第34話 親子丼おかわり
ボルカン城から戻ってきた俺たち。
だがこのところフィアの調子が良くない。
中央都市ミドルーンに帰ってきた俺は、ひとまずフィアとティエラには『な~が屋』で過ごしてもらっていた。
フィアは、ボルカン城での出来事から完全には回復していなかった。
フィアの受けてきた扱いを考えれば当然だろう。
◆◇◆◇◆
今、俺はひとり南海群島沿岸部の海底に来ている。
フィアの回復のために、上位種モンスターの食材が必要だと考えたからだ。
上位種モンスターには精霊力が豊富に含まれている。
モンスターハントで得た食材を、療養中のフィアに食べてもらおうと思っている。
『メキメキメキ!!!』
大きな音を立てて開いていく貝の口。
俺を挟んで噛み殺そうとした口を、逆にこじ開けてお化けシャコガイに止めを刺す。
海底で見つけた上位種モンスターは相変わらず巨大で、ハイドダイバーを丸ごと飲み込もうと襲ってきた。
もちろん俺の敵ではなく、逆に貝を粉々にしてしまわないように水圧を加減せねばならなかった。
だがおかげで、貝柱は綺麗なままで、刺身やフライにしたら美味しそうだった。
しかも嬉しい副産物として、大量の色とりどりな真珠まで出てきた!
異世界でも海は神秘の宝庫だ。
海の幸をハイドシップに積み込んだ俺は、まだまだ見物したい気持ちを抑え、続いてボルカン城へと船首を向けた。
◆◇◆◇◆
実は南海群島へ来た本当の目的は、ボルカン城の状況確認にある。
俺がハイドダイバーでボルカン城の真下に着いたとき、ちょうど国連と魔法術協会の『連合部隊』が聞き込み調査の真っ最中だった。
俺は風精霊を使い、連合部隊とボルカン城兵士の会話中の声を拾う。
……俺はしばらく話を聞いていたが、おおよそ予想通りの内容だった。
スペル・マスターの話題で持ちきりだった……。
王は殺めたが国を滅ぼした悪人でもなく、復興は説いたが国を救いに来た善人でもない。
そんな微妙な俺の立ち位置だった。
とにかく俺が目立っていて良かった。
フィアの事を知るものは少なく、たとえ知っていてもフランマ王を殺めた俺の方に注目が集まるだろう。
まあ俺はフィアさえ救えればどうでもよく、今後の復興は連合部隊が頑張ってくれればいいと思っているが……。
もしこの国の復興が閉ざされるようなことがあれば、支援はしようかと思っている。
その場合は海産物や『な~が屋マリーナ』なんかを企画して盛り立てていこうか。
城の様子を見ていた俺は、しばらくしてからハイドダイバーで潜った。
◆◇◆◇◆
中央都市ミドルーンに戻り数日が経ったがフィアの調子は微妙なままだ。
ちなみに俺が『な~が屋』に滞在している間は、俺にべったりとくっついて離れない。
その間のフィアはそこまで調子が悪いように見えないのだが……。
ただ俺も忙しく顔を合わせない日もあった。
そんな時に塞ぎこんでいるらしい。
さて、どうしたものか……。
◆◇◆◇◆
けっきょく俺は北部地区の別区画に、隠れ家をもうひとつ用意することにした。
この状態でいつまでも『な~が屋』に滞在させるわけにもいかなかったからだ。
「隠れ家の準備はお任せください!マインハウス同様おふたりにも素晴らしい後宮をご用意いたします!」
え?後宮なの?……まあマインがやる気になっているので任せておこう。
「さあティエラさん、後宮の基本はベッドからです♡いざ!参りましょう!」
意気揚々のマインは、ティエラを連れて家具職人の元へを向かった。
こうしてマインとは別に、ティエラたちの隠れ家ができあがっていくのであった。
◆◇◆◇◆
その完成したティエラハウスで、俺はティエラとフィアと3人で正座している。
巨大なベッドの真ん中で3人が向かい合ってである。
「まずはアーツ様、私たちに住まいをご用意いただきありがとうございます」
ベッドの上に正座したティエラは深々とお辞儀する。
その横でフィアも同じように頭を下げた。
「俺こそすまない、本当はもっと早く準備すべきだったが……でも気に入ってもらえたようで嬉しいよ」
俺は2人に顔をあげてもらって先を続ける。
「それで、俺に折り入って話があるとのことだが?」
「はい、娘の事です」
「フィアが!フィアが元気になる手掛かりが分かったのか!?」
俺は思わずティエラに詰め寄った。
「はい、マインさんに相談しましたところ……」
「え!?マイン?マインに相談!?」
よりによって一番相談しちゃいけない人に……。
もう嫌な予感しかしない。
「マインさんは『アーツ様に身体を預けて全てお任せすればいいのよ。うふふ』と……という事ですので……えい♡」
はっ!?気づいたらティエラが俺に馬乗りになっていた。
瞬間移動か!?恐ろしいまでの前衛職のスキルだ!ぜひ教えてもらいたい!
