第11話 魔法術の存在

……昨日はやり過ぎたかな。

俺はまどろみのなか、目を覚ましながら昨夜の余韻に浸っていた。


暗闇の中で、汗まみれになりながら、俺たちは交わりあった。

リーファは湖での初体験を経て、気持ちが楽になったのか、大胆に絡みついてきた。

母親譲りなのかエルフがそうなのか……非常に柔軟な体で……俺と一番深いところで繋がるように、右足を自分で抱え上げて足を思いきり開いた。

俺も興奮してリーファの身体が壊れそうになるほど大きく開き、体重を乗せて俺の猛り狂ったものを打ち込み、飲み込ませていった……。


……ふう。


朝から欲望まみれの思い出に浸っていた俺は目を開けると……目の前が真っ暗だった……。

……ん?……ここは?……温かくてタプンタプンだぞ……。

何となく今の状況を悟りながらも身を任せていると、ふと持ち上げられ、目の前にマインの顔が来た。


……やっぱり本に戻ってたのか……昨日は散々放ったからなぁ。

息も絶え絶えになり、突っ伏して俺が放ったものを垂れ流すリーファの姿は、めちゃくちゃエロかった……。


そんな俺の不埒な考えに気づいてるかのようなマインの視線が痛い……。

マインは淡々と本に戻った俺に血を垂らしてくれた。


そして、人間の姿を取り戻した俺に笑顔で言う。


「次はわたしをいっぱい愛してくださいね!♡」


「……!?……リーファは?」

マインの言葉にドギマギしながら俺は目を逸らして聞く。


「うふふ リーファは朝起きて自分の姿にびっくりちゃって……恥ずかしさで飛び出して行きましたわ」

マインは大人の余裕で微笑む。

「今はすぐ向こうの小川で身体を洗っているかと思います」


……そっか、小川か……俺が作ったんだよな。


俺は昨日のリーファ救出劇を思い出していた。

リーファを追いかけるときに、マインともはぐれることを防ぐために、俺はリーファを追いながら、じゃぶじゃぶ水を流して走ったんだった。


それにしても凄い水の量だな……小川は湖まで続いてしまっている。

俺も小川で昨日の汗を流そうとして気づく。

……あれ、俺の身体、綺麗だ……そっか、本から人に戻る時に身体の状態がリセットされてるのかも……うん、俺の肌つるつるだ。

……もしかして、怪我してもリセットできるのかな?


……などと自分を観察する俺を、マインが美味しそうに見つめてくる……。


朝から変な雰囲気になりそうなので、俺は気持ちを落ち着けるために、やっぱり小川に顔を洗いに行くのだった。


◆◇◆◇◆


……俺たちは森の中を順調に進んでいた。

リーファとの初体験があってから、もう少しで1か月が経とうとしている。

そして、このまま進むと中堅都市がある。


俺は本(ブック)から世界地図を確認しながら考える。

中央都市ミドルーンまではまだ数か月かかるので、この中堅都市はスルーしてもいいのだが、そろそろ1か月だ……恥ずかしそうにしているが、リーファのお腹が膨らんできている。

