第5話 お母さんから離れなさい!
なっ!!!?また本になってしまった!?
「アーツ様!?」
慌てて叫ぶマイン。突然俺が消えてしまったように見えたのだろう、マインは悲壮な叫び声をあげた。
『大丈夫だ、俺はココ(本)にいるよ』
と、俺も声を上げて気づいた、あ……声が出てない。
慌ててバタバタするマインと声が出ないけど本の姿で叫ぶ俺……。
そうしてるうちに、視界に本が入ったのか、ベッドにダイブし本を手に取るマイン。
そしてもどかしくページを開く。
『やっと気づいてくれた』……ホッ。
「アーツ様!」嬉し泣きしながら叫ぶマイン。
『ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったんだが、どうやら本に吸い込まれたようだ』
「びっくりしました!急に消えていなくなるので……でもどうして?」
『俺も驚いたよ!いきなりだったから』
それから二人でこれまでの状況を話しあった。
先ず俺が身体を得たのは、おそらくマインの血による受肉だったように思う。
そこでマインには悪いが、少し血液をページに垂らしてもらうことにする。
「私などの血でよろしければいくらでも!」
いやいや、そこまで意気込んだ血の量は……逆にこっちが心配になる!
……『ポタポタ』……俺に垂らされる幾ばくかの血液。
すると、前に感じた感覚が俺を襲い……気づいたら俺は人として姿を現していた。
「ありがとうマイン。予想が当たって良かった」
「いいえ、わたしこそありがとうございます。お戻りいただき嬉しいです」
半泣きで腫れぼったい目で俺を見つめるマイン。
……何故かお互い照れくさく見つめ合う……昨晩あんなに激しかったというのに改まると照れる。
「それにしてもなぜ本に戻ってしまったんだろう?」
むしろ、こちらの方が問題である。
ん?マインがそわそわしてる。
「何かあるのか?」
「……たぶん……なんですけど」
言いにくそうなマイン。
「……?」分からず無言で促す俺。
「……出しすぎたのが原因かと……その」
「ん?」……と聞きながら男ゆえ何となく察する俺。
……やっぱりそれが原因なのか。
体力……精力と直結しているのか…単純すぎるな、俺。
そんな俺を横目に唇に指を当て考えるマイン。
「やっぱり、やっぱり試してみないとですねっ!♡」
若干鼻息を荒くしながらキラキラ……じゃなくギラギラした瞳で迫るマイン。
……美人ってどんな顔をしても綺麗だなぁ。
「……じゃ、じゃあ宜しくお願いします」
女性からの積極的なアプローチに、イケてる返し方知りません、俺。
姿は年下なので、まるで襲われるかのような俺。
そして、イチャイチャモードの再開をしようとした時……。
バタン!!!と勢いよく突然開くドア。
「お母さん、おはよ……って誰!!!?」
「母さんから……母さんから離れろーーーっ!!!」
部屋のドアが大きく開き、元気な挨拶とともに入ってきた娘は……いきなり精霊術をぶっ放してきた!
その娘は母親譲りの美しい声色で精霊音を唱え、母親とは真逆で全然優しくない精霊術をぶっ放してきた。
強い風圧が俺を襲う!
風圧は鋭い刃のように正確に俺に向かい、俺が被っていたシーツを細切れにする。
「!!!?」
あっ!すいません、シーツのしたは丸裸なんです!
