第16話 バーター取引
大森林を眼下に望む……。
青空のした改めて見渡すと、甘味オイルの原生林は森の奥深くに広大に広がっていた。
……宿からもあっという間だったな。
俺は飛行速度の検証結果にも満足している。
ここは森の奥深く、陸路では人が入って来ることができないほど険しい場所にある。
その距離も相当離れていたが風精霊の爆速で一気に来ることができた。
……そして俺が文字通り金のなる『木』にウキウキしながら甘味オイルの実を収穫していると……。
「痛っ!」躓いた。
ん?地面に落ちている甘味オイルの実もあるんだな……。
落ちている実は、その重さで地面にめり込んだあと、時間の経過で草や苔に隠れてしまっている……まるで丸い岩のようだ。
「うおっ!?めっちゃ重い!!!」
俺は水精霊や風精霊、氷精霊のアシストで何とか掘り起こしてみた。
頑丈な実は、時間の経過でも割れることはないばかりか、重さがずっしりと増していた。
とりあえず割ってみるか……。
「くっ!やっぱ硬い!!!」
重さ同様に硬さも増していたが……割る!
『プシューーー!!!』
割ったとたん中からガスが噴き出した!
「うおっ!まさか腐ってたり……してるのか!?」
俺は飛び退きながらもその匂いに気づく……ん?……もしかして酒?
そして少量を手にすくい……舐めた……。
「んーーー!!!めっちゃ旨い!!!」
とろみのあった甘味オイルは長い年月をかけ、最高に旨い酒になっていた!
そしてこの甘味……これあれだ!……まるで貴腐ワインだ!
俺は前世界で飲んだ貴腐ワインを思い出していた。
……これはヤバい……飲み易すぎる!冷やすと更に美味いんだよ!
氷精霊でグラスを作成し、改めてアイスワインとして飲む……やはり美味い!
この世界での酒場ではエール酒が人気で、他には蒸留酒や発酵酒もあったのだが、甘いお酒というものは無かった。
……それにしてもこのお酒……甘味ワインは新発見だろうな!
俺は超硬質の実を撫でながら思った。
これで若女将の宿の修理代は充分に稼げるな!……それに……。
あるていど収穫を済ませた俺は、更なる事を考えながら、甘味オイルの実と共に上空に舞い上がった。
そのまま高度を上げ、高高度を飛びながら若女将の宿を目指しているさいちゅう……宿のある街よりずっと向こうの方角に、広大な海?が広がっているのを発見した!
「おーーーっ!!!もしかしてあれは海か!?」
俺は、かなり遠いがずっと先まで広がる青い絶景に興奮する。
「まだ時間も早いし行けるか?……よし!」
俺はそのまま向かう事にした。
◆◇◆◇◆
いま俺は上空から港町を望んでいる。
その港町は小さいながらも活気があるんだろう、多くの船が出入りしていた。
……その行きかう船を見ていた俺は閃く!
閃いた俺は、甘味オイルの実を港町から離れたところに隠し、ぶらっと港町を訪れることにした。
◆◇◆◇◆
「ちょっと爺さん!爺さん!この空き瓶もらっても良いか?」
俺は、港町の町はずれに高く積み上げられた空き瓶の山を指さし、すぐわきの酒場の前で飲んだくれていた爺さんに声をかけた。
「はぁ!?お前そんなもん貰ってどうするんじゃ?まあええ、そんなものはいくらでもあるから好きなだけ持って行け!」
酔っぱらってご機嫌な爺さんに聞いて良かった……俺は爺さんが酒を飲んで目を離している隙に、数百本の空き瓶を風で空へ飛ばし、隠してある甘味オイルの実と同じ場所まで運んだ。
「ありがとな!爺さん!」
そう俺は言うと、飲んだくれているお爺さんを横目に隠れ場所に戻り、作業に移った。
先ずは水精霊で空き瓶を綺麗に洗い、水気を完全に除去したあと、そこに甘味オイルと甘味ワインを注いでいく。
……どんどん空き瓶が満たされていき、あっという間に商品ができあがった。
……さてと、営業交渉スタートだ!
