第27話 邂逅そして新たな宝玉(ジュエル)

あれだけの数の大型モービルを飲みこんで満足したかのように、土石流は静まり返っている。


俺は空からその状況を確認し、焦っていた。

土砂の量が多すぎる!この状態で水精霊を出せば、より重量を増やすことになり危険だ。

かと言って風精霊では力不足だ。


ん?あれは!

俺はたった1台だけ、土石流の中から顔をのぞかせた大型モービルの先端を見つけた!

ありがたい!扉の部分も覗いている!


俺はすぐさまそこへ駆けつけ、強引に扉をこじ開けた。

大型モービルは相当の装甲強度を誇るのか、車内はほとんど無傷だった。

だが中の人たちには凄まじい衝撃だったのだろう・・・魔法術士たちは全員意識を失っていた。


「ううっ……」

ん?いや、ひとり意識のあるやつがいる!

俺はそこへと急ぎ、そっと身体を起こす。


「お、奥……土砂なだれ発生の奥に何者かの影が……」

目元から少し出血しているが命に別状はない。

最後の意識を振り絞ったのだろう……そう言うと魔法術士は気を失った。


奥?土石流の出どころか?


俺は男をそっと寝かせ、彼が来ていた魔法術士のローブを外す。

「この魔法術士のローブ、少し借りるぞ」

俺は気を失ったままの男に、そっと告げると外へ出た。


そして車外で待つマインたちを呼ぶ。

「ほとんどの大型モービルが土石流に飲み込まれた……だが車内にいれば当分の間は大丈夫だろう。しかし放っておいては命にかかわる」

そう話した俺は、土石流の更にその先を睨みながら言う。


「この先に何かがいるらしい。俺はこれからそこへ向かう。マインたちは他にも飲み込まれていないモービルがあるか調べてくれ」


「アーツ様」

「アーツ」

「旦那様」

3人は心配そうに俺を見つめる。


「……ここからは俺向きの仕事だ……行ってくる」

借りたローブをはためかせ、俺は空へと上昇する。


心配そうな3人を残し、俺は土石流の、更にその先へと飛ぶ。


◆◇◆◇◆


見えた!!!

確かに何かいる!……これは……まさか本当に鬼か!?


俺は両手に精霊術を発生させながら鬼の前に降り立った。


『ぐるおおおおお……』


鬼……と言っていいのだろう。

その生き物は褐色の肌に銀髪、額からは2本の角が生え濡れた光を放っている。

まさに『鬼』と言える姿形をしていた。

性別は女性なのか体型は美しく、胸とお腹が膨らみ、そのお腹からは鈍い光が放たれている。

そして俺を睨みつける血に濡れた瞳は、怒りよりもむしろ悲しみに濡れるように見えた。


「おかしい……?」

俺は鬼から目を離さず睨みつけながら、ある違和感を持つ。

「これは……精霊力?」

これは確かに精霊力だ!……目の前の鬼から精霊力が溢れている!!!

しかも、俺並みのパワーじゃないかあれ!?


『ぐるおおおおお!!!』

それまで静かに唸っていた鬼が力強く咆哮をあげる。

周りの地面が揺れ出し、崩れ出した土砂が山のように盛り上がり始めた!


「お前のその力!やっぱりそれ精霊力だろ!?」

俺の言葉など無視した鬼が突っ込んでくる!


「ちぃっ!やりたくないが肉弾戦かよ!」

覚悟を決めた俺は、両手に精霊力を込める。

そして水精霊と風精霊を身にまとい、鬼に向かって駆けた!


『ドッガーーーーーン!!!!!』


正面からぶつかり合う俺と鬼!

ぶつかり合う精霊力と精霊力!

その瞬間、俺と鬼の間で眩いばかりの閃光が弾けた!!!