マインと同じなら、そろそろ生まれてくるだろう。


俺は大事を取って、中堅都市に滞在することにした。

モンスターハントで得た素材もかさ張ってきたので、売りさばきたいとも考えていた。


中堅都市ともなると、前回の街よりもかなり大規模になり、街の機構も複雑になっている。

検問も当然あるため、街の前まで来た俺たちは、何組かの検査待ちの列に並んで、順番を待っていた。


並んでいると奇妙な組み合わせの俺たちは当然目立つ……すると近くで検査待ちをしている粗野な男達から声を掛けられた。


「おい、もしかしてエルフじゃねぇか?……こんな街で……珍しいねぇ」

と、下卑た笑いを浮かべながら手を伸ばしてきたので、俺はその手を掴んだ。


「てめぇ!なにしやがる!?……ん?おめぇも変わった面(つら)してるな……もしかして交じり者(もん)かぁ?」

交じり者?なんだそれ?……本(ブック)の図鑑にはそういうスラング的な言葉が載ってないので意味が分からない。


「アーツ、交じり者っていうのは、人間種と異種族の混血の事よ……」

耳元で俺だけに聞こえる声がする……少し離れたところからリーファが風の精霊に声を乗せて伝えてくれたようだ。


なるほど……俺はその話に乗ることにする。


「ああ、交じり者だよ……俺はその女性(ひと)達の護衛だ……だから余計な考えは持たないことだ……」

俺は犬歯を見せるような野性的な笑みを浮かべ、掴んだ腕を握りこんだ。


もちろん素の俺はそこまで握力が出せない……なので俺は握る手のひらに水精霊を発生させ、そこに水圧をどんどん乗せていった……。


「いででで!!!」

男が激痛に悲鳴を上げる……水圧がかかっているので手は濡れているが、そんなこと不思議に思わないくらい激痛らしい。


「じゃあ放っておいてくれるかな……」

俺はそう言うと、手を緩め、男を逃がしてやった。


「いくらエルフでも、今の精霊力じゃたいしたことねぇ!もう今は魔法術士の時代なんだよ!せいぜい消えゆく精霊力にしがみつく事だな!」

俺の雰囲気に飲まれたのか、思いきり負け惜しみを叫びながら、男達はそそくさと離れていった。


……魔法術士?そういえば本(ブック)に載ってたな……。

この世界には精霊術の他に魔法術というものがる。

魔法術士が使うこの魔法術は、自分自身の内なる力を開放し、行使するものらしい。

力は「フォース」と呼ばれていた。


精霊術が世界の精霊力から力を得て行使する方法であるのに対し、魔法術は自分自身がエネルギーとなり行使する力のようだ。


「外なる力の精霊術と、内なる力の魔法術か……」


俺の独り言にマインが反応する。


「はい、そういう考え方でよろしいかと思います。精霊術は『世界との調和の力』そして魔法術は『自我の願望の力(フォース)』と言われております」

マインは続ける。

「だからと言って魔法術そのものが悪の力(フォース)という訳ではなく、そういう考えを抱く人もいる、ということです」


「なるほど……力も使う者しだい……ということか」


「そうよ、でも魔法術は戦闘で使うような直接的で攻撃的なものが多いから、武力的な意味合いが強いわね……逆に私たちの精霊術は、守りや日常的で生活的だから優しいわ」

リーファが知っている知識を得意げに教えてくれる。


「でもアーツの精霊術は超攻撃的だけどね……」

と、べーっと舌を出しながら言うリーファ。


「俺は夜も超攻撃的だぜ」

と大人げなく返し、リーファを真っ赤にさせてやった。


そんなやり取りをしていると俺たちの検査の番になった。


「お前、名前と、この街へ来た目的は?」

事務的な口調の検問官に答える。


「俺は……俺の名前はアーツ……アーツ=ブックだ」

うん、俺の名前はこれで行こう、そう閃いた瞬間だった。

俺(アーツ)と本(ブック)は一心同体。

名前は大事だからな。


「目的は森でのモンスターハント素材の売りさばきだ……あと俺は彼女たちの護衛をしている」

……とマインたちを紹介しながら伝えた。


「ほう……エルフの行商人とは……しかし女性のエルフは久しぶりに見たな……」

検問官は珍しげに呟き、先を続ける。


「今ではエルフの力も弱く影響も少ないと思うが、この街には魔法術協会もある……揉め事は起こすなよ」


どうやらエルフと魔法術士はあまり仲が良くないらしい……。


「分かった……忠告助かる……肝に銘じておくよ」

俺たちは検問官に礼を言い、街へと続く門をくぐった。


門をくぐると、直線の石畳が続き、その両隣に様々なお店が並ぶ……そして遠く石畳の先には大きな建物が見えた……教会か?


「わぁ!大きい街!!!」

リーファはほとんど森から出たことがなかったのだろう、子供のようにはしゃいでいた。


……君、胸も大きいけど、お腹も大きいんだからもう少し大人しく歩きなさい。

俺はそんなリーファに苦笑いしながら追いつき、一緒になって見物した。


流石に中堅都市ともなると、人以外の種族が目立ってくる。

ドワーフ、ホビット……あと一部が動物のような……獣族もいる……エルフも(高齢男性ばかりだが)少しはいるようだ。


本を確認すると、異種族は他にも様々おり、タイタン(巨人)やドラゴンなんかもこの世界にはいるようだが、生活圏が全然違うのだろう。


もちろん種族としては人が一番多い……どこの世界でも同じだな……人の繁殖力は半端ない。


俺たちは、街のエントランスエリアに大きく陣取る商業ギルドで、モンスター素材を売りさばいたあと、宿へと向かうのだった。

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