うら若き乙女には衝撃だったのか、その娘はその場で凍りついてしまう。
「リーファったら、まあまあうふふ」
マインは天然なのか慌てもせず、ベッドから降り娘の元へ歩みより優しく抱擁してあげる。
……やっぱり天然や、この女性(ひと)……裸のままだし。
「リーファ、この方はお祈りにより召喚され来ていただいたのです。これから私たちと一緒に精霊界へ旅立つのですよ」
リーファの頭を撫でながら、優しく話すマイン。
……裸のままだけど。
「……でも……コイツ裸!しかもその瞳と髪!見たことない色!悪魔!?」
「しかも……この部屋なんか変な匂いがする!」
いきなりの攻撃であったが、母親が危害を加えれれていない事がわかって多少は安心したのか、攻撃する手を止めるリーファ。
でも金色の目は油断なく俺に向けられ、警戒の色を含んでいる。
まあ、この部屋は昨夜からのイチャイチャでフェロモンの匂いが半端ないだろうし。
女の子には刺激が強すぎたかな……。
「まあまあ落ち着いて。朝ご飯を食べながらゆっくり話しましょう」
マインは周りを気にせずどこ吹く風、マイペースに身支度を整える。
「アーツ様……裸も何ですので主人の服を出しますね。それをどうぞ」
「あ、はい」
しばらくして現実に引き戻されたリーファと一緒に俺たち3人は食卓を囲み、これまでの事とこれからの事を話すのであった。
「……何だかモヤモヤするけど分かったわ。今は精霊界へ向かわないといけないのだし……でも母さんに変なことしたら許さないんだからっ!この裸男!オヤジ!変態!」
……うっ!言い返せない。
大学生くらいの姿になった俺から見ても、リーファは少し年下くらいだ。
そんな最も多感で輝く世代から見て、裸であった俺の姿は変態なんだろう……まあ実年齢30だし。
天然無防備エルフママと真面目なエルフっ娘、そして変態裸本男、この奇妙な取り合わせで賑やかな朝ご飯は進む。
マインたちの家は、ミズラフ大森林の奥にある。
俺が召喚された世界、このゴルトジールという世界には、巨大な大陸が大海の中央に位置する。その大きな大陸の中央に中央平原がある。
この広大な大地にいくつかの領土があり、ゴルトジール文明の中心となっている。
中央平原を真ん中に北にベルグ地方と呼ばれる世界最高峰の山脈からなる峻厳地帯がある。
その反対側、大陸の南部は海を挟んで常夏の南海群島があり、多種多様な人々が暮らしている。
大陸の右、中央平原の西側には、様々な亜人種が点在するデューシス地方があり、亜人ならではの特殊な文化が築かれている。
俺たちがいるのはそのちょうど反対、大陸の東側に位置するミズラフ大森林である。
広大な深き森にはエルフの築いた古き国があるが、精霊力が失われつつあるいま、その国は人を寄せ付けない、ますます排他的な存在となっているらしい。
「ん!?でも俺たちのいる場所ってエルフの国なの?ここはミズラフ大森林っぽいけど他のエルフ見ないし」
俺は自分の本(ブック)に映し出された図鑑の地図を見ながら質問する。
「ここはエルフの国じゃないわよ。父さんがいない家はウチだけだったし。エルフの里でも他の人たちの世話になってばかりだったから自然と離れて暮らすようになったわ。ここはミズラフ大森林でもエルフの里からはだいぶ離れたところよ」
割りとあっけらかんと言うリーファだったが……どこの世界でも家庭環境などいろいろあるらしい。
「なるほど。でもそんな奥地でよく2人暮らしできたな」
「ふんっ!母様はこれでもエルフでもかなりの弓士なのよ!私だって凄いんだから!」
可愛らしい小鼻で鼻息を荒くするリーファ。どんな顔しても美人だ。
アーツ様、とマインが話を進める。
「私たちの家から近郊の小さな街まではおよそ1か月ほどかかるかと思います」
「アーツ様、アーツ様はこの世界に来られてまだ日も浅くこちらの事はまだ不慣れではございませんか?少しこちらの生活に慣れてから旅立ってもよろしいのでは?」
マインが心配して優しく聞いてくれる。
「ん?それは大丈夫だと思う。『魔王を倒す!』という話でもないし、街までの1か月の移動期間にこの世界の事はいろいろ慣れていくよ」
