第31話 ボルカン城
中央都市ミドルーンを出た俺たちは、ハイドシップを飛ばし続け、ボルカン城が目に見えるところまで来ていた。
そう、来てはいたのだが……侵入できないでいた。
どうやら中央都市ミドルーン側の動きが筒抜けらしく、連合部隊の進行に備え、かなり入念な警備体制が敷かれていたからである。
火の国と言われるだけあり、砲台等かなりの火力も垣間見え、空からの侵入は難しそうだ。
とにかく目立たないこの場所でハイドシップを降り、次の手段に移る。
◆◇◆◇◆
俺は、新たな船の創造作業に入ることにした。
今度は目立たなくする必要がある。
そうしてイメージを膨らませた俺は、皆が見守るなか大地に両手をついて、意識を大地の奥深くへとダイブさせる。
ドミノマスクを作製した要領で、でも今度はもっと大規模に、大地の全てを材料にイメージを具現化していく。
『ズル……ズルリ……ズズズズズ』
両手をついて睨み続ける目の前の大地が盛り上がる!
そこからクレイアニメーションのような動きで、まるで土の中から生えてくるかのように、生まれ出てくる創造物。
「これは美しいですわ!」
マインが出てきた創造物に煌めきに感動の声を上げる。
「これは潜航艦だ……ハイドダイバーとでも呼ぼうか」
俺が土の精霊術で創造したのは、鈍色に輝くのっぺりとした乗り物だった。
つるんとして何処にも凹凸がなく、流線型のカプセル錠剤のような形をしている。
そう、これは潜水艦のように密室となっており、土の精霊力を行使して地中を進むことができるのだ。
おそらく同じ原理で水精霊を使えば、水中で潜水艦としても使えるだろう。
完全密閉のため、いちおう乗り込むときは空気確保の為に風の精霊玉を常備しておこう。
◆◇◆◇◆
ハイドダイバーは現在、ボルカン領の地中を順調に潜航中だ。
ちなみにかなり深い深度で航行している。
これは地上に震動が伝わり気づかれる恐れを防ぐためだ。
現在位置は精霊力によって常に把握できているので問題ない。
このまましばらく進み続ければボルカン城の真下に着くだろう。
リーファは最初乗り込む前から怖がっていたが、今は少し落ち着きを取り戻している。
確かに外が全く見えない状態が続くのだから不安もあるだろう。
ティエラもこれから娘に会える期待と不安で落ち着きがない。
俺はそんな不安を少しでも和らげようとティエラの肩にそっと手をかける。
そんな俺の手をティエラは握り返してきた。
俺はティエラの震えが治まるまでそうしていた。
◆◇◆◇◆
「そろそろだな」
俺はボルカン城の真下に来たところでハイドダイバーを停止させた。
ここまで来れば、フィアの宝玉(ジュエル)を充分に感じることができた。
俺は、はやる気持ちを押さえながら次の行動に移る。
「これからゴーレムを創造する。そのゴーレムを使って城の表門に対して陽動を仕掛ける。そしてその隙に城内へ進入する」
さすがに俺たちだけでいきなり侵入するにはリスクが高すぎる。
城の表門にゴーレムを突撃させ、その隙に突入することにする。
ただし、この世界のゴーレムは魂を持たなかった。
魂を持たないというのは、自我を持たないのと同じで、ゴーレムを作製しても自動的に動いたりはしない。
だから俺が操り続ける必要がある。
『魂を持たない』というのはティエラにも確認したので間違いないだろう。
おそらく他の属性の精霊的創造物を作製しても同じなんだろう。
しかし俺はこのことに引っ掛かりを感じていた。
3つの宝玉(ジュエル)を得た俺は、精霊力のその先にあるものを感じる。
単なる破壊力のような力ではない、精霊力の本当の可能性がその先にあるような気がしていた。
ゆっくり考察したいが今は時間が惜しい。
とにかく今は、ゴーレムが表門に激突して動かなくなるまで操ろう。
そういう訳で俺はできるだけ大きなゴーレムを創造する!
どデカいゴーレムで目立つ『トロイの木馬』のような陽動作戦だ。
「皆、準備は良いな!」
俺の掛け声に、皆はドミノマスクを装着しマントを羽織る!
マントはそれぞれの精霊色に合わせてある。
ワカが用意してくれた。
「行くぞ!!!」
俺は城の表門からおおよそ100メートル離れた付近の大地に意識を集中する!
『ズゴゴゴゴ……ズゴゴゴゴ!!!!!』
大地が大きく盛り上がり、巨大なゴーレムがゆっくりと起き上がる!
身長30メートルはあろうかという超巨大ゴーレムが立ち上がった!
俺の目はゴーレムにリンクさせてある、あとは目の前の表門に突撃するだけだ。
この距離だと7~8歩で表門に激突できるだろう。
ゴーレム(俺)は表門を見据え、ゆっくりと歩きだす。
『カンカンカンカン!!!!!』
突然のゴーレムにボルカン城の警報が鳴り響く!
