第21話 北部地区

俺たちは都市内高速道を馬で駆けていた……。

さすが中央都市ミドルーン、空から見たデカさは半端じゃなかった!

あのまま歩いて北部地区に向かえば、到着するのに1週間はかかっていただろう。


その大きさのためか、中央都市ミドルーンには都市内に高速道路が整備され、高速道では馬や馬車、魔法術モービル……車か?などが街中では出せないスピードで爆走していた。


こりゃ前世界のハイウェイと変わらないな。

俺はこの世界の繁栄の一部を垣間見たような気がして嬉しくなった。


それにしても……バスのようなサイズの魔法術モービルもかなりの数が走っていたが、そこには兵士や冒険者の姿が数多く見ることができる。


「……戦争でもあるのか?」

近代化の繁栄のように華やかな裏で、都市では物騒な雰囲気も醸し出していた。


休憩を挟みながら丸1日馬を走らせ俺たちが高速道を降りたのは、もう日も暮れようとする夕飯前の頃だった。


ここはまだ東部地区だが、北部地区まではもう目と鼻の先だ。


「馬たちも疲れている、北部地区を見るのは明日にして、今夜はこの辺りで宿をとろう」

俺は2人に伝え高速道の降り口にある宿を見上げた。


高速道のインターチェンジがある東部地区は、これから夜の賑わいを見せようと街明かりが煌々と灯りだし、心躍る気持ちになったが、その反面ここから見える北部地区は、ほとんど街明かりも見えず薄暗いまま夜を迎えようとしている。

そんな北部地区を、マインはどこか悲しそうな眼差しで見つめていた……。


「……マイン?」


「いいえ、さあ宿に向かいましょう、アーツ様」

マインはいつも通りの笑顔に戻り、俺とリーファを宿へ促した。

そんなマインが気になったが、心に留めておくことにし、俺も気持ちを切りかえていつも通りのマインに合わせた。


◆◇◆◇◆


宿はゴージャスだった!いろんな意味で!大人な意味で!

前世界でも高速道路のインターチェンジ付近には、ゴージャスなホテルが建ち並んでいた。

……異世界でも同じ意味なのだろうか。


◆◇◆◇◆


マインたちはぐっすり眠っている。


マインが選んだ宿はゴージャスだった!

お風呂もゴージャスでベッドもゴージャスだった!

ディナーは部屋食で、なぜかドア中央の小扉を開け、お互いの顔を見ずに料理を受け取れる仕組みになっていた……ん?まんまあのホテルじゃないのか?


マインたちは部屋のスペシャル感に大喜びで盛り上がり、なぜか3人でお風呂に入り、そのまま大きなベッドに3人で入った。


その後は……分かるだろ?

俺も久しぶりのアミューズメントな部屋に燃えた!燃えに燃えた!

何か思いを秘めるマインは、俺を離すまいと柔軟な身体でしっかりしがみつきながら気をやった。


その結果、マインたちは気を失うかのようにぐっすり眠っている。

そんなマインたちの汗だくの身体をふいているうち……目が冴えてきた俺は、街へと繰り出すことにした。


異世界のアミューズメント宿の商才に感心しながら歩いていると、酒場が並ぶ通りに到着。

俺はそのなかで冒険者などが数多く出入りしている酒場を選び、扉をくぐった。


冒険者が多くいるその酒場は、荒っぽくも華やかに賑わっていた。


◆◇◆◇◆


「お前、おのぼりかぁ?遅れてる奴だなぁ!」


「ああ、ずっと田舎ばかり行商してきたものでね、北部地区については聞いてた話と全然違うので驚いたんだ……見目麗しいエルフ街が楽しみにしてたのになぁ!」

俺は酔いが回った冒険者グループに酒をおごりながら、北部地区について聞きこみをしていた。


「聞いてた話!?わはは、それ御伽話じゃねえのか?まともなエルフなんぞ随分前からいねえぞ!北部地区に行ってみろ!年寄りエルフばかりでガッカリすること受け合いだぜ!」

