこんなで順調な生活訓練と戦闘訓練の日々が1か月ほど続き、俺は彼女たちの成果を確認し、満足して帰路についた。
◆◇◆◇◆
1か月の訓練から帰った俺たちを待っていたのは、ワカの呼び声だった。
若旦那様!『スペル・マスター』への出頭要請が出ています。
え!?なにそれ?
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