第22話 冒険者ギルド

冒険者ギルド本部は中央都市ミドルーンのちょうど真ん中にある。

正確にはど真ん中には魔法術協会本部の巨大な塔があり、冒険者ギルドはその隣に控えめに建っている。


魔法術協会の塔が大きすぎて冒険者ギルドが小さく見えるが、実際は冒険者ギルド本部も巨大な建物ではあった。


この辺りは中央都市ミドルーンにおける集権的エリアであり、大小様々なギルドが立ち並ぶ。

少し離れたところにも巨大な建物があり、こちらは国連会館だ。


俺たちは今、人間種族の冒険者に偽装し冒険者ギルドに来ていた。


◆◇◆◇◆


「あなたたち……後衛職ばかりじゃないですか!!!」


「自慢じゃないが俺は弓が得意だ」

「わたくしも」

「私もです!」

俺たちが、自信をもってそう言うと、ギルド職員は顔を引きつらせながらツッコんできた。


「なに自信に満ち溢れてるんですか!……前衛職を仲間にされることを強くお薦めします!」

ギルド職員は、どうも俺たちだけでの冒険者登録に難色をしめしているようだ。


まあ、森での実戦は精霊術以外では「弓」だけだったからなぁ。

俺たちがギルド職員を前に悩んでいると……。


「あ、あの……もしかして冒険者を探されてますか?」

俺の後ろに、ひとり少女が立っていた。

初めて見る種族だな……緑色の髪と目のボーイッシュな少女だ。

リーファより、少し若そうだな……。


「ああ……君は?」


「はい、私はラシェルと言います。実は……村を出て冒険者ギルドにクエストを発注しに来たんですけど、今は討伐準備で人手が無いらしく……でも村に帰ろうにも砂嵐がひどくなったそうで帰れなくて」

そうこうしているうちに路銀も尽きかけているらしい。


「そうか、俺はアーツと言う……それで、どんなクエストを発注しようとしてたんだ?」


「はい、私たちは『アクアイド』という種族なのですが、村にひとつしかない湖がグラウンドボアに占領されてしまい、水が得ることができなくなってしまって。そこでグランドボアの退治を発注しようと……」

どうやら彼女の村を、猪のモンスターが村を困らせてるらしい。


「……私たちの種族は水がないと生きていけない種族なんです」

と言いながら、少女は背中を見せる。

ん!?……これって甲羅!?だよな。

アクアイドって『河童』の種族なのか……それで水が必要的な?

頭に皿は……無いな。


「よいしょっと」……ズシン!

さらに少女はその背中の甲羅を脱ぎ、ズシリと前に置いた。

え!?脱げるの?ランドセルみたいなものなのか?


俺は興味が出て、ラシェルの甲羅を見せてもらう……デカっ!そして硬い!しかもこれめちゃくちゃ重くないか?床にめり込んでるぞ……じゃあこの甲羅を軽々扱うこの子のパワーっていったい。


俺はあることを思い付き、ラシェルに聞いた。

「ラシェル、この甲羅って戦いの時に使ったりするのか?」


「は、はい、私たちは戦闘では攻め手の少ない種族ですが、この甲羅のおかげで守りには自信があります!」


「思った通り盾職だったか!ラシェル、よかったら俺たちとパーティを組まないか?もちろんラシェルが村に帰るまででもいい」


「はい!わたしもこれからどうしようかと途方に暮れてましたので助かります!」


「俺たちも助かったよ!これで冒険者登録ができる!」

嬉しくなった俺は、軽い気持ちで甲羅にチュッとキスした。


「な!?な?!なんですとーーー!!!?そんな!わ、わたし、こ、心の準備が」

突然ラシェルが顔を真っ赤にし、バグったかのように慌て出した。


俺は、そんな真っ赤な顔で悶えるラシェルに驚きつつも、ギルド職員にさっそく冒険者登録を申し出る。


「前衛の盾職に弓士が3人……弓士の女性は母娘(おやこ)ですか?珍しいですね」

何気なく言ったギルド職員の言葉……。


「し、姉妹!姉妹です!!!」

マインが過剰に反応する!


