第19話 新たな宝玉(ジュエル)

……そろそろ1か月が経とうとしている。

あのあとマインたちも回復し、若女将たちに見送られた俺たちは、順調に空の航路を進みいくつかの街を越えて、現在は中央都市ミドルーンの上空にいる。


……道中、空や森でのモンスターハント、街では小商いを繰り返した俺たちは、当面の資金も確保し、荷車など行商物資も購入することができた。


遥か眼下に望む中央都市ミドルーン……それにしても凄まじい大きさだ!

ヨーロッパ辺りの……ちょっとした国くらいあるんじゃないか?

そして上空からの眺めでかなりの城郭都市であることが分かる。


都市全体が分厚い城壁で囲まれ、城壁の上には幾つもの望楼が見える。

そこでは幾人もの兵士が絶えず見張りをしていた。

念のため暗くなるまで待ってみたが……松明が焚かれだしている。

どうやら24時間体制のようだ。


これではハイドシップで空からの侵入は難しいな……まあ正規の手続きで入らないと行商もできないだろうから、陸路で入るしかなさそうだ……。


ただ問題は、どうやってマインたちを連れて入るか?だな。

……俺は中央都市ミドルーンを目前にし二の足を踏んでいた。


今、マインたちは高高度の空に浮かべたハイドシップの寝室で休んでいる……今朝から少し気分がよくないようだ。


俺は空に浮かんだまま、煌々と夜を照らす中央都市ミドルーンの街明かりを眺めていた。

入るとするとこのまま行商人として東門からのルートだな。


人間が多い東部地区、亜人がメインの西部地区、南海群島に面した海の玄関口である南部地区、これら3つのエリアは夜になっても昼間のように輝いていた。

ん?……北部はエルフの地区だったはずだが……俺は本(ブック)を確認する……しかし北部エルフ街の明かりはほとんど無く、空から見ると暗く濁っているかのように見えた……。


……別れ際のドワーフおやじの言葉が蘇る。

『お前!中央都市ミドルーンは国家よりも強い力を持っとるぞ!そこを牛耳るのは隣接した強豪国家たちで構成された『国連』じゃ!大きすぎてわしら庶民にはよく分からん組織じゃ!……そしていつか来るかもしれぬ世界への脅威に備えておるうちに、あそこまで巨大な都市になったそうじゃ。じゃが今は精霊力減少の影響で、国連とその周りの中堅国家たちもギスギスしとる……気ぃつけろよ』


国家よりも強大な中央都市ミドルーン……何者も崩すことのできないその巨大都市は、世界平和のために、現れるか分からない仮想敵に対抗し続けるうちに、都市である自分自身が世界の敵になってしまうほどに成長してしまったのかもしれない……。


鎧は頑丈だから外から傷を負うことはないが……中の人間が病気になってしまうと簡単に倒れてしまう……そんな危うさを感じた。


……その世界の病が『精霊力の消失』ということなのだろうか?


おっと、少し語ってしまった。

柄にもなく少し真剣に考え事しすぎたせいか喉が渇いた、マインたちは大丈夫かな?

……と俺はハイドシップに戻ろうと船の方を見上げたとき……。


……船が光ってる!!!?

な、なにーーー!!!?


「なっ!?とにかくヤバい!!!」

かなりの高度なので街からその光を視認はされないだろうと思いながらも、俺は焦ってハイドシップに戻り甲板に飛び込んだ!


「ア、アーツ」

「アーツ様」

船の甲板に2人が立っている……ん!?ん!?光ってるよね!


2人のお腹が!!!


光っていたのは船じゃなかった……マインたちのお腹だった!!!

「うふふ」

「えへへ」

その光に照らされて2人の照れ笑いが見えた。


「とりあえず船内に戻ろう!」

この光は目立ちすぎる……俺は甲板の2人を連れて船内寝室に戻った。


『……それにしてもいったい何が!?』

と考えようとする俺に暇を与えることなく2人が声をそろえる。


「う、生まれそう……」

「う、生まれますわ♡」

苦しいながらも嬉しそうにハモる2人。


「……ですよね」

俺はとにかく急ぎ2人を船室のベッドに寝かせる。


「アーツ、来て♡」

「アーツ様♡」


……はい


俺は刺激しないよう2人の間にそっと寝ころんだ。

と、すぐさま2人は俺に全身を絡めながら密着してくる。

2人の身体が熱い……少し苦しそうだ。

俺はしっかりと2人を抱き寄せた。


「アーツ様、私たちをしっかり抱きしめていてください!」

……抱きしめる2人に力が入る!


『!!!』

その緊張が最高潮に達したとき、眩い光が2人のお腹から発せられ!!!……目を開けると俺たちの前に、新たな宝玉(ジュエル)が現れていた……。


◆◇◆◇◆


そうして翌朝になり……俺たちは船の甲板に出ている。


「マインとリーファの2人が光輝いたはずだが宝玉(ジュエル)はひとつだけ……」


……これはどういう事なんだろう?

