第272話:スレイグの涙

「あ、あの、スレイグ様! これは――」

「娘のことを、頼んだぞおおおおぉぉっ!!」

「…………えっ?」


 スレイグがまさかの大号泣を見せたことで、カナタはきょとんとした顔で驚きの声を漏らした。


「私は、この日が来るのを、今か今かと……グズッ!」

「あの、その、スレイグ様? どうして、泣いているんでしょうか?」

「カナタとリッコが婚約したのだ、泣かずにはいられんだろう!」

「……ということは、認めていただけるんですか?」

「当然だ! というか、私はずっとカナタのことを息子だと思っている! 子供だと、何度も言っていただろう! これで本当に私の息子になるんだな……あぁ、なんて素晴らしい日なんだ!」


 そう口にしたスレイグはさらに泣き出し、カナタでは収拾を付けることができなくなっていた。


「もう! お父様!」


 そこへ声をあげたのはリッコだ。


「カナタ君が困っているでしょうが!」

「だ、だがなあ、リッコ! というかお前、どうして婚約したことを教えてくれなかったのだ!」

「そ、それは、スタンピードで忙しかったからじゃないのよ!」


 スレイグの問い掛けにリッコが答えると、その言葉を受けてカナタは確認すべきことを思い出してハッとした。


「そうだ! リッコ、ワーグスタッド領のスタンピードはどうなったんだ? みんな無事だし、押さえ込めたってことなんだと思うけど、被害はどれくらいあったんだ?」


 カナタの言葉には後方で控えていたロックとゲインも表情を引き締め直した。


「被害? 特に出なかったわよ?」

「「「……えっ?」」」


 だが、リッコがあっけらかんと『特に出なかった』と口にしたことで、カナタたちは驚きの声を漏らした。


「あたいらが完全に押さえ込んでやったからねえ!」

「……それは、本当ですか?」

「そうさね! ……まあ、いいところはリッコに持っていかれたけどね!」


 ローズが自信満々とカナタの問いに答えたが、最後はリッコが活躍したのだと教えてくれた。


「カナタ君の剣があったから、私も活躍できたのよ」

「そっか。そいつが、リッコを守ってくれたんだな」

「その通り。五大魔将を追い払ってやったんだからね!」


 グッと力こぶを見せてくれたリッコに、カナタはクスリと笑ってみせた。


「被害がなくてよかったよ。王都までやってきたスタンピードの被害は、尋常じゃなかったからさ」

「そうだよね。……うん、私たちはよくやったと、自分でも思うよ」


 王都では被害に遭った領地の支援のために様々な話し合いが行われている最中だ。

 そこまでは予想はついていても情報が届いておらず、リッコたちは神妙な面持ちに変わった。


「ということは、ライル様とアル様は残っているのね」

「あぁ。二人も北のスタンピードを押さえるために向かって、五大魔将と戦ったみたいだ」

「えっ? ってことは、王都はカナタ君と誰が守ったの?」


 リッコはライルグッドとアルフォンスが共に戦っていると勝手に思い込んでいた。

 しかし、二人は北のスタンピードを押さえこみに向かったと聞き、誰がカナタと一緒に戦ったのか気になってしまった。


「あー……騎士団長のヴォルフ様と」

「そっか。騎士団長様が残っていたんだね」

「陛下だな」

「そっか。陛下も歴戦の騎士だもんね。当然か…………ええええぇぇええぇぇっ!? へ、陛下ですってええええぇぇっ!!」


 あまりの驚きにリッコが大声をあげ、スレイグとローズは声も出せていない。

 とはいえ、守られるべき人間が自ら最前線に赴き、敵の大将と戦ったというのだから当然の反応ではある。


「……何がどうなってそうなったの?」

「まあ、そうなるよな。でも、話を聞きたいのは俺も同じだし、外じゃなくて別のところで話さないか?」

「むっ、確かにそうだな。リッコ、屋敷に移動しよう。ローズとロックたちも来るといいぞ」


 追究しようとしたリッコの言葉にカナタが場所を変えようと提案し、スレイグが応える。

 こうしてカナタたちは場所を変えて、王都とワーグスタッド領で何が起きていたのかを話し合うことになった。



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