第4話 やっぱり俺、本のようです

『!?』ドクン!ドクン!……何だっ!?熱いっ!?

全身の血液が入れ替わるような、沸騰するような高揚感が俺を襲う!


その衝撃と同時に後ろに転げ、尻もちをつくマイン。


「あ、あなたは!?」

ん!?尻もちをついたままのマインから見上げられている?


あ……人だ……俺。


「人に戻ってる?」

……ん!?声も出せてる?


今まで本という不思議な感覚だった状態から、久しぶりの人間という状態に戻された俺は、この久しぶりの感覚に戸惑い、ぼーっとしたまま裸であることを忘れ、しかも女性が前にいることも忘れ、自分の身体をまじまじと観察してしまった。


「……若返ってないか?」

鏡を振り返った俺は、そこに映る姿を見て驚いた。


そこには大学生だった頃の俺がいた。

ショートめのミディアムヘア、二十歳(はたち)くらいだろうか、懐かしい。

10代から20代へと、少年から青年の身体つきになった頃の俺だ。

程よく肉付きのいい身体、でも弛んでいるかというとそうではなく、程よく筋肉の乗った鞭のようにしなやかさを秘めた身体つき。

そして何故か元気な下半身。

自分の姿であるが、そんな自分の姿に見惚れてしまった。


ベタベタ自分の身体を撫でまわしたり、髪をかき上げたり、ぐふふ。


ただそこに映る俺は、黒目黒髪の当時の姿とは違い、ブルーブラックの瞳、そしてブルーブラックの髪色をしていた……まるであのインクのような・・・。


「あの……」


我に返って振り返ると、尻もちをついたままのマインが呆けたようにこちらを見ていた。


「あの……コレ」

目元を赤らめたマインがおずおずと俺を、俺の股間を指さしてくる。


「!?うわっ!?」

俺、素っ裸だった!!!そして元気な俺の下半身!焦って隠そうとする俺だったが、それよりも早くマインの手が優しく俺を包む


「えっ!?なに!?」

思わず叫ぶ俺。


「だって、殿方はこうなると大変でしょ?わたしもずいぶん久しぶりですので。うふふ♡」


「それにアーツ様、瑞々しくて素敵ですので。うふふ」


……やっぱり、やっぱりこの女性ひと天然や……。


「うふふ♡いろいろお話もありますし、続きはベッドのなかでどうですか?」

艶っぽく目元を赤らめたマインは優しく俺の手をにぎると、そのまま部屋の奥、ベッドへと俺を引いて行った。


◆◇◆◇◆


……そして一夜が明けて……


「……どうしてこうなった???」


昨日の夜……から今朝方まで、俺とマインは熱い夜を共にした。


俺も成人男性だし、中規模ながらも会社の経営者であったので、公私ともにいろんなお付き合いもあった。そんないろんな経験がある俺でも昨日は夢のような一夜だった……。


エルフって皆あんなに身体が柔軟なのか……軟体って言うのだろうか?マインの身体はとっても柔軟で、ありとあらゆる体位で俺を抱きしめ、お互いの汗ばんだ肌と肌が、全て溶けあうように密着しあった。


うっ!思い出すだけで鼻血が出そうだ!


これはマズいと気持ちを落ち着け……気を取り直してベッドで寛ぎながら、改めてマインからこの世界の事を教わった。


この世界は、精霊という自然エネルギーのような存在があるおかげで、長い間成り立ってきたという。


そんな様々な精霊たちが数年前から存在感を失い、それは様々な種族の生活に深刻な影響を与えている。いずれは世界の終焉がくると言われている。


もちろん様々な国や種族が、これを解決するために乗り出しているが、今のところ目ぼしい結果が出ていない。


そんななか、精霊との親和性が強いエルフの精鋭たちが精霊界へと旅立ったのだが……。


「帰ってこなかったというわけか……」


「はい、そんななか日々お祈りが続いたのですが、ある日突然、私の手元に本が現れたのです」


二人とも寝起きの状態、生まれたままの姿で同じベッドの中にいる。

寝起きのマインも可愛い。夜が明けるまえ……朝朗の明かりの中、間近で見るマインは本当に綺麗だ。


我を忘れ見とれそうになる俺を、マインの言葉が現実に引き戻す。


「本より現れ、人のお姿のアーツ様を見たときに、わたしは使命を感じました」


「アーツ様の人としての姿を見た瞬間、胸が!身体が燃え上がりました!」


「そしてアーツ様との名残りがわたしの中に……」

そう言って自分のおなかを優しく撫でるマイン。


「ぎくっ!!!」

昨晩は征服欲を満たしてしまった……この世界、ゴムって無さそうだし。

……英雄色を好む……俺は必死で話を戻そうと、言葉を変える。


「そ、そういえば俺が本から現れた!?今そう言ったのか?」

言いながら、化粧台へ振り返った俺は、その上に本(元俺)があるのを確認した。

……本が俺(人)に変わったんじゃないのか……俺が本から出てきたのか。


となるとあの本は何だ?


少し恥ずかしいが、ベッドを降りて裸のまま本を取りに行き、ダッシュでベッドに戻った。


……マイン……俺の姿にくすくす笑いしてるし。


「とっ、兎に角これからどうするかなんだが」


「はい!アーツ様と精霊界へ旅立ちたく思います」

グッと身体をこちらへ向け、キラキラした瞳で俺を見つめるマイン。


マインの動きでシーツがはだけ、汗に濡れて艶々した巨乳がこぼれそうになる。


こ、このエロ……じゃなくて天然無防備エルフめ!


……理性を保つのが大変なんだよ。

目を閉じて深呼吸。


もちろん俺も来て早々、「まもなく此の世の終わりだ」と言われるなら、なんとかしたいと思う。


「ああ、俺に何ができるか分からないがやってみよう」

どちらにしてもこの世界を見てまわらないといけないし、目的があるという立ち位置は、自分の性分に向いている。


それにしても……ようやく本を手に取ることができた。


やはり豪華なつくりの本で、表紙には金属で彩られた装飾や、かつては宝石?が嵌っていたかのような窪みがいくつかあった。


そして本の中は……どうやら白紙のままだ。


ん!?でも意識を本に向けると、前の世界のデータベースや今の世界で得た知識が、白紙のページに現れる。

……念じればデータを引き出せるということか。


そこで、これまでに得た知識、精霊術もページに描き出され、書かれた内容の精霊術を唱えてみる。


……おっ!?……ん!?……何も起こらない。

何か引き出せそうな気はしたんだが……。


「マインは精霊術を使えるのか?」


「はい わたしは水の精霊と契約しておりますので」

そう言いながらマインは手のひらをそっと掲げ精霊音を唱える。

……マインの手のひらに空気中から集まるように水の塊が姿を現す。


「それが精霊か……」

まるで魔法……いや、俺からすれば魔法みたいなものか。


マイン美しい耳の形、その横顔を見ていると、不思議なことでも違和感なく当たり前のように思えてくる。その横顔に少し見惚れる。


「本当はもっと大きな精霊を出せるのですが 精霊の力が弱まっている今は 出せる精霊も少なくなってきています」

マインがふっと力を抜くと、その水精霊は空気に溶け込むように消えていった。


「……俺にも使えるようになるんだろうか?」


「きっと!きっとアーツ様なら使えるようになると思います!」


マインのキラキラと輝く瞳を見ながら思う……これは期待に応えないとな!

そうして二人で話しながら、朝のイチャイチャモードに入ろうとした時……。


……俺はまた本の中に吸い込まれた。


やっぱり俺、本のようです。

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