宝玉(ジュエル)を手に考える俺に、マインが自信を持って答える。


「3人で1つ……これは愛の結晶ですわ♡」

マインは疑うことなく宣言する。

その言葉に呼応するように、宝玉(ジュエル)は光り輝いていた。


そ、そういうことなのか?……でもまあ、マインの言うように、きっとそう……なんだろうな……あの時は3人の息がぴったり合った酒池肉林だったし……。


「3人の結晶……一心同体か」

2人が見守るなか、俺は光輝く宝玉(ジュエル)を本(ブック)に嵌め込んだ……。


お馴染みの絶頂感・射精感が俺を襲う!

朝日の日を浴びても俺の身体の輝きがはっきり見えた。


そして新たなる精霊力が俺の中を駆け巡る!!!


俺は、興味津々で見守る2人の前で新たな精霊力を行使する。


「えっ!?……えーーーーっ!?」

目を大きく開け驚くリーファ!マインも隣で驚いている。


俺はマインたちの前で……『マイン』に変身していた。


「お、お母さんが2人?……」


「いや、俺だよ」


「そ、その声!?」


「ああ、俺だ……これは光の精霊術を使って自分の姿を偽装している状態だ。2人は知らないかもしれないが『光魔法術イリュジオン』を真似てみた」

と言いながら俺は自分の身体に触れ、触った感覚が男性のままであることを確かめた。


「な、なにお母さんの姿でやらしい動きしてるのよ!!!」


「い、いやこれは、ただの確認だ!……どうやら変えられるのは見た目だけのようだ」


「ふーん、どうだかね」

「肌触りはわたし本人を確かめてください」


……何か言ってる2人は置いといて、俺はもうひとつ別の光精霊術をイメージする。


「……アーツ、光ってる……ていうか光り過ぎ!」

と驚くリーファの叫び声を最後まで聞かずして……俺は2人の前から消えた。


……瞬く間に別の場所へ。


光を解いた俺は……なんと『な~が屋』の上空にいた。

……やはり光といえば光速移動だな。


「若旦那様!!!?」

突然の俺の出現に若女将はびっくりしている。


「特に用事はないんだが少し覗きに来た。驚かせてすまない」


「いえいえ、若旦那様の神出鬼没には慣れてきましたので……あ!そうだ!」

女将の方に用事があるらしい。

「甘味オイルですが、商業ギルドの方に、すっごく高い値段で買ってもらえまして。それは嬉しいんですが『甘味オイルの出どころを教えろ』ってしつこくて……」


あ、そうか、商業ギルド(商売人)ならそう考えるのも無理はないよな。


「すまない、うっかりしてたよ。商業ギルドの連中には『旅の行商人』からって事で、のらりくらり躱しておいてくれ。こちらで対応する。それにしてもなるほどな……若女将に会っておいて良かった。これは貴重な情報だよ、感謝する。おかげで後々困ったことにならなくて済みそうだ」


「私にはよく分かりませんが、若旦那様のお役に立てて嬉しいです♡」

と若女将は両手を広げ、ディープキスの口をしながらダイブしてきた!


だがその瞬間!

「じゃ、急いでるから!」

と俺は若女将に捕らえられる寸前、光り輝き……逃げた。


◆◇◆◇◆


「アーツ!」

リーファの言葉で無事に甲板に降り立っていることを確認する。


「急に光って消えたと思ったら……」

ホッとするリーファ。


「ああ、急に消えてすまなかった」

俺はマインたちに詫びてから光速移動系の精霊術の説明をする。

そのうえで2人には光精霊術の検証をしてもらわねばならない。

俺はさっそく光の精霊玉を作りマインたちに付与した。


「2人とも光の精霊力を感じられるか?」


「うん」

「はい」

……よしよし。


実は、水の精霊玉はマインだけ、風の精霊玉はリーファだけ、といった具合に使役できる者が限られていのたが……光の宝玉(ジュエル)は2人で生み出したから、2人とも使えそうだ。


2人はゆっくりと何かをイメージするように目を閉じ、光の精霊術を発動する。


すると……俺の前に……俺が2人立っていた。


いやいや、なぜ俺に変身する?

しかもそこ!俺の姿で身体をベタベタ触らない!

「……ちぇっ」ん?その声はマインか!?


そこ!俺の姿をしたまま母娘で見つめ合わない!

「ちぇっ」

「ちぇっ」

放っておくとエスカレートしそうだ。


俺は、俺の姿で悶えている2人に変身を解かせた。


気を取り直して話す。

「どうやら、これで中央都市ミドルーンには偽装して入れそうだな。」

これでエルフを隠して都市に入れそうだが、俺にはもうひとつ若女将の言葉に対し、手を打っておく必要がある。


俺は2人に伝える。

「ただ中央都市ミドルーンに入る前に少しやることができた。協力して欲しい」

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