……などと現実逃避していた俺だったが。
「ちょ!?これが何の解決なんだ!?」
ティエラの柔軟な身体は俺を完璧に押さえ込み、身動きできない。
「お世話になったアーツ様にお礼もできて、一石二鳥とのことです♡」
俺の話を聞いちゃいねえ。
いったい何のアドバイスしたんだマイン……。
『ヌリヌリ、ヌリヌリ』
「おわっ!?フィ、フィア!何してる!?」
いつの間にか忍び寄り、俺の胸板にオイルを塗りだしたフィアに俺は叫ぶ!
でもティエラのマウントで動けねー。
『ヌリヌリ、ヌリヌリ』
言葉を発する代わりとばかりにオイルを塗りたくるフィア。
「マインさん直伝のオイルマッサージを、私たち流にアレンジしました。是非ともご賞味ください♡」
俺に馬乗りになったティエラも塗ってくる。
あぁ、もうこの段階で果てそう……。
◆◇◆◇◆
2人はダークエルフだが、精霊暴走の影響で額から角が生えている。
精神がすっかり落ち着いた今では、2人の角は小柄になり、先がちょこんと丸くなり可愛いアクセントになっている。
そして俺はその角を交えた新感覚オイルマッサージを受け、悶絶していた。
『ヌリヌリ……ツーーーツン、ヌリヌリ……ツーーーツン』
攻め手が入れ替わっている。
今は俺の腹筋にフィアが馬乗りになり、手と角を使って巧みにマッサージをしてくる。
フィアの身体も柔軟に俺にまとわりつき、逃げることができない。
そしてティエラはというと、俺の足裏からマッサージを繰り出しながら、徐々に上へと這いよってくる。
足裏をツンツンしてから、徐々に這い上がってくるオイルにまみれた角。
その刺激がたまらない。
這い上がってきたティエラが耳元で囁く。
「アーツ様、フィアの初めてを宜しくお願い致します」
2人の褐色の肌が、オイルでテラテラと光っている。
オイルで身体を滑らせながら、柔軟な身体を限界以上に広げ、俺に密着してくる。
もう何も考えられず、2人のマッサージになすがままであった。
そうして俺は2人に飲み込まれていった……。
……合掌。
◆◇◆◇◆
あれから3人で、本当にエロイロ……もといイロイロあった部屋は、湯気が立つほどにムンムンした空気に包まれていた。
ティエラもフィアも汗とオイルと、もう何だか分からない体液……もとい液体でテラテラに光りまみれて、褐色の肌もピンクに色づいている。
『スースー』Zzz
このひと晩で、言葉では言い表せないような経験を経たフィアは、ひと皮むけたようにスッキリした笑みを浮かべ、熟睡している。
俺はそんな幸せそうに眠るフィアにシーツをかけてやる。
「アーツ様、本当にありがとうございます」
ティエラは泣いていた。
「本当に……この子が物心ついてから、こんな幸せそうに眠るのは初めてです」
ティエラは泣きながら、笑顔だった。
そんなフィアの幸福な寝顔を見た俺も、本当に嬉しくて『これで良かったんだ』と納得するのであった。
それに俺には分かっていた。
フィアと愛を交わしたとき、フィアの精霊力が俺と繋がったことを感じたからだ。
この繋がりが鍵だったのだ!