話を聞いていくと、おおまかに整理できた。


精霊力の低下と共に、力を失ってきたエルフは、ある頃から姿を消し始めた。

今残されているのは、精霊力が無くなってしまった年寄りエルフだけらしい。



……以前マインが言ってた、エルフたちが精霊界へ旅立った事と関係があるのか?……俺がそんな風に考えていると。



「お前、そいつのいう事も確かだが、今の北部地区は年寄りエルフだけじゃない、いろんな種族の吹き溜まりだぞ!今じゃあ北部地区は「無力地区」いや「無気力地区」だったか?そんな呼ばれ方だぜ!」

と、他の冒険者も北部地区について酷評してきた。


「そうなのか……エルフは諦めるかぁ」


「お前も商人なら、今は甘味オイルなんだろ!?商業ギルドが沸き立ってたぜ!」


「いやぁ、俺みたいな小商いじゃあ、あんな超高額商品には手が出せないぜ」


「ははっ、違いねぇ!だがアタイ達も冒険者だ!討伐の成功報酬でひと舐めくらいしたいもんだねぇ」

と言いながら、隣のテーブルから歩いてきた女冒険者が俺の後ろに立ち、ぐびぐびと酒をあおる。


「討伐!?また物騒な話じゃないか?」

俺は女の言葉に大仰に驚き、隣のテーブルも巻き込んで話を聞くことにした。


「なんだ?お前おのぼり過ぎるだろ!それも知らないのか?今は討伐と甘味オイルの話で街は持ちきりだぜ!」

そうして冒険者たちの話は尽きることなく、俺と冒険者たちは酒を酌み交わすのであった。


◆◇◆◇◆


『うう、頭が痛い』

どうやら異世界でも二日酔いは同じらしい……先日マインたちに説教した手前、俺は何とか虚勢を張っていたのだが……。


「アーツ、お酒は飲んでも飲まれるな!でしょ」

リーファが笑顔で歌うように言う。


「耳が痛いな……ちょっと冒険者たちと話し込んでしまった」

俺は昨日聞いた多くの情報を頭で整理しながら、酔いを覚ませるためマインに紅茶をいれてもらう。


そうして少し落ち着いたところで、2人に昨日の事を伝える。

特に北部地区の現状については、マインには何か思うところもあるらしく俺も慎重に言葉を選んだ……。


そして俺たちは宿をチェックアウトし、今は北部地区内を歩いている。

無気力地区……冒険者たちの言った通りだな。


そしてマインはそんな地区を歩きながら、ぽつりぽつりと話し始めた。


「北部地区のエルフの事はおおよその事は気づいておりました。でも実際に目にすると、辛いものですね……アーツ様、実はわたしには姉がおります……」

マインの姉は特別な精霊を使う才女であったらしく、この北部地区の実質的な取りまとめ役であったようだ。


「お姉さまは、精霊力が無くなりつつあるのを憂い、何もできない自分に嘆いておりました。そして東ミズラフ深森林のエルフたちが精霊界へと向かった時……時を同じくして、姉も北部地区のエルフたちで問題の解決に向けて動いたのだと思います。」


「その結果、解決には至らず、今世界のエルフのほとんどが消えてしまったという事か……」


「はい……私たちだけになっちゃいました」

目に涙を浮かべたマインが俺を見上げる。


俺は、そんなマインの頭にポンと手を置いて言った。

「マインの姉さんの愛した街だ、なんとかしてやりたいな」

……ふむ、何とかできるかもしれない。


涙を流しながら俺を見上げるマインに向けて、話を続ける。

「聞いてくれ、まだ話の途中だったが冒険者たちの話によると、これから1か月ほど後に、西デューシスに向けて討伐部隊が派遣されるらしい。それがちょっと気になる内容なんでな、俺たちも討伐隊に加わろうかと思っている」


どうやら西デューシスでは鬼?が暴れまわり、砂嵐?土砂嵐を巻き起こしているらしい……鬼ってなんだ?しかも精霊力が低下しているのに何故そこまでの嵐が?

俺は冒険者に加わり、情報収集をしながら進もうかと思っている。


「討伐隊が編成され、出発するまでにまだ時間がある。その間にこの北部地区に復興の仕掛けを作っておきたい……まあ討伐隊に加わるためには冒険者登録も必要なんだが」


俺は2人に話しを続けながら、中央都市ミドルーンのど真ん中に位置する『ギルド地区』に向かうため、馬に乗りこむのであった。

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