第3話 俺の中から熱いリビドーが!

「ふぅ、いくら調べても分かりません、中身は白紙ばかりのページ……」

……いつものように女性は独りごちる。


俺のことを真剣に調べてくれているようだが……どうも俺は豪華ながら全て白紙のページの本らしい。


『白紙のページか……俺が執筆活動しようとしていた本にも似てるな』


女性の辛そうな表情から、俺は何とか女性の役に立ちたいと思っていた。


そして俺も女性と何とか意思疎通できないものかとあがいていた。


……そんなある日、女性は俺を力いっぱい胸に抱き、祈っていた。


「どうか、どうか精霊女王さま、この世界を超えて召喚してくださったこの本にお力を!」


さて、俺は本だけど、男性だ。


毎日優しく胸に抱かれ、身体を弄られ、そろそろ限界に来ていた。

……現在、俺の視覚と触覚は最大限に女性の胸を堪能している!


そしてついに俺の脳内の欲望、リビドーが爆発した。


『うっ、もうダメ……イ、イクっ!』

いわゆる男性の生理現象である。

普通、普通の事である。むしろ今まで我慢していた自分を褒めてあげたい。


……そして、俺がイった時、奇跡が起きた。


俺の身体(本です)が光輝いたのである!


一瞬すさまじい光がページの隙間から漏れる!(液体ではなく光です)


「!?」当然女性もその光に驚く。


白光の輝きはひと時のもので、すぐに消えてしまった。

それでも女性は驚きと、少しばかり期待の表情を込めて、震える手で本を開いた。


俺を見つめ肩を落とす女性。


「……本は白紙のまま、今のは何だったの?」

白紙のページを見つめ、今の期待が裏切られたかのように女性が呟く。


俺も驚きとイキ後の賢者モードで思考が止まっていたが、女性の落胆した顔と「白紙」という言葉を聞いて、思わず声をかけずにはいられなかった。


『ごめんな、役に立てなくて』


「!!!!!?」女性の驚愕の顔!


「白紙のページに文字が!?何!?あなたは誰!?」


『ん?俺の声が聞こえるのか?』


「聞こえる?いいえ、本に言葉が綴られていく……?」


どうやら俺の言葉が、音ではなく文字として浮かび上がるらしい。


『俺の言葉が分かるのか?』


「ええ、分かるわ……。はい、分かります」

驚きから素の話口調であった女性がたたずまいを直し、丁寧に答える。


『そこまで畏まらなくてもいいんだが、でも先ずは意思疎通がはかれて嬉しいよ』

俺もこの世界に来て初めての意思疎通に大きな前進を感じた。

周りの奴ら(本)は無口だったからなぁ。


「あなたは……あなたはいったい?……ずっと白紙のページだったのに……」


『いや、俺は』……恐らく俺がイった時の光で文字を浮かべる事ができるようになったのだろうか?

