第28話 スペル・マスター

「まったく土精霊も凄まじい力だな。これ地形が変わっちゃってるぞ!」

俺は上空から、改めて確認した災害現場に戦慄を覚えた。


災害の広さを確認した俺は、広範囲の地中に意識を向ける。

『ひとつ、ふたつ……ん?あっちにもあるな……』

と俺は地中に埋まった大型モービルを全て見つけることができた。


『ん?これは……鉱石か?』

さらにモービルを探す過程で意外な副産物も見つけた。

俺は土精霊の能力で地中の鉱石や鉱物、原油などを探り当てることができたのだ。


「これは……使えるな」

俺は意識を集中し、巨大な鉱石を地中から抜き出した。

そうして抜き出した鉱石の中に意識を潜らせ、鉱石の中から金属を抽出する。

それを製錬し、つづいて精錬、さらに造形していく。

……そして俺の手には鈍色に輝く美しいドミノマスクが完成されていた。


俺は元々この中央都市ミドルーンでは偽装していたし、今回の討伐でもそうだ。

そしてこの災害救助に関しても正体不明の魔法術士に偽装して助けるつもりだ。


魔法術士のローブを羽織り、ドミノマスクを装着した俺は、空の上から眼下の惨状を見る。

そしてさらに地中の奥底を『視て』埋まった全ての大型モービルと周囲の大地に力を行使する。


『ズゴゴゴゴ!!!』


精神集中した俺は、土を流れさせ、あるいは押し出し、まるで柔らかい粘土からオモチャのミニカーを取り出すように、大型モービルを地上へと送り出した。

まるでクレイアニメーションのような動きだ。


傷つけることなく取り出した大型モービルからは、ぞくぞくと冒険者たち、魔法術士たちが降りてくる。

おっ!冒険者オヤジと青年魔法術士も無事のようだ。

あヤバい、冒険者オヤジと目が合った。


「お、おい!あれ見てみろ!魔法術士のローブだ!!!おめぇ何者だ!?」

俺に気づいた冒険者オヤジの叫び声で、皆が空に浮かぶ俺を指さしながら様々な憶測をたてはじめる。


しばしの間黙っていたが……。


「俺は……俺はスペル・マスター『言葉を・統べる者』だ」

さすがに何も言わないわけにもいかず、俺は焦って魔法術士っぽい名前を口走った。


「スペル・マスター?言葉を統べる?呪文を統べるってのか!?……やはり魔法術士か?……俺たちを助けてくれたのか」

皆は自分たちが助かったことに安堵しているのか敵意は向けてこない。

ただ怪しまれてはいるが……。


「このような魔法術は聞いたことがありません。上級……いや特級魔法術にも見たことがない!あなたはいったい……」

青年魔法術士は、魔法術士らしい疑問を呟く。


「わが魔法術は我流……お前たちには未だ魔法術の深淵は覗けていない」

俺は口から出まかせを言う。


……これ以上はヤバい。

俺は、これ以上話してぼろが出ない今のうちに退散することにする。


「今回の災害は俺が防いでおいた。もう被害は出さないだろう。お前たちも早く帰るようにな」


『アデュー』

ちっ、つい冒険者オヤジの真似をしてしまった。


恥ずかしくなった俺は、風精霊で砂を吹き上げプチ砂嵐を巻き起こす。

その騒ぎに乗じてマインたちを連れ出しオアシスに飛んだ。


◆◇◆◇◆


「俺も魔法術士になるぜぇ!」

オアシスに戻ってきた冒険者オヤジが叫んでいる。


「いいえ、あなたには無理です。頭脳的にも年齢的にもビジュアル的にも」

ひと足先にオアシスに戻り、討伐隊の帰りを出迎えた俺たちの目の前で、冒険者オヤジが意味不明な事を口走り、即座に青年魔法術士がツッコんだ。


「あれこそ英雄だぜ!!!こんなオッサンでも惚れるじゃねーか!」

惚れるな。


「私も同じ魔法術士としてあのお方の才能に嫉妬しました……いいえ、惚れました」

だから惚れるな。


だがまあ良かった、全員が『謎の魔法術士スペル・マスター』に助けてもらったと思っている。


「それはそうとお前ら、悪かったな置いて行っちまって。スペル・マスター様の偉大な魔法術を見る機会を奪っちまったようだ」


「いや、いいさ。俺たち新人の命に配慮してくれたことに感謝している。だがせっかくここまで来たんだ、俺たちは西デューシス地方を見物してから帰るよ」

俺は冒険者オヤジに別行動をすることを伝え、中央都市ミドルーンへと帰る大型モービルを見送った。


『アデュー』

『アデュー』

やべえ!返しちまったじゃねえか!恥ずかしい……。


そして俺は、皆を呼んだうえでティエラに伝える。

「ティエラ、すまない……まずこの先の村を、ラシェルの村を助ける。フィアのことはそれからになる」


「はい、私は信じておりますので大丈夫です。全てはアーツ様の御心のままに」

ティエラは信頼の眼差しで俺を見つめ言う。

「参りましょう。ラシェルさんの村に」

ティエラはそう言い、ラシェルの頭を優しく撫でるのだった。


◆◇◆◇◆


ラシェルの村までは、ここから歩いて行ける距離ではない。

皆も救助の手伝いで疲れてもいるし、今日はオアシスで野営することにした。


オアシスには水辺もあり、俺は上着を全て脱ぎ身体を洗う。

向こうの方では皆が思い思いに休んでいる。

そして俺は、皆が休んでいる間に少し作業に取り掛かることにする。


『パーーーーーン!!!』

いつものように、イメージしながら胸元で柏手を打つ!


