第24話 自信の源

クナイに見送ってもらった俺とワカは、甘味オイル原生林で甘味オイルの実と甘味ワインの実を積み込んだあと、ワカだけでハイドシップに乗ってもらい風精霊術で中央都市ミドルーンに向かわせている。

寄り道なしで向かわせるので充分1か月以内に到着できるだろう。


俺はひとり光速精霊術で先に中央都市ミドルーンに戻ってきた。

これから俺は、日中は北部地区、夜間はハイドシップと行き来しながら『な~が屋本家』の開業準備を進めていくつもりだ。


◆◇◆◇◆


「おかえりアーツ」

北部地区に戻るとリーファが駆け寄ってきた。


「ただいま、始まったようだな」

購入した廃屋は、俺が不在にした数日でいくつかのキックオフが始まっていた。

廃屋の周りでは大勢の職人たちがせわしなく動いている。


「うん、まずはドワーフの職人たちに依頼して改装工事が始まったよ!アーツの言った通り、ドワーフおやじの紹介状を渡したらすぐにOKしてもらえたわ!」

俺は光速精霊術でいくつかの拠点を行き来し根回ししておいたのだ。

他にも港町の漁業組合長にも根回ししてある。


「リーファ、マインたちは?」


「お母さんならラシェルといっしょに家の片づけ中よ、アーツがいつ帰ってきてもいいようにって、とても張り切ってるわ」

隠れ家は安全のために『家』と普通の名前で呼ばせている。


「そうか、それは楽しみだな!」

順調に進む改装工事を見ながら、俺とリーファは家へと向かった。


◆◇◆◇◆


「おかえりなさいませ、アーツ様♡」

「旦那様おかえりなさい♡」

俺が隠れ家に入ると、掃除をしていた2人が顔を上げ笑顔で迎えてくれた。


「ありがとう!2人とも!順調に進んでいてくれるようだな」

俺たちの隠れ家である『家』は、外からは目立たないままであったが、内部は居心地のいい居住空間と作戦会議室など拠点としては申し分ない造りで改装工事が進んでいた。

やたらと造り込まれた巨大なベッドと、これまた造り込まれた巨大なお風呂には驚いたが、ツッコむのはやめておこう。


俺はそんな2人を食堂に呼び、いくつかの拠点での活動とこれからについて話すことにした。


◆◇◆◇◆


「じゃあもう少ししたら『な~が屋』の若女将、ワカちゃんが来るのね」


「ああ、ワカが到着しだい『な~が屋本家』で女将としてスタートしてもらう。それまでに進めておいて欲しいことがある。マインとリーファは引き続き『な~が屋本家』の改装工事と開店準備を進めてくれ」

俺は話を続ける。


「そしてラシェル、お前には頼みたいことがある。この地区の人材の採用を進めてほしい。この地区の亜人は普段から無気力と称され人間を怖いと思うかもしれない。そこで同じ亜人のラシェルに人材の選抜をして欲しい。大丈夫、俺がついてるから安心して進めてくれ」