「ちっ」
連合部隊を想定していたためか、ボルカン城の対応が早い!
『ドガガガガガ!!!!!』
砲台から炎の弾が連射される!
まるでガドリング砲だ!
『ガッガッガッガッガ……ズーーーーーン!!!!!』
ゴーレム(俺)は集中砲火を浴び、数歩あるいたところで膝をつき、あえなく崩れてしまった。
「即席とはいえ巨大ゴーレムだぞ!なんて威力だ!?」
ゴーレムでさえも破壊する砲撃の威力は俺の予想を大きく超えるものだった。
痛みは感じないが、撃たれる感触は初めてのものなので、ハイドダイバーから操る俺の身体は鳥肌が立ち震えていた。
なに!?しかし!これはまさか!?
集中砲火が身体を直撃したゴーレム(俺)だから分かる!
このガドリング砲の爆炎には『精霊力』が混じっている!!!
俺は妙な不安を感じながらも陽動作戦を続ける。
今度は2体、それも起き上がり途中であえて動作を止め、ゴーレムも警戒している雰囲気を装った。
新たな2体のゴーレムの出現に、人々が表門に集中し始めている。
今はスピードが大事だ。
とにかくこの混乱に乗じるしかない!
俺はゴーレムをそのまま放置し、混乱に乗じてハイドモールを浮上させた。
◆◇◆◇◆
ハイドダイバーを降り隠密行動に移った俺たち。
少し進んだところで奥から指示号令の大声が聞こえてきたので身を潜める。
……「次は我ら部隊の出番だ!」
軍曹らしき男が大声で檄を飛ばしている。
聞いているのは、魔法術士の兵卒たちだろう。
「我ら火山国家ボルカンは火山の火力が国の力だ!失われた火山を蘇らせたフランマ王に忠誠を!我らが火の力をゴーレムどもに見せてやるぞ!続けーーー!!!」
「うおおおおおーーー!!!」
号令をかけた男を先頭に、後続部隊が叫びながらゾロゾロと表門へ向かって行った。
失われた火山を蘇らせた?なら何故フィアを攫う必要が?……まさか!?
早くフィアを見つけなければ。
俺は必ず助けるという決意を胸に秘め、先を進んだ。
◆◇◆◇◆
城の中央付近まで進んだ俺たちは、手薄になった城内を見渡し、フィアの宝玉(ジュエル)に意識を向ける。
フィアの宝玉(ジュエル)をかなり上の層で感じることができた。
「フィアはかなり上層にいる。おそらく城の天守だろう」
俺は先を進みながら、他の3人に精霊玉を付与していく。
「なんだこれは?」
さっきから気になっていたが、城内にはチューブがいたるところに張りめぐらされている。
そのチューブが集まる先に階段がある。
俺たちはそのチューブを避けながら進んだ。
「行くぞ!」
俺たちが上る階段の先からは、大きなチューブが川のように下の階へと流れていた。
チューブは下層に行くほど枝分かれし、まるで触手のように城のいたるところに広がっていた。
「なにこのチューブ、なんだか血管みたいで気味が悪いわ」
リーファは少し震えながらチューブを避けて俺についてくる。
『確かに……まるで血管だな、これは』
俺は声には出さず、妙な胸騒ぎを覚えながら先を急いだ。
◆◇◆◇◆
「アーツ様、これよりは私が前衛でまいります」
天守までの階段途中、出くわした護衛兵たちを撃退した俺にティエラが申し出た。
俺でも護衛兵は撃退できたのだが、あまり余裕がなかったからだ。
俺の精霊術は、風精霊で相手の位置などは分かるが、速攻で相手を倒す手段に欠けていた。
ティエラが言うには、ダークエルフでもティエラは元々前衛職で、こういった侵入は得意らしい。
フィアを助けるために、母として何かしたいという気持ちも強く感じられた。
そこで俺は土精霊術を行使し鉄製のダガーを2本製作する。
それをティエラに渡し前衛を任せた。
ティエラが前衛になってからの進撃は、まさに神速だった。
俺が伝える風精霊での敵位置を元に、風のように走り出すティエラ!
俺たちが着いた時には、剣士は倒れ、敵兵卒は魔法術を打つ暇もなく全滅していた。
こうして俺たちは何組かの護衛を倒し、ついに天守の扉の前までやって来た。
◆◇◆◇◆
扉は、それが天守とは思えないような禍々しい様相を呈していた。
扉の周囲の壁のいたるところにプラグがあり、そこから血管のようなチューブが壁や床伝いに下層へと向かっていた。
なにか生き物の体内を思わせるその薄気味悪さに緊張を隠せないマインたち。
そんな皆の前で、精霊力をまとわせた俺は扉をゆっくりと開けた。
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