もうこれでフィアの心は完全に大丈夫だ。
俺は確信していた。
そんなフィアを、俺とティエラは喜び合い、3人で川の字に寝るのだった。
◆◇◆◇◆
『ぐ~~~っ』
俺は誰かのお腹が鳴る音で目が覚めた。
ふと横を見るとフィアが俺の隣で正座をして顔を真っ赤にしている。
男は野暮なことは聞くまい。
「おはようフィア……ん?もうこんな時間か」
もう時間がお昼前なことに気づいて俺は苦笑する。
『ぎゅるるる』
おっと今度は俺のお腹が鳴ってしまったようだ。
ティエラの方を見ると、いろいろとはだけた格好でまだ爆睡中だ。
濡れた褐色の肌がテラテラと艶を放っている。
開いた足は閉じてくれ……いろいろエロいから。
「よし、何か作ろう。キッチンを借りるぞ」
ティエラは寝かせたまま、少し早い昼食をつくることにした。
「フィアはテーブルの用意をしておいてくれ」
俺はそういうと早速調理に取り掛かった。
久しぶりの男の手料理は……もう分かるだろ?
親子丼だよ。
俺の親子丼は鶏をパリパリに焼くところから始まる。
鶏皮がパリパリに焼けていく間に、出し汁、たまご、その他の調理をサッと済ませていく。
『パチッパチパチ……トテトテトテ』
鶏皮が焼けてはぜる音と匂いにつられてフィアがやって来た。
「ん?つまみ食いしてみるか?」
俺はそう言いながら、焼きたての鶏にサッと塩をふって食べさせてあげた。
「ほら、あーん」
俺はフィアに向けて口を開けるように促した。
『パクッ……もぐもぐ……ピカーーーッ!』
鶏を食べたフィアの瞳がピカッと輝き出した。
ふふ、この旨さはたまるまいて。
と、そこに。
「おはようございます……すごく良い匂いですね!お腹が鳴ってしまいました」
ティエラも鶏肉につられて起きてきた。
「おはようティエラ、ちょうどご飯ができあがったところだ。皆で食べよう」
3人で食べるのは初めてだな。
2人には相当美味しいのか恍惚の表情で食べている。
たぶんこの親子丼、俺のせいで精霊力が溢れてマシマシになってる。
これは俺の料理の腕ということで極秘にしておこう。
俺は自分の料理も好きなので、ガツガツとかき込んでいる。
この口の頬張る感覚がたまらないんだよ。
と、その時……。
「あーん」
鈴のような声がした。
ん?誰の声だ?
隣のティエラを見ると目を大きく見開いてフィアを見つめている!
まさか!?フィアか?
俺がフィアに顔を向けると。
「あーん」
小さい声ながらもフィアが俺に向かって『あーん』してきた。
フィアが喋った!!!
俺は極力普段通りに振舞いながら『あーん』と大きく口を開けて鶏肉を頬張った。
「ありがとうフィア!めちゃ旨いぞ!」
俺は旨さよりも、フィアの声が嬉しくてサムズアップ!した。
ティエラはやっぱり泣いていた。
そんな涙と笑顔の楽しい2人を眺めていた俺は、これからの事について思い浮かべながら、改めて親子丼をかき込むのであった。
◆◇◆◇◆
数日たった、とある夕方のこと。
「……アーツ様?♡」
「ど、どうしたの急に?」
俺の急な来訪に、マインとリーファが驚いている。
「いやなに、ティエラとフィアの事でお前たちには世話になったからな……夕飯、まだだろ?」
俺はそう言うと、担いできた鶏肉などの食材をキッチンに置く。
「俺の手料理なんかお礼にならないかもしれないが……久しぶりだろ?」
「はっ!?すぐにテーブルをご用意しますね♡」
「手料理!?♡……た、食べてあげるわ!」
すでにウキウキを隠せない2人を座らせ、俺は腕を振るう!
親子丼……おかわりだ。
◆◇◆◇◆
すいません……おかわりどころか、そのままフルコースの返り討ちにあう俺。
そしてあえなく本(ブック)に戻るのであった……。
……合掌。
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