第12話 風の宝玉(ジュエル)

宿は街の奥……さっき見えた教会らしき大きな建物、その手前のエリアが宿屋街になっている。

俺たちは、長い石畳の大通りを、宿屋街に向かって歩いていた。

大通りの両側に構える店々は、なかなかに多様性に富んでいて、以前の世界にあった商店街を思い出させた。


モンスター素材を売りさばいたので、荷物は軽く財布は重くなっていた。


俺の前では、リーファが美味しそうにバナナを頬張りながら歩いている。

通りの果物屋で買ったもので、リーファの胸にはまだ沢山の果物が抱えられている。

俺はその姿を微笑ましく眺めながら、俺も久しぶりの観光気分に少し浮かれていた。


そんな俺の気持ちが伝わるのか、隣を歩くマインも嬉しいらしく、そっと俺の上着の袖をつかんだまま並んで歩く。


「おっ!?あれは本屋か?」

通りを歩いていて、見つけた店は、あきらかに本屋っぽい。


マインとリーファには近くでウインドウショッピングをしてもらう事にして……俺はこの世界で初めての本屋というものに入って行った。

この世界の本屋は、以前の世界での『古本屋』に近いらしく、いろんな時代の作品であろう本達が、綺麗に並べられていた。


気になる本は……と俺が店を眺めまわしていると、奥にいた店主から声をかけられた。

ん?店主はドワーフか?……人間とは異なる容姿に俺は本(ブック)の図鑑と照らし合わせながら、店主のところまで行った。


「なんじゃ、冷やかしか?……ん?……なんじゃお前、本を売りに来たのか?」

俺が手に持つ本(ブック)を目にした店主は尋ねてきた。


「いや、これは違う、売りに来たんじゃない……それよりも魔法術の本はあるか?」

俺は手に持つ本(ブック)をさりげなく脇に抱えながら店主に尋ねた。


「魔法術?……ふむ」

店主は、本棚から何冊かの本を取り出して並べてくれた。


「『はじめての魔法術』に『魔法術の初歩』……『魔法術歴史大全』か……」

他にもあったが、店にあるのは全て初歩的な本であった。


「ふふ、中々そろっておるじゃろ」

店主は得意そうに答えた。


「店主、初級以上の本はあるのか?」


「……はぁ!?何言ってるんじゃお前……中級以上は魔法術協会でないと置いてないわい!知らんのか!?」

店主は驚いて俺に聞き返してきた。


「すまないな、田舎から出てきたもんでね」

俺はさらっと流す。


「なんじゃい、おのぼりさんか……魔法術師じゃないのかまったく……それでお前、フォースはどれくらいあるんじゃ?」

呆れたようにため息をついたあと、店主は聞いてきた。


フォース?……ああ、魔法術の力か……。


「俺のフォース?……知らん、でもたぶん凄いと思うぞ」


「……知らんってお前は馬鹿か……しかも何だその自信は?……これだからおのぼりさんは……」

と言いながらも店主は親切に教えてくれた。


「ええか、お前くらいの年ならフォースは調べておいた方がええぞ。まだこの街程度では検問でフォースを調べることはできないが、中央都市ミドルーンまで行けば、検問にフォース感知器があるで、いやでも知ることができるからのぉ」

「まあ、どうしても調べたければ、魔法術協会でお金を払えば調べてもらえる」

と、根拠のない俺のフォース自慢に店主は話しを合わせてくれた。


「まあ、とりあえず今日はこれ買っとけ!魔法術図鑑じゃ……魔法術が使えなくても読んで面白い本じゃよ。お土産にもええぞ!」


俺は店主オススメの本を手に取り、パラパラめくると……すごい!なかなかに派手なイラスト付きで、系統別にとても分かりやすく魔法術が載ってる!


さすが店主チョイス!と俺は早速本を購入し……よく見てみると……『子供のための』と小さく書かれていた!


「ふふ、お前さんにはちょうどいいだろ?魔法術師を目指す子供向けのベストセラーじゃ!安くしといたぞ」

……と店主はニヤリと笑った。


俺は呆れながらも店主の接客力に感心していると……マインが本屋に駆け込んできた!


「アーツ様!」


「どうした!?何かあったのか!?」

俺は胸に飛び込んでくるマインを受け止めながら聞いた。


「リーファが!……リーファが!生まれそうなんです!」


「なにっ!?」

俺は驚き、店の外に飛び出した!


「ア、アーツゥ……」

リーファがしゃがみ込んで、苦しそうに俺を見上げた。


「リーファ!もう大丈夫だ!すぐに宿へ行くぞ!」

俺はリーファを抱きかかえ、安心するように言った。


「マイン!これからすぐに宿へ向かおう!」

俺は店から出てきたマインそう伝えた……何故かドワーフの店主も店から出てきた。


「エルフ……エルフのお嬢ちゃんか……うむ!じゃあワシが言う宿へ向かえ!『本屋のドワーフおやじの紹介じゃ』と言えばすぐに入れてくれるじゃろう」


おやじ!ナイスアシスト!