「この光は!!!?」

俺の意識はその瞬間、過去に……飛ばされた。


◆◇◆◇◆


『これは……あれだな……あの時の古民家だ』

それはまだ異世界へと召喚される少し前の俺。

骨董品の本を開けて机に向かっている。

『ここで気を失うんだっけ……』

過去の俺は、本から放たれる『白と黒』の明滅する光に包まれていた。

『この時だ……目の前が白黒になって死ぬかと思ったんだ』


◆◇◆◇◆


急に場面が変わり、ひとりの女性が映っている。

『ん?エルフ?マインか?……いや!違う!誰だ?』

必死で祈るその女性は、たしかに耳の先も尖っている。

見た目は全くのエルフだ。

ただ決定的な違いがある……肌は褐色で髪は銀髪だったのだ。


◆◇◆◇◆


また場面が変わり……今度はマインが映っている。

マインも同じように祈り続けている。


マインの祈りとダークエルフの祈り……それら祈りが連続し交差するなかで、過去の俺は『白と黒』に激しく、そして目まぐるしく明滅している。

そしてついに光が爆発し……俺は召喚されたのだ・・・マインの元へ。


◆◇◆◇◆


『そうだったのか……』

いつの間にか意識が元に戻った時……俺はいつの間にか鬼に組み敷かれていた。


水と土の精霊が激しくぶつかり合ったのであろう。

水と土が混じり合い、辺り周辺は泥まみれで、湖のように大きな水溜まりになっていた。

俺たちも泥だらけで濡れていた。


「君は……エルフ……なのか」

俺は彼女を見上げながら言った。


黙る彼女に俺は続ける。

「君も……俺を呼んでいてくれてたのか……っ痛!」

俺を組み敷いた彼女の手に力がこもり、俺を掴む肩から血が流れる。


もう本能だけで動いているのだろう、その女性(ひと)は血の涙を流し、また身体は熱く興奮していた。


その姿を見て俺は悟る。

『これは……宝玉(ジュエル)が暴走している』

そしてこれを鎮める方法はひとつしかない。


俺は彼女に声をかける。


「遅くなってすまない」

俺は血を流しながらも彼女をしっかりと抱きしめる。


本能で暴走する彼女も、俺の首に顔をうずめ、肩に噛みつきながら強く抱きしめてくる。

俺はその痛みも気にせず、彼女の悲しみを包み込むように優しく抱きしめた。


そうして俺と彼女は結ばれた。


◆◇◆◇◆


しばしの時間が経ち……俺たちは正座で向かい合っていた。

暴走が鎮まった彼女……ティエラは今までの事を話してくれた。

ティエラの手には、琥珀色の宝玉(ジュエル)が握られている。


「最初に暴走したのは娘でした……」

ティエラには娘がおり、元々その娘と2人で静かに暮らしていた。

その娘が最初に鬼化、そして暴走ののち真っ赤な宝玉(ジュエル)を生み出したらしい。


「生み出された宝玉(ジュエル)の力は制御ができず、静かに暮らしていた私たちも、隠れ続けることができなくなったのです。そんなさなか噂を聞きつけた、ある国の王に娘が攫われてしまいました」

力なく話すティエラ。


「それが、あいつか……」

俺はまだ見ぬ火山国家フランマ王を、南海群島の方角を睨みつける。


「娘のために救世主様を望み、祈りましたがその願いも叶わず……私も鬼になってしまいました」

諦めた表情で涙を見せるティエラ。

そして力のこもらない手で、俺の手に宝玉(ジュエル)をぽとりと落とした。


ティエラを見て思う。

精霊への想い、娘への想い、様々なエルフたちの想いがひとつとなり、大きな想いに導かれて俺は召喚されたんだろう。

そして俺はマインの元へと召喚された。

俺は何もいう事が出来ず、ただ黙って宝玉(ジュエル)を本(ブック)に嵌めた。


『!!!!!』

俺たちを中心に琥珀色の光が全てを埋め尽くす!


流れてくる大地の精霊力!

俺はその時、琥珀色の宝玉(ジュエル)とは別に、遥か彼方に赤の宝玉(ジュエル)の存在を感じとっていた……。


◆◇◆◇◆


俺に宝玉(ジュエル)を渡し、全てを諦めたかのように表情を無くすティエラ。


「まだだ!まだだティエラ!」

そんなティエラに俺は力強く声をかける。


『……』

無表情で俺に顔を向けるティエラ。


「娘は無事だ!生きている!」


「!!!今なんと!?娘が!?」


「ああ!ティエラの宝玉(ジュエル)のおかげで娘の精霊力を感じる!!!」


「娘が……フィアが!!!」


言葉を失うティエラに俺は宣言する!


「ティエラ、俺は誓おう!必ずフィアを救いだす!」

俺の髪と瞳からブルーブラックの光が漏れだした。


「フィア!!!」

ようやく彼女の顔に笑顔が戻る。

彼女も泣きながら、俺も泣いていた。

ふたりで泣きながら笑顔だ。


ホッとしたのかティエラは子供のように泣きじゃくりながら、俺に飛び込んできた。

俺はティエラを受け止め、今度は優しく結ばれあった。


◆◇◆◇◆


「今のアーツ様からは、恐ろしいまでの精霊力を感じます。このお力ならば安心して娘を任せられます」

娘の無事に安心したのかティエラはだいぶ素の自分を取り戻せたようだ。

ただ暴走は鎮まったのだが……鬼化は解けなかった。

でもそんな姿であってもティエラはダークエルフの気品に溢れ美しかった。


そんなティエラを眺めていたかったが、こうしてもいられない。

俺はティエラに事情を伝え、そのままティエラをお姫様抱っこすると空へ舞い上がり、そのまま土石流の災害現場へと戻る。


心配する皆の元へと降り立った俺は、ティエラを紹介しこれまでの事情を話す。


「そんな事があったのですね……」

マインはそう言うと、優しくティエラを抱きしめた。


俺はティエラを皆に任せ、さっそく得た精霊力を行使するために空へと向かった。


さあ!救助の開始だ!

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