第18話 親子丼
……宿を出た俺たちは、再び甘味オイル原生林に来ていた。
中央都市ミドルーンに向かう前に、商材として甘味オイルの実などを積み込むためだ。
「……森の奥深くにこんなところがあったのね」
リーファは森の中での心地よさにリラックスしたのか、深呼吸を繰り返している。
「……まだこの世界には解明されていない事や場所がたくさんありますね」
リーファも目を閉じ、空気を味わいながら話してくれた。
◆◇◆◇◆
甘味オイルの実を収穫しながら、俺はマインの言葉を思い返していた。
……だろうな……この世界は未だ情報の量も精度も『僅少で曖昧』だろうしその範囲も速度も『狭小で緩慢』なんだろう。
そのおかげで割りと人目を気にせず動けたのだが、中央都市ミドルーンではそうはいかないだろう……人目を気にしないといけないな……。
……そんな思いに浸りながら収穫してるとけっこうな量になった。
これくらいかな、と『うーん』と背を伸ばし、ふと振り返ると……。
……そこには全裸で森林浴する2人がいた……。
いやいや、今『人目を気にしないとなぁ』って締めくくったのに何してんだ???
と俺はツッコミながらも、柔らかい茂みにしなやかな肢体を横たえ肘をついて俺を見つめる2人……その美しさに……しばし見惚れた。
「アーツ様♡」
「アーツ♡」
……ん?様子がおかしい……2人の隣を見ると……。
甘味ワイン!?
甘味オイルじゃなく……こ、こいつら甘味ワインを飲んでやがる!!!
割れた甘味ワインの実から手ですくい酒を飲む2人は……完全に酔っぱらってた。
2人の雪肌がうっすら桜色に染まり、お酒の酔いでほんのり汗ばんだ身体が艶々と光っていた……。
「アーツ様……ささ!こちらへ!」
マインのノリが変だ……目が座ってないか?
「……ア、アーツ……私ね……アーツが……好き♡」
リーファも変だ……普段はこんなに素直じゃない。
2人は手酌……というか本当に手ですくって飲んでいる。
お酒が口から溢れて胸の形に沿って流れていく……その姿は艶めかしくて……美しかった。
これはあそこから起きあがってくる気は無さそうだな……。
「はぁ……」
俺はため息をつくと、諦めて2人の元に行きゴロンと横になる。
その途端2人がイチャイチャしてくる。
……うわっ!酒臭い!……でも美人だとその酒臭さも甘く感じるのは何故だ?
『べたべた……なでなで……ぺろぺろ……れろれろ』
俺にしなだれかかった2人は黙々と俺の身体を弄る。
お、お前たち!エロいエロい!……濡れてる濡れてる!……お酒だよねこれ?
俺は何だかよく分からない液体(たぶんお酒)でもう濡れ濡れだ。
マインたちはそんな俺を見て、もじもじと太ももを擦り合わせている……目が怖い。
そんな全然止まらない2人に『もう今日はお開きだ!』と俺も飲むことにする。
……どこの世界でも、酔っ払いの相手は……諦めるか……もしくは自分も飲むかだ。
うん、確かに美味すぎる酒だな……しかし……。
『グ~~~』と大きく鳴る俺のお腹……くっ!せっかくのランチタイムだったのに!
俺は立ち上がり2人を見下ろす。
仕方がない……酒の肴はこの2人に決定だ!
空腹時のセックスの恐ろしさを教えてやろう……。
……俺は2人まとめて食べることにした……いただきます。
◆◇◆◇◆
……いいえ、食べられたのは俺でした。
俺は2人にしっかりと搾り尽くされ、本(ブック)へと帰還したのであった。
◆◇◆◇◆
「お酒は飲んでも飲まれるな!……だ」
……と今俺は2人に説教している……もちろん人間に戻ってからだが。
「うふふ」
「えへへ」
……とりあえず笑って誤魔化すマインもリーファも覚えてないらしい。
「あ、でも……夢の中でアーツ様を感じてました……今もここに♡」
「わ、私も……ここよ♡」
と2人とも『うふふ』と顔を赤くしながら自分たちの下腹部を撫でている……。
……まあ本(ブック)に帰還するほど放ったから、そりゃそうだろう。
「コホン……まあ、飲んでしまったものは仕方ない(俺も飲んだし)次からは俺がいないところでは飲まないでくれよ」
「はい!もちろんです!……ですので次は意識のある時に、わたしたち2人をご一緒に召し上がってくださいね♡」
「わ、私もアーツが良いなら、だ、大丈夫だよ!」
……おいおい、2人して何を言ってるんだ!?