俺は最大限の感謝をおやじに伝えながら、リーファを抱きかかえ、おやじに教えられた宿屋へ飛び込んだ!


飛び込んできた俺たちに、若女将らしき人?は驚きながらも……ドワーフおやじの事を伝えるとすぐに部屋を用意し案内してくれた。


「もうダメ……生まれそう……」

俺の腕の中でリーファがヤバい!……お腹周辺が光り始めている。


俺たちは、部屋につくなり、部屋に置かれた風呂に水精霊で一気に水を満たし、リーファを抱きしめたまま飛び込んだ!


亜人向けに作られたのだろう、巨大な風呂の中に浮かびながら、俺はリーファを抱きしめ、リーファも俺に強くしがみ付きながら……幾ばくかの時間が経ち……無事に光は生れ出てきてくれた。


「リーファ、よく頑張ったぞ……ありがとう」

俺はリーファを抱きしめていった。


「えへへ♡」

リーファは泣きながらも嬉しそうだ。


「リーファ、アーツ様」

ふと横を見ると、マインがタオルを持って待っていてくれた。


……それにしても俺とリーファは水の中に縁があるな……と風呂から上がり着替えながら考えていると……。


「アーツ……」

と、リーファが精霊の宝玉(ジュエル)を差し出してきた……。

リーファの宝玉(ジュエル)は綺麗な乳白色をしていた。


「ああ」

俺はリーファから宝玉(ジュエル)を受け取り、本(ブック)に嵌め込んだ。


その瞬間……またしても凄まじい絶頂感・射精感が俺の中を駆け巡る!

俺は身体を少し浮遊させながら、宝玉(ジュエル)と同じ綺麗な乳白色の光を放っていた……。


「か、格好いい……」

じっとその姿を見つめていたリーファは、そっと呟いていた。


……落ち着いた俺は2人に言う。

「ありがとう、思っていた通り風の精霊術が使えるみたいだ」


俺は手のひらのなかに、小さな台風の玉を作ってみせた。


「……凄まじい風の力ね……手のなかに台風があるなんて・・・」

リーファが目を見開いて呆れている。


「ああ、風もそうだけどそれ以上に自由に操れる……まるでエア……空気を操っているようだよ」

俺はそう言うと、自分に風をまとわせ浮き上がり、部屋の中を自由に飛んでみせた。


「はぁ!?なにそれ!?……もう何でもありね……」

リーファはもう驚かないと心に誓っている。


「アーツ様、素敵です!♡」

マインはいつも通り目をハートにしている。


「本当にありがとう……」

俺はわざと聞きとれないくらいの声を囁き、それを風の精霊に乗せて2人の耳まで運んだ。


「繊細な精霊術も簡単に使いこなすのね……」

呆れながらもリーファも言葉を風の精霊に乗せて、俺の耳元まで届けてくれた。


「これで離れていても言葉は伝えられるな……あと試したいことがあるんだ」

俺はそう言うと、両手それぞれに水と風の精霊力を発生させ、綺麗な「水の玉」と「風の玉」を作った。

玉の中では精霊力が渦巻いている。


「綺麗……」

2人は玉に見惚れている。


俺はその精霊玉を風の精霊により2人の近くに漂わせ、2人に言う。


「ちょっとその精霊玉から精霊力を引き出してみてくれないか?」


「!?」

2人は俺の意図に気づいたのか、驚きながらもそれぞれの精霊術を使う。


エルフでないと気づかないだろう繊細な精霊力が、精霊玉から2人へと流れているのが分かる。


「凄い!凄いわよ!アーツ!」

リーファが自分の手のなかに生まれる精霊術に、驚きの叫び声をあげた。

マインも隣で自分の生み出した水にうっとりとしている。


「精霊力の電池……貯蔵庫みたいなものだ。ある程度の精霊力を蓄えてておくことができる。うまく機能して良かったよ……まあ、剥き出しだから数日で消えてしまうと思うが……」

兎に角、まずはイメージが思い通りに機能してくれて満足した。

おそらく何かに封入することができれば、長く蓄えることもできるだろう。


「とりあえずは2人の周りに漂わせておくよ……万が一、俺が離れていても精霊力が使えるからな」

俺は2人に安心させるように言った。

それを聞いた2人は喜んで、精霊玉とじゃれ合っている。


「さてと……ちょっと出てくるよ」

俺はそう呟きながら、2人に少しの外出を伝える。


最初は心配していた2人だったが、ドワーフおやじへのお礼と、少し食べ物を買ってくることを伝えると、うなずいてくれた。


「分かった……私たちは姿で目立つけど、貴方は行動で目立つから……気を付けるのよ!」

とリーファは念を押してきた。


こうして2人の許しを得た俺は、街へと繰り出していくのであった。

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