『ズズズズズ……』

地面が鈍い音をたて盛り上がり、そこを突き破って樹木が生えだした。

樹木はみるみるうちに成長し、俺のイメージ通りの形を造っていった。


「上手くいった」

俺の目の前に、全長5メートルほどの小舟が完成していた。

多少荒い造りで隙間もあるが、水を渡ることはないので大丈夫だろう。


「そんなことまでできるのね」

いつも間にか俺の隣に来ていたリーファが呆れる。


「2P精霊術だよ。水と土を融合してみた」

俺はそう答えると、続いて2P精霊術を行使する。


『ズズズ……』

今度はもっと小さい木が生えてきて……そう、サーフボードだ。


「なんなの?この板」


「まあ見ててくれ」

俺はそう言うと、ボードに乗り風精霊で浮き上がる。

そして、空を自由に飛んでみせた。


「それ凄い!私もやったみたい!!!」


ふむ、リーファなら風精霊が操れるか……。

もともと俺は、ボードが無くても空を飛べるし。

俺はリーファに風の精霊玉を付与し、ボードに乗ってもらった。


「わぁ!ちょ、ちょっと怖いけど行けそう!」

やはりリーファなら乗りこなせそうだ。

このまま練習してもらおう。


「アーツ様……」


ん?マインも来てたのか。

さすがにマインにボードは無理だろうと思っていると。


『ツーッ』

「おわぁっ!!!」

上半身裸のままだった俺の背中をマインが指で撫でてきた。


「アーツ様のお肌、輝いてませんか?」


「突然何をする!?……って輝いてる?」

俺はその言葉に自分の上半身を確認すると。

ん?そう言われてみると確かにいつもよりツヤツヤしてるかな。


「でもそんな輝くってほどじゃ……」

と言いかけた俺を。


「いいえ!女性にとっては、そのちょっとしたことが大切なんです!」

珍しくマインは力説し、向こうにいるティエラを呼ぶ。


「ティエラさんと話していて気づいたんです。彼女の肌が輝いてることに!」

そう言うと、やって来たティエラと俺を向かい合わせた。


おいおい!胸がくっついてるぞ!ティエラも恥ずかしがって……喜んでる?


「やっぱり!同じ輝きです……貴方たちいったい何をなされてたんですかぁ?」

そんな俺たちにはお構いなしにマインは追及してくる。

その間延びした聞き方が……怖い。


「私たち、まず最初に戦って、次にアレしました」

あっさり自白するティエラ。


「アレ……やはりアレが……」


「違う!違うぞマイン!それなら皆いつも輝いてるはずだ」

おかしな方向へ進みそうになるマインを押しとどめた。


だが確かにティエラの肌は輝いているように見える。

俺の胸板にねっとり張り付くティエラの胸は妖しく輝いていた。


俺は考える……。

「俺とティエラだけが経験していること……これだ!!!」

その答えに至った俺は、すぐさま両手に水精霊と土精霊を発生させ、ふたつを融合させる。


『ドロドロドロ……』

両手から泥があふれ出した……この泥の内部に意識を集中させる。


やはり!これは泥エステに最も適している最高品質の泥だ!!!

大昔から堆積したミネラルをふんだんに含んだ超微粒子の泥だ!

このきめ細やかさはなんだ!?凄い!これはイケる!!!


な~が屋に向けた新企画を思いつきちょっと興奮した俺は、2人に泥エステの事を説明する。

そして俺の話を聞いた途端、マインが詰め寄ってくる。


「アーツ様……スペルマ・スター様、私たちにも泥エステして欲しいです♡」

なぜ言い換える……しかも区切るとこ間違ってるぞ!!!


「そ、そうだなこのオアシスには誰もいないし、宿に出す前のテストにもなる。よし!」

暴走気味のマインが言う事も一理ある。

俺は水辺の岸付近に広めの泥を敷き詰めていった。


そうして作業をしている俺の後ろから……。


「えい♡」

「おわっ!?」

『バシャーーーン!』

え?なんで俺突き飛ばされるの?

マインに突き飛ばされた俺は、盛大に泥の中に突っ込んだ。


そんな俺にマインが覆いかぶさってくる!


待て!今日はティエラと『戦闘』をして『アレ』もしたんだ!

もう体力が……。


「こらーーー!!!そこなに『泥んこ相撲』して楽しんでるの!?」

そこに大空を飛んでいたリーファが飛び込んでくる。


違う!泥んこ相撲じゃない!俺は襲われてるんだ……。

俺は泥にまみれながら息も絶え絶えに訴えた。


「仲間はずれはダメ!私も混ぜなさーい!」

『パッシャーーーン!!!』

言いながらリーファも泥の中に飛び込んでくる。


「わ、私も及ばずながら!」

言いながら、ラシェルは甲羅を脱ぎ捨て飛び込んできた。


これはエステ、これはエステなんだ……。

皆にもみくちゃにされながらも自分に言い聞かせていた俺だったが。


最後は結局本(ブック)に戻ってしまった……。

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