リビドー……欲望の力か……。


それから俺たちは、俺が『本』として以前の世界から渡ってきたこと。

それから話すこともできずあがいていたことや、図鑑たちから知識を得たことなどを話した。


『なあマイン、この世界では本として生きることは普通にある事なのか?』


彼女の名前は「マイン」というそうだ、人と人とのコミュニケーションでは先ずお互いの名前を知ることは大事……俺は本だけど。


「いいえ、そのようなことは聞いたことがありません。生きる本はモンスターだと思われて討伐されるかと……もちろんモンスターですので意思疎通はできませんが」


『そうなのか、良かった!意思疎通ができる普通の人に巡り合えて!』

ホッ……来ていきなりモンスターとして討伐されなくてよかった。


「それよりもアツ、アッツ、アツッシ……さま」


『篤……アツシだよ、この世界で発音しづらいなら、呼びやすい言い方で大丈夫 話し方も普通に接してもらって大丈夫だ』


「ありがとうございます。それでは……アーツ様、で宜しいでしょうか?」


『畏まらなくても良いんだけど。でもいい名前だ。ありがとう』

にっこりと笑うマイン、少し緊張がほぐれたのか、柔らかい笑顔が可愛い。


「アーツ様。それではこの世界の事についてこれからお話いたします」

ついに、やっと本題に来れた!田舎の古民家で徒然なるままに暮らそうと思っていた矢先の衝撃!長かった……気を取り直してマインの話に耳を傾ける。


「この世界から精霊力が消えようとしています……」

マインはこの世界が終わりに近づいていることについて、ぽつりぽつりと話してくれた。

精霊力?……よく分からない力だがこの世界にとってかけがえないエネルギーらしい。


きっと俺がいた世界で、石油、電気、ガスなどのパワーエネルギーだけでなく、火や水、空気といったライフエネルギーまで消えていくという事なのだろう。


『そうなのか、でも俺がこの世界に来た事と関係が?』


「いいえ、それはまだ分かりません。でもこの世界を助けてくださるように精霊女王にお願いを続けていた日々。そんな日々のなか、ある日突然あなたが現れたのです」


『なるほど……その辺りも分かると良いのだが』


「はい、祈りの日が続く中でアーツ様が現れた日はいつもと変わらぬ祈りの日だったように思います。ですがその日は私の祈りだけでない想いも感じました」


……何だろう俺が執筆活動しようと机に向かった事と親和性が?

その辺りは考えても仕方がないので、おいおい調べていこう。


「それにしてもアーツ様、突然私たちの意思疎通がはかれた事は嬉しいのですが、何かアーツ様のお力に変化が?あの光はいったい?」


……!?その話題、振る!?


『いやっ、そのっ、それはまあ……俺が男として頑張ったからだよ(遠い目)』

本当は、男として耐えらず果ててしまったのだけど……表情を硬くしながら(本だけど)答える俺。


「男として?頑張る?」

濡れたような艶やかな唇に指をあて、小首をかしげながら聞くマリン。


そして言葉の意味をよく理解しようと、俺の言葉が書かれたページをまじまじと見つめる。


そんなに艶っぽく見つめられると……また光ってしまいそう。


『俺は本としてこの世界に召喚されたようだけど、身体の感覚は残っているからマインの優しい手や身体が触れると……まあ裸の身体を弄られるような感覚なんだよ……俺も成人男性だし……マインのような美しい女性に触れると身体の反応がね』


「まあ!それは気づかずにすいません!でも美しいだなんて嬉しい!」

「でも殿方のそのような反応は分かります。私も1児の母ですので」


『……えっ!?マイン結婚してるの?しかも子持ち!?』


「はい。主人は娘のリーファが産まれてすぐ流行り病で亡くなってしまいましたが」


『……そ、そうだったのか』

てっきり前に見た娘は妹かと思ってたよ……娘か……そして未亡人か。


よく観察すると、人間だった俺の年齢よりも少し年下に見えるし、マインは人に換算すると20代後半くらいなのか……。


『でも出会ったのが綺麗な人で良かった……』

……おおっと心の声が出てしまった、正直出会い系サイトでメールしてるようなドキドキ感がある。


「うふふ、わたしもアーツ様が殿方で嬉しいです。男性とのお話はとても久しぶりなので」と、扇情的な表情を浮かべ、俺(本)を摩るマイン。


『ちょ!ちょっと それヤバイ!』しごかれるような感覚に焦る俺!


「うふふ、えいっ!えいっ!」笑顔で勢いよく俺を摩るマイン……この女性ひと天然や。


「っ!?」!!!?

どうやらマインは激しく擦りすぎて、白紙のページで手を切ってしまったらしい。

……紙で手を切るのは、あるあるだな。

けっこうスパッと切れたらしく、マインの血が俺のページを赤く染めていく・・・。


「あらっ!?」

手が切れた事も忘れ、俺のページを見つめるマイン。


「血が吸い込まれていく……」


『!?』ドクン!ドクン!……うおっ!何だっ!?熱い衝動リビドーが俺の中からっ!?


またオレ光っちゃうの!?

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