俺は港町で荷車を借り、そこに商品を積み込むと、漁業組合的な建物を探しそこへと向かった。
漁業組合は小さな港町らしく、家族経営のようだった。
……飛び込んだ俺は……その場の勢いに任せて組合長に酒を売り込んでみた。
……もちろん先ずは試飲サービスだ!
「な、な、なんだ!?お前……これ凄い酒じゃねぇか!!!」
やはり海の男!酒には目がないらしい。
「あ、あんた!それにこのオイル!!!凄いよ!こんなの見たことがない!!!」
組合長の奥さんらしき女将さんは甘味オイルがお気に召したようだ。
奥さんの目が「$」マークになっている。
「気に入ってくれたようだな……単刀直入に言うが実は船が欲しい」
俺は組合長に、余っている船を俺の商品と交換……譲って欲しいと伝えた。
「……この商品はとんでもない価値だが……お前……これはどれくらい本数があるんだ?」
「甘味オイルが200本、甘味ワインが50本ほどだな」
「んな!!!?なにーーー!!!?お前……それけっこう良い家が買えるぞ!!!」
ほう……それくらいの価値なのか……メモメモ。
「しかもこの味……もし今までのオイルより希少価値があるなら……さらに凄いことになるな……しかもこの酒もヤバい……こんなうまい酒どうやって作るんだ?」
組合長は腕組みし、うーんと唸りながら思案している。
……製法は秘密にするためにわざわざ瓶に移し替えたのだ……教えるわけにはいかない。
「ああ、どっちも今までにないものだ。だから希少価値は凄まじいぞ」
俺は平然と告げ、そして続ける。
「だが今は初売りキャンペーン中みたいなもんでね……希少価値分はサービスするから船が欲しい」
と、最後にひと押ししておく。
「お、おう!?……そいつは俺もありがたいが……これに見あう船だと……まあいい、実物を見ながら話そう……ついて来い」
そう言う組合長に案内されて、俺たちは船着き場へと向かった。
紹介された船は、大きさが30メートル程もありそうな中規模船だった。
前世界のクルーザーより大きい程度か……なかなか良さそうだ。
「俺も海の男だ!サービスされてばかりじゃ男が廃る!これがウチの組合にある最高の船だぜ!物を運ぶにも人を乗せるにも充分の性能だぜ!」
これはありがたい申し出だった!
俺は組合長の男気に感謝し契約を済ませた。
そして250本の商品を組合に運んだあと組合長を呼んだ。
「助かった、船の事は感謝する。すまないが俺はもう行かなくちゃならない。組合長たちは甘味ワインで祝杯でもあげていてくれ……買った船は港外れの係留所に置いておいてくれると助かる」
と、俺は港町の端の目立たないところを指さした。
「おう!もちろん良いぜ!これからすぐに運んでおいてやるよ!……そのあとすぐに酒盛りだぁ!!!」
……組合長からも酒盛りに誘われたが俺は辞退し、上機嫌で行く組合長を見送った。
船を得た俺は、遠く離れた場所から酒場を見る。
そして酒場の前で酔っぱらう船乗りたちを眺めながら船にオイルの実の空き殻を積み込むと、いそぎ甘味オイル原生林へと引き返した。
……突然いなくなった船と俺に驚くかもしれないが仕方がない。
船は進む……俺の想定通り安定して荷物も運べるようだ。
そしてさらに嬉しい驚きがあった!……なんと船には新鮮な魚介類がたくさん積み込まれていたのだ!……ありがとう組合長!
……とりあえず魚は凍らせておこう。
……雲に隠れて空を進む船……ハイドシップとでも名付けようか。
この船には多くの実を積み込むことができた。
そして爆速でも安定して飛行し乗り心地も良い……これでマインたちとの旅が楽になる。
街へ戻った俺は、高高度の上空にハイドシップを係留し、荷物を宿に下ろすのだった。
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