「アーツに森での生活ができるかしらね?森での生活はなかなか大変なのよ」
お姉さん口調&上から流し目線で偉そぶるリーファ。
ふっ……年下のくせに……ニヤリ。
俺の本(ブック)の情報能力を舐めるなよ。
フフフとほくそ笑む俺。
……それにしても一番重要なのは精霊界への行き方か……。
旅立ったエルフたちが帰ってきてないこともあり、精霊界への正確な場所は分からないそうだ。
北の山脈を越えたベルグ地方にあるらしいとのことだが……。
中央平原には都市国家の図書館もあるそうなので、まずは大陸の中央を目指して旅をすることにする。
そんな賑やかな朝食を済ませ、身支度を整えた俺たちは、先ずは近郊の街へと向かう準備をするのであった。
◆◇◆◇◆
「アーツって覚えるの早いよね」
「リーファの教え方が上手いからだよ」
「まあね!……でも肝心の精霊術は全然発揮してもらえないんだけど」
ジト目でリーファが言う。
街までの道中、森でのサバイバル生活を進めながら、俺はこの世界での生活に慣れていった。
流石にマインたちは森の民、森林での衣食住のエキスパートであり、俺の身体も本(ブック)もどんどん知識を吸収していった。
それに加えて以前の世界の知識も本(ブック)から引き出し、俺の能力として披露していった。
そういうこともあり、両方の世界の知識を余すところなく活用した俺は、当然ながらどんどん上達し、リーファを驚かせたんだと思う。
……精霊術は全然だったけど(泣)
「アーツ様の上達は惚れ惚れします♡」
べた褒めしてくれるマインに俺は照れる。
「本当ですよ。弓士はそう簡単にはなれません。ましてアーツ様は初めて扱われる弓 ですがアーツ様の動作は本当に美しくて無駄がないですわ!惚れ惚れします♡」
「ありがとう、マインの作ってくれた弓も凄いよ」
マインは優れた弓士だけでなく弓師でもあった。そういう製作技術も今は教わっている。
……それにしてもマインの言う動作面は確かに俺も驚いた。
俺の本(ブック)ある両方の世界の知識、それらを知識だけでなく動作にも落とし込めるようになっているらしい。
本(ブック)に載っている事象を100パーセント体現できるようになっている。
……つまり身体をマネジメントする、身体をマニュアル通りに動かせているんだろう。
「まあ、精霊術もそれくらい発現させて欲しいのだけど」
ぐっ、厳しいなリーファ。
「ははは……はぁ…何でだろう?原理は理解したんだけどな……」
精霊術もマインの部屋の本から充分に知識は得たはずなんだが、どうも自分と精霊の繋がりが感じられないような、そんな気がしている。
「今は精霊力も減っておりますし、わたしたちエルフでも使える力は少なくなりました。ですがアーツ様は選ばれたお方!焦らずに続けましょう」
……うっ優しいなぁマイン。
うん!オジサン夜もがんばっちゃうよ!
そう、1か月という大森林での生活は長い……。
その長さの中で、俺とマインはしっかりと夜はイチャイチャした。
柔軟なマインの軟体を、たっぷりと堪能する。
……そして激しすぎる情事のあとは、やっぱり本に戻されたので、そういう仕組みは当然リーファにも知られることとなった。
「この駄本!エロ本!もう本から出るなーっ!」
真っ赤な顔で叫ぶ涙目のリーファ。
「まあまあ、リーファにもいつか分かるわ。うふふ♡」
天然無防備エルフママにはリーファも苦労しそうだなぁ。
そんな何度目かの真夜中のイチャイチャのなか、俺はふと視線を感じた。
暗闇の中に光る目だけが浮かび上がる……。
なっ!!!?獣かっ!?
……リーファでした。
……まあ多感な年ごろだし、仕方ないのかな。
でもやっぱり気にはなるので、そういう事をするときは場所を変えて分からないように努めた……のだが毎回リーファに探し出され覗かれてしまった。
……ちょっと君ハンティング能力高すぎない!?
とまあ、そんな昼と夜の不思議な生活環境のなかで、1か月が過ぎていった。
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