第23話 若い?若くない?
◆◇◆◇◆
「あ!若旦那様!おかえりなさいませ♡」
もう俺の突然の来訪にも慣れたのか、若女将は俺を見かけるとダイブしてきた。
「た、ただいま……おっと!」
俺は若女将のダイブを必死で避ける!
そう、必死なのだ……必死で避けないとマジで命にかかわるぞこれ。
「若女将、お前会うたびに強くなってないか?」
俺は、若女将がダイブして激突し真っ二つに割れた巨大な庭石を見つめながら聞く。
「えへへ♡若旦那様のおかげで私、いつも元気いっぱいです♡」
俺なにかしたっけ?……笑顔が眩しい若女将だが、これ元気ってレベルじゃないぞ。
「ま、まあ元気でなによりだよ。それより宿も順調そうだな!」
俺は気を取り直し、宿の様子を見ながら感心した。
な~が屋は俺の予想を超えて大繁盛していた!
若女将に伝えておいた繁盛作戦を、彼女は忠実に遂行してくれたようだ。
泊り客、日帰り客、食事客、買物客など、様々な集客に対応し、な~が屋はこの街一番宿に成長したようだ。
スタッフも増やし、様々な種族の客に対して柔軟に対応している。
「これは素晴らしいぞ!良くやったな!若女将!」
俺は素直に若女将の偉業を褒め称え、しばし宿の様子を見学させてもらう事にした。
◆◇◆◇◆
「悪いな、忙しいのに時間をとってもらって」
俺は若女将に時間をとってもらい、話をすることにした。
「若旦那様のお呼びとあらば!それにご指示の通りスタッフも増やしておりますので少しくらい大丈夫です」
「そうか……そんな若女将に折り入って話があるんだが……」
俺は中央都市ミドルーンの状況と、そこでこれから進める計画について若女将に話した。
「……そういう訳で今は中央都市ミドルーン北部地区に購入した宿屋街の開店準備を進めている。その新しくオープンする宿だが『な~が屋』の2号店にしようと思っている。そこでだ、この『な~が屋』本店管理スタッフを2号店の店長として連れて行きたい」
俺はそこまで話し、若女将の様子を見ながら返事を待った。
俺の言葉に黙り込む若女将。
「それ……私じゃダメですかね?」
しばらく考えていた若女将がぽつりと言う。
「ん?流石にトップが抜けるのはマズいんじゃないか?何か策があるのか?」
若女将の真面目な顔を見て、俺も元経営者として真面目に答える。
「私……若旦那様のおかげで宿を繁盛させることができました。そして私も宿と共に成長してきたと思います。そして今度は大都市での2号店計画!ぜひ私も共に北部地区を盛り上げたいです!若旦那様のお役に立ちたい!」
若女将の成長に驚きつつも嬉しくなる俺。
「それはとてもありがたいが……この宿はどうするんだ?管理スタッフに任せるのか?」
俺の質問に、若女将は更なる追加提案をしてきた。
「中央都市ミドルーン北部地区の『な~が屋』ですが、私も行くことですし、思いきって『な~が屋本家』にしてしまうのはいかがでしょうか?そしてここ、元本店を2号店にすれば、本家の箔がつくと思います」
「……なるほど!良いアイデアだ!さすが若女将!……だがそうなるとこの宿の『2号店』って名前も味気ないな……地方のリゾート地、たとえば『な~が屋別邸』もしくは『な~が屋離れ』なんて名前はどうだ?」
「さすがは若旦那様!素敵な名前です!それなら本店の地位を譲っても、この宿は輝きます!」
やっぱり経営の話は楽しい!俺は久しぶりに経営談義を楽しんだ。
そしてここ、元本店の名前は『な~が屋別邸』に決まった。
「あとはこの別邸の管理者だが、若女将にかわるような優秀人材となると……」
俺が頭を悩ませていると……。
「それなんですが、実はご紹介したい人がいます……ですがその人はずいぶん前から病弱で寝たきりなんです。ですが!ですが若旦那様ならなんとかなると思います!」
若女将は、そういうと俺を案内しようと立ち上がった。
「そ、そうなのか?だが病弱なら宿の管理は大変なんじゃ?」
俺は若女将に案内されつつも、心配になる俺。
「大丈夫です!私が元気になれたので!……こちらです」
よく分からない自信たっぷりの若女将。
その案内で連れてこられたのは大広間の前だった。
「凄く広い座敷だな!こんな場所があったのか……でも真っ暗で奥が見えない。こんな場所に人がいるのか?」
ふすまの間から覗く暗がりを前に俺がビビっていると、後ろから若女将が……。
「それでは行ってらっしゃいまし!!!」
ドーーーン!!!