「か、かなり異色の組み合わせですが、まあ良いでしょう。それでパーティ名はどうされますか?」

そんなマインの勢いに顔を引きつらせながらも、ギルド職員は職務をこなしていく。


パーティ名?そんなのいるのか?

「じゃあ『盾と弓』で」

即席の期間限定パーティなので、これでいいだろう。


その後、ギルド職員に今回の討伐部隊への参加登録もしてもらい冒険者ギルドでの用を済ませる。

「では、今回の討伐『砂嵐作戦』の募集締め切りが1か月後ですので、1か月後の出発の際には、西部地区の正門前に集合してください」


「1か月後か……ラシェル、すまないがそれまで大丈夫か?」


「はい、それくらいは大丈夫です……だ、旦那様♡えへへ♡」

ん?なに言ってるのこの子……な~が屋の若女将といい、旦那様って呼ぶの流行ってるのか?


そう思う俺の隣で、何故か俺をジト目で睨むリーファの視線が痛い。

マインは姉妹という言葉に喜びを噛みしめていた。


皆の状態に収拾がつきそうにないので、俺は皆で簡単に自己紹介を済ませ、ギルドを出た。


◆◇◆◇◆


「よし、時間はあと1か月ある。その間にこの北部地区で出来る事を進めておくぞ」

北部地区に戻った俺は、いくつかの内容を皆に伝え、説明していく。

これから1か月の間にやることは以下の通りだ。

もちろん1か月しかないから、その仕掛けがメインだがな。


【拠点確保】

この北部地区に俺たちの拠点……いわゆる隠れ家を作り、裏から手が回せるようにしておく。それと同時に表に顔を出す拠点も作るが、基本そこは俺たちとは無関係な施設にし俺たちは表に顔は出さない。


【収入確保】

表の拠点ができたところで、そこを使って収入を上げていく。

今は討伐作戦の募集期間と言うこともあり、これからも中央都市ミドルーンには冒険者たちが訪れることだろう……そういったのも含め、この都市の内外から収入を確保していく。


【採用選抜】

収入確保が進むと当然人手不足に陥る。そこで北部地区に無気力状態で眠っている人材に目を覚ましてもらって共に働き給与も支給する。そうすることで北部地区内にもお金が回るようになり、地区内そのものの収入確保に繋がる。


【北部復興】

上記の仕組みが自然に流れ出すと、今まで真っ暗だった北部地区にも少しづつ明かりが灯るだろう。この復興により街に明かりが灯り、そこに暮らす人々にも明かりが灯る。俺はそう願っている。


俺がそこまで説明すると……マインは涙を流していた。

「はい、きっと姉さんも喜んでくれると思います」


「アーツ、ちょっと格好いいよ」

リーファがそう言いながら、恥ずかしそうに腕を組んできた。


「まあ、以前いた俺の世界は、災害なんかが多かったからな、そういう事態に対する復興支援のノウハウは進んでいたと思う。もちろんこの世界の状況や使える資源は違うが、どの世界でも復興は同じだと思う……まあ多少は変化球を使うかもしれないが、進めていくさ」


「凄いです!旦那様!私たちの村にも希望が見えてきました!」

ラシェルも俺の話に目を輝かせている。


どうやら皆も理解してくれたらしい。

よし、早速行動開始だ。


◆◇◆◇◆


幸い北部地区はほぼ無法状態でもあり、拠点の確保はスムーズに行えた。

北部地区の入り口付近の廃宿、廃酒場、廃商店など、廃屋となっている建物を軒並み購入していく。

不動産屋も不良在庫の整理ができると大喜びで安く手放してくれた。

これで表の顔である拠点を手に入れることができた。


そのあと俺たちが住まう予定の隠れ家も手に入れた俺は、マインたちに拠点の開店準備を進めてもらう。少し別行動になるが、光精霊術の偽装と多めの精霊玉を渡してあるので大丈夫だろう。


そして俺は続いて収入確保の布石を打つため、ひとり中央都市ミドルーンを出た。

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