「と、とにかく、荷物も無事に積み込んだからそろそろ出るぞ」
……顔を赤くした俺は2人を連れて船に乗り込むのであった。
◆◇◆◇◆
……ところがである、中央都市ミドルーンに向かって真っすぐに!……という訳にはいかなかった。
なぜならマインとリーファが二日酔いになってしまったからだ!!!
……なんでやねん!
と俺はツッコミながらも、どうしようかと考えながらハイドシップを走らせていたのだが……そんな俺をさらなる悲劇が襲う!!!
空を飛ぶ巨大なモンスターが襲ってきたんだよ!!!
……ちっ!まったく次から次へと(怒)
ん?……でもあれ鶏っぽいぞ!まさに空飛ぶ鶏……黒いから烏骨鶏か。
そいつは大空で俺たちを先に見つけそのまま襲ってきた!
ちょっとしたセスナくらいあるその烏骨鶏は、余裕綽々で俺たちを落とそうとしてきたが、俺の風精霊で捻じ伏せてやったとたん、尻尾を巻いて逃げ出した。
だが俺は今……空腹も相まって機嫌がわるい……八つ当たりさせてもらうぞ。
そして、やられたらやり返すの精神で追いかける……どうやら巣に戻るようだ。
巣には玉子もあった(もう食べる気満々で「玉子」と呼ぶ)
俺は風精霊で烏骨鶏を捕らえ、ついでに狙っていた玉子も頂戴した。
◆◇◆◇◆
……とまあ、いろいろあって……また『な~が屋』に戻って来ている。
「あ!若旦那様!おかえりなさい♡……忘れものですか?」
若女将は、俺の再訪に驚きながらも嬉しそうに飛びついてくる。
「まあ……いろいろあってな……」
と若女将に疲れた笑いを見せた俺は、部屋を用意してもらい2人を運んで寝かせた。
『ぐ~~~』
……とにかく腹が減った……ようやく落ち着いた俺は、自分が空腹であった事を思い出す。
「若女将、ちょっと厨房を借りたいんだが大丈夫か?」
「もちろんです!若旦那様ですのでご自由に使ってください!」
元気に若女将は厨房まで案内してくれる。
とにかく腹の減った俺の頭の中にはたったひとつのメニューしかない。
何って?……分かるだろ?
……『親子丼』だよ。
なぜか厨房のみんなに注目されるなか、俺は先ほどモンスターハントした烏骨鶏と玉子を使い、男の手料理『親子丼』をつくった。
あー、旨めえ!やっぱりこの世界の食材は素材からして旨い!
大きめのお鉢に山盛りの親子丼を盛りつけ、俺は豪快にかっこんだ。
この食べ方最高!!!
ふう……ひとしきり食べて満足した俺は、さっきから興味津々な皆にも親子丼をふるまうことにした。
「わぁ!美味しい!!!」
「若旦那の手料理最高っす!!!」
若女将、そして厨房のスタッフが叫んでいる。
元は俺の国にあった料理だ……簡単だから宿のメニューに加えても面白いかもな。
そうして俺は、若女将や厨房の皆と新しいメニューの話に花を咲かせるのであった。
……さてと、どうやらまだマインたちは寝てるみたいだし、若女将たちは真剣に『な~が屋』のリニューアルに向けて頑張っている……俺はドワーフおやじのところに顔でも出すかな。
そうして、マインたちが回復するまでのあいだ、俺は街で過ごすのだった……。
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