第33話 帰路

「……うっ!?」

俺は……気を失ってたのか。

そんな俺に誰かが覆いかぶさっている。

目を覚ました俺の口を、柔らかくて甘い唇が塞いでいた。


「アーツ!?……気が付いたわ!!!」

ぷはぁ……と唇を離したリーファは嬉しそうに叫んだ。


「もう、あのあと大変だったんだよ!急にアーツは倒れちゃって全然起きないし……心配で皆で泣いちゃったんだから!あ!今のは人工呼吸よ!人工呼吸!」

リーファが照れ隠しのせいか早口で言う。


『……舌を入れてただろ』

という言葉は胸にしまい、俺はリーファにお礼を言った。


「それにしても……ここは森か」

俺は辺りを見渡し、遠くにボルカン城が見えることに気づいた。

どうやらボルカン城から少し離れた森に身を隠してくれたらしい。


「ティエラさん凄かったんだから!皆で城から逃げる途中、現れた兵士たちを風のように倒しちゃったんだから!クールで格好よかったわ!私も剣術習おうかな」

俺もティエラの前衛戦闘技術は学びたいと思っているよ。


「そうか……皆で俺を運んで城から脱出してくれたのか。大変だっただろう。ありがとう……それで皆は?」


「皆は周囲の安全確認と偵察に出てるわ。フィアさんはティエラさんが連れているわ」


「フィア……さん?」


「ええ、フィアさん私より年上だし……実はまだちょっと意思疎通できなくて」

救出されてから、フィアはまだ、ひと言も言葉を発してないらしい。


「そうか……」

その辺りは時間が解決するだろう。

まずは救出できて良かった。


「あ!皆が帰ってきたわ!」

リーファの声の方に皆の姿が見えてきた。


「アーツ様!」

駆け寄ってくるマインたちを見て、俺は立ち上がった。


「あ!ご無理はなさらず……お身体の方は大丈夫ですか?」

立ち上がった俺を見て心配そうに聞いてくるマイン。


「ああ、大丈夫だ。身体の方はもう何ともない。ここまで皆ありがとう」

俺は改めて皆にお礼を伝えた。


マインに言われ、自分の身体を確認してみる。

肉体的にも精霊力的にもおかしな感じはなく大丈夫そうだ。

あの時に気を失ったのは、精神的な部分が大きかったんだろう。

だがもうフィアも救出したから気持ち的にも大丈夫だ。


『ぽふっ』

そんな事を考えていると、当の本人であるフィアが俺を抱きしめてきた。

そのまま俺の頭を胸にかき抱く。

母親譲りの甘い香りの柔らかい胸が心地よくてクラクラする。


『なでなで』

俺にギュッと抱きしめながら、俺の頭をなでなでしてくる。

なにこの抱擁感……フィアは俺より年上だなこれ。


「ちょ!フィアさん!何してるの!?」

リーファが目をむいてフィアに叫ぶ。


『チラッ……なでなで』

リーファをチラッと見たフィアだったが、すぐに俺に目を戻しなでなでしてくる。


「この子はおとなしい子ですので」

フィアの姿に驚くこともなく言うティエラ。

もしかしてフィアは天然なのかもしれない。


「ま、まあ皆揃ったことだし現在の状況の確認をしておこう」

リーファの目にビビった俺は、フィアをそっと引きはがし、話を進める。


「皆、本当にありがとう。無事にフィアも救出できて良かった。これから中央都市ミドルーンに戻ろうと思う。俺はハイドダイバーを取りに戻る。あと少しやることもある……皆は待っていてくれ」

俺はそういい心配気味な皆を視線で安心させる。


俺はドミノマスクとマントを装着する。

そして皆に見送られ、大空へと舞い上がった。


さあ!スペル・マスターの出番だ!


◆◇◆◇◆


ハイドダイバーを取りに戻った俺は、空からボルカン城の天守に入った。

天守は燃え尽き、ところどころ熱で溶けている……全てが灰になり、証拠も残っていない。


「それにしても凄い力だな……」

両手に4大精霊力を生み出した俺は、改めてその力を見つめ確認する。


4P精霊術は、これまでの精霊術とは大きく異なる系統の精霊術だった。

それは癒しと再生……魂の精霊術だったのだ。


その力でフィアを魂のレベルから再生できた。

おかげで自我が崩壊していたフィアでさえも、本来の自分を取り戻すことができた。


「……この魂の精霊術で、精霊創造物に命を吹き込めるはずだ」

俺は、天守の石壁から土精霊で小さいゴーレムを創造し、それに命を吹き込む。


『コトリ……トテトテトテ』

静止していた小さいゴーレムは、俺が指示をイメージすると、その通りに動き出した。

可愛らしく俺の周りを走りまわっている。

俺は結果に満足し、小さいゴーレムを自然に帰してあげた。


4大精霊力を得たことはそれだけではなかった。

新たな精霊力を得るごとに、見えるビジョンが広がり鮮明になっていく。

どちらにしても世界の精霊力再生への鍵は精霊界だな。


そうして、俺を呼んでいるかのように感じる方角へと顔を向けた……。


◆◇◆◇◆


「さてと、次だな」

俺はそう言うと、天守から空へ飛び立つ。


今度の俺は隠れることもせず、堂々と空に浮かび、ボルカン城の中庭上空に姿を見せた。


俺は髪と目にブルーブラックの光を纏わせる。

ボルカン城の兵士たちの注目を集めるために。


「な、なんだ!あいつは!?お前は何者だ!?」

俺に気づいた軍の将校らしき男が叫び、大勢の兵卒たちが慌ただしく集まり、騒めき出した。


俺は呼びかけには答えず、一方的に伝える。

「お前たちの王フランマは、この俺『スペル・マスター』が仕留めた。フランマの火の力は偽りの力だ。もう火力砲台も使えない……この国の軍国主義は終わった!」


俺はそう大声で言うと、そのまま急降下し、城の中庭に着地する!


『ズシューーーーー!!!』

着地と同時に風精霊を行使し、俺を中心に爆風を発生させる!


『ズザザザザーーーー!!!』

「うわあああああ!!!」

そうして周りに詰め掛けていた兵卒たちを壁まで吹き飛ばした。


吹き飛ばされていた将校などのキャリア幹部達、その他の兵卒が起き上がるのを待って俺は叫ぶ。


「お前たちはこの国の民と共に、この国を立て直すことだけを考えて励め!」


俺はそう叫ぶと、中庭に砂嵐を発生させる。


「アデュー」

その隙に真下に来させたハイドダイバーに潜り込み、城をあとにした。


そのあと森でマインたちを拾った俺は、ハイドシップの回収に向かう。


間もなくここには連合部隊が来る。

そしてこの国は、これから再生の道を歩むだろう。

そのサポートは連合部隊のお手並みに任せるとしよう。


ハイドダイバーを金属塊に戻し、ハイドシップに積み込んだ俺は、遠ざかるボルカン城を眺めながら中央都市ミドルーンへの帰路についた。

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