「うぉっ!?」
俺は背中を突き飛ばされ、大広間の奥……暗がりに吹っ飛んでいった。
『ばふっ!!!』
……ん?柔らかい。どうやら着地したのは布団の上のようだ。
これは!最高級の羽毛布団!と俺が布団の寝心地に感動していると……。
『ずるり……ずるり……』
ん?なんだこのデジャヴ感は?めっちゃ怖いんだが……。
ビビって固まる俺に、何かが覆いかぶさってくる!!!
「……娘がいつもお世話になっております。」
俺に覆いかぶさる何かは、甘い吐息をただよわせて俺の耳元で告げた。
「わ、若女将の母親か!?」
暗がりに慣れてきた目に映る女将は、若女将が美しく成長したような姿をしていた。
病弱のせいなのか青白い肌が妖しく光り、この世のものと思えない幻のように映って見えた。
「はい、このような病弱なわたくしにアーツ様のお力をいただけるなんて、精一杯ご奉仕いたしますわ」
そう言いながら俺にしなだれかかる女将は、火照る身体でマインのような妖艶な大人の色気を醸し出していた。
そのまま俺の服を脱がしにかかる女将……ほんとに病弱なのか!?
そしてずっしりと重く柔らかい何かを、俺の胸板にねっとりと押し付けてくる。
エロい彗星か!?『娘とはちがうのだよ!娘とは!』というセリフを目で語る女将。
ヤバい!逆らえない!これが元祖の力(テクニック)か……。
そしていつの間にか俺は布団のなかに全身ずっぽりと引きずり込まれ、全くの暗闇のなか汗だくになりながらもてあそばれ、捕食されるのであった……。
……合掌。
◆◇◆◇◆
「若旦那様!若旦那様!」
「うっ……若女将か?ここは?」
……あ、そうか、俺、あのまま寝ちゃったのか。
昨日たっぷり搾り取られたあと、そのまま気を失ってしまっていたようだ。
俺は、布団の中で『うーん』と伸びをする。
「痛っ……」
昨日あんな事があったせいか全身筋肉痛だ……しかしこの筋肉痛も心地よいと思ってしまうのは、女将のなせる業(わざ)か男の性(さが)か。
女将が俺の隣に寝ているのは分かるが……ん?なぜ若女将まで俺の隣に寝ている?
「えへへ♡私のご相伴にあずかろうかと思いまして♡」
……ご相伴にあずかられちゃったの?俺。
そして反対へ首を向けると、女将の妖艶な笑みが俺を見つめていた。
俺の左手に腕を絡めしなだれかかる女将の身体が熱い。
ん?昨日は病弱で幽鬼のように見えたのに、今朝の女将は青白さが艶っつやにテカっている!
絡めてくる腕もめっちゃパワフルです!
「何だか知らないが……げ、元気になったんだな、女将」
そんなパワフルな2人に挟まれた俺は、仕方なく川の字のまま、女将に向けて昨日の計画の話をした。
◆◇◆◇◆
「若女将、じゃあこの『な~が屋別邸』は女将が復帰して管理してもらえるということでいいんだな?」
「あら?わたくしが『な~が屋本家』に行ってもいいのよ」
女将が妖艶な笑みを浮かべ、娘を流し見る。
「ダメです!若旦那様のお側には私が参ります!!!」
若女将は、そうはさせじと母を睨みつける!
「俺は若女将でも女将でも、宿が安定すればどちらでもかまわないんだが……」
と話したところで、ふと重要な事に気づく。
「なあ若女将、女将も復帰してくれたのはありがたいが、2人とも女将職だから呼び方がややこしい。2人の名前を教えてくれないか?
「…………」
「…………」
じっと俺を見つめる2人……心なしか2人の目が虚ろだ。
幾ばくかの時間が経ち……。
……お前ら、何も考えてないだろ?
「もしかして名前……ないのか?」
仕方なく聞く俺。
「はい」
「はい」
そこは2人とも即答なんだな。
「じゃあ分かりやすくしたいから名前を決めてくれ」
じっと俺を見つめる2人……完全に何も考えてないなこれ。
「分かった、じゃあ俺が名付けるぞ!」
「はい」
「はい」
なぜか顔を赤らめる2人。
「じゃあ若女将は『若い女将』だから『ワカ』……女将は『若くない』から『ワカクナ……』痛てっ!!!」
と、ここまで言ったところで女将が絡める腕が、万力のように俺を締め付けてきた!殺される!
「わ、分かった!若くなくないよね!……なくなくない『クナイ』でどうだ?」
女将は笑顔で締め付けていた腕を緩めてくれた。
「ふう、じゃあワカ、そしてクナイ、改めてこれから宜しく頼む」
『はい若旦那様♡』
2人は仲良くハモる。
俺はそんな2人に挟まれ、腕を抱かれながら、次の作戦を話し始めるのだった。
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