俺はそう言って、ラシェルに亜人と老エルフの採用担当になってもらった。


「はい!旦那様の為とあらば!命にかえてもやり遂げてみせます!」

そこまで思いつめなくて良いんだが、念のために老エルフ採用についてはマインたちにもフォローに入ってもらう事にする。


俺はそこまで話し、少し緊張気味の皆を男の手料理で労うことにした。


◆◇◆◇◆


「これが『焼き鳥』?凄く美味しいわね!……モグモグ」

「ええ!『たれ』も『塩』もそれぞれに味わいがあって美味しいですわ!」

「ラシェルはこの魚の照り焼きがとっても好きな味です!……モグモグ」

隠れ家の食堂で、賑やかな食事の音が流れる。


「気に入ってもらえて嬉しいよ。『な~が屋別邸』でも大人気のメニューだし、これから『な~が屋本家』でも出そうと思っている」

良かった、ラシェルの緊張も少し解れたようだし宿のメニューとしても合格みたいだな。


そうして俺たちは決起大会を終え、俺たちの作戦のキックオフを開始した。


◆◇◆◇◆


「だ、だ、旦那様ーーー!!!」

ラシェルが泣きながら俺に飛び込んできた。

これで3度目だ。


キックオフから1週間が経ち、準備は順調に進んでいる。

もう1度言おう、準備は順調だ。

ワカが乗るハイドシップも順調にこちらに向かっている。

予定よりだいぶ早くこちらに着きそうだ。


マインも順調、リーファも順調、ラシェルも順調だ。

ラシェルは泣いているが……順調なんだ。


ただ……ただラシェルは優し過ぎる子だった。

順調に進めてはいるが、たまには泣きたいこともあるのだろう。

だが俺はそんな経験を経て、ラシェルには自信を付けてもらいたいと考えている。


さらに、あと少ししたら、討伐『砂嵐作戦』も始まる。

ラシェルに自信を付けてもらい、俺たち『盾と弓』パーティも戦える状態にしておきたかった。


「ラシェル、お疲れ様。いつもありがとう」

俺はいつものように、胸の中で泣くラシェルが落ち着くまで頭を撫でてあげた。


「旦那様、ラシェルは強くなりたいです……」

落ち着いたラシェルは、俺の胸の中で呟く。


「大丈夫、ラシェルはもう充分に強い。俺はラシェルの強さを信じている。あとは少しの自信だけだな」

俺はそう言うと、ラシェルの髪を優しく撫でてやった。


「はい!ラシェルは自信を付けたい!ですので旦那様の力を少し分けて欲しいんです!!!」

耳まで真っ赤にしたラシェルは、そう訴えながら、なぜか俺の上着を脱がし始めた。


「お、おい!?な、なにを!?……うっ、動かねー!!!」

力を分けて欲しいって……お前めちゃくちゃ力あるじゃねーか!!!


「旦那様?求愛してくださいましたよね?あの時、冒険者ギルドでの甲羅へのキス……初めてのキスだったんです!私の種族は結婚までは純潔を守らねばなりませんが、お口でなら……初(うぶ)ですが頑張ります!」

と言い、ラシェルはマウントで俺を抑え込んだまま服を脱ぎ始めた。

お前のどこが初(うぶ)だ!目が捕食者になってないか!?舌なめずりしてるぞ!


「きゃあ!♡恥ずかしいので見ないでぇ!」

自分で脱ぎながら可愛く恥ずかしがり、ラシェルは俺に目隠しをしてくる……その巨大な甲羅でもって。


「お、重い……く、暗い……」

巨大な甲羅で、頭から上半身までスッポリ覆われた俺は、身動きできない暗闇の中にいた。


ゴソゴソ、ゴソゴソ。

『うおっ!!!』

唐突に感じる下半身への違和感……脱がされてるぞこれ!!!

腰から上が甲羅で下半身が丸裸ってどういう状況だよ!!!?


「私、旦那様に喜んでもらえるように精いっぱい頑張ります!!!」

ラシェルが何か言ってるようだが甲羅の中では聞き取れない。


『お、落ち着けラシェル!!!た、助けて!だ、誰かーーー!!!』

俺の叫び声も、もごもごとしか外に漏れず伝わらない。


◆◇◆◇◆


その後、たまたま隠れ家に来たリーファに救出されるまで、俺は搾られつづけたのであった……。


……合掌。


◆◇◆◇◆


「ご、ごめんなさい!」

俺を救ったリーファに叱られ、しゅんとするラシェル。


「ま、まったく!わ、私もそこまでしたことないのに……羨ま……」

真っ赤になりながらラシェルを叱るリーファに説得力はなさそうだ。


「ごめんなさい、嬉しくてつい……マイン様の教えていただいた方法が凄くて……」

たくさん搾り過ぎちゃいました!『てへっ』と舌を出すラシェル。


「な!?お母さんなの!?……まったく。まあいいわ……今度、わ、私にもやり方教えなさいよね」

おい、リーファ!途中から全然お叱りモードになってないぞ!


「でも、おかげさまでラシェルは自信がつきました!旦那様ありがとうございます♡」


自信?ついたのか?あれで?……俺は訝しげになりながらも、本人がそう言うのでよしとすることにした。


「とりあえずは自信がついたようで良かった。大変だとは思うが引き続き、スタッフの人選宜しく頼む」


「はい!」


気持ちいい返事をするラシェルの姿に俺は安心して自分の仕事に戻った。


◆◇◆◇◆


数日後、俺はハイドシップで到着目前のワカを迎えに行き、船を隠したあと行商人として東門から入った。

検問所では荷物の多さと希少性に驚かれたが仕方がない。


さあ、ついに『な~が屋本家』のオープンだ!!!

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