第271話:ワーグスタッド領の現状
ブレイド領から先はどこにも立ち寄ることなくワーグスタッド領を目指したカナタたち。
道中では一向に荒れた様子をみせない街道を進みながら、ワーグスタッド領はどうなっているのかと考えてしまう。
そうして関所を潜った先に広がっていた光景は――
「……今までと、何も変わっていない?」
そう、リッコと共に関所を潜り抜けた時と同じ景色が広がっていたのだ。
「どうやらスレイグ様やリッコ様たちは、スタンピードを完璧に抑え込めたようですね!」
「そうだな。でも、スライナーダがどうなっているのか確認するまでは安堵できないし、急ごうか」
「「はっ!」」
さらに馬を走らせながら景色を見ていたが、どこもかしこも変わらないまま続き、最終的にはスライナーダが見えるところに到着してしまっていた。
「スライナーダも、問題なさそうに見えますね」
「そのようですね」
ロックとゲインが思わず呟き、カナタも内心ではそう思っていた。
それでも心の片隅では万が一があるかもしれないという思いもあり、どうしても安堵の言葉が口をついては出てこない。
だが、彼の思いはすぐに杞憂となった。
「――カナタ君!」
聞き慣れた、それでいて早く耳にしたかった声が自分の名前を呼んだことで、カナタはすぐにそちらへ顔を向けた。
「……あぁ……リッコ……リッコ!」
カナタはすぐに馬から降りると、駆け足でリッコの方へと向かう。
同時に彼女も走り出しており、二人は他人の目も気にすることなく抱きしめ合った。
「遅れてごめん、リッコ」
「ううん、大丈夫だよ、カナタ君。王都に起きたこと、私も聞いているから」
そのまま謝罪を口にしたカナタだったが、リッコは彼がどのような状況に陥っていたのかを知っていると答えた。
「そうだったのか?」
驚きのまま体を離して問い掛けると、リッコは苦笑を浮かべながら頷いた。
「うん。王都からこっちに逃げてきた人がいたみたいで、それでね。カナタ君ならきっと、王都のために動いてくれているはずだって思っていたの」
「……でも、そのせいでこっちに来るのが遅くなってしまったんだ」
やや俯き加減でそう答えたカナタを見て、リッコは彼の額を軽く人差し指で突っついた。
「えいっ!」
「痛っ! ……何するんだ?」
「カナタ君、落ち込みすぎよ。もしも王都が陥落したら、それこそアールウェイ王国の危機なんだから、その選択は当然なのよ?」
「で、でも……」
「でもじゃないの! それにさ、王都の問題が解決したからこうして駆けつけてくれたんでしょう?」
柔和な笑みを浮かべながらそう言われたカナタは、何も言えずに頷いた。
「それならいいじゃない。私はカナタ君が来てくれて嬉しいよ?」
「……ありがとう、リッコ」
そうして見つめ合っていた二人だが、そこへ声が掛けられた。
「はいはーい! イチャイチャするのは後にしてちょうだいね!」
「ろ、ローズさん!?」
「お疲れ様だな、カナタ」
「す、スレイグ様まで!?」
リッコの後方からローズとスレイグが現れたことで、カナタは顔を赤くしながら彼女から視線を外した。
「それに……そっちはロックとゲインじゃないのか?」
「はっ!」
「お久しぶりでございます、スレイグ様!」
「あぁぁっ! ご、ごめんなさい、ロックさん、ゲインさん!!」
さらにスレイグがロックとゲインに声を掛けたことで、自分が二人をほったらかしにしていたことを思い出してしまった。
「お気になさらず、カナタ様」
「そうですよ。婚約者様と久しぶりの再会なのですからね」
「……ん? 婚約者、だと?」
「あぁ~……えっと、それは~……」
だが、ここで二人から『婚約者』という言葉が飛び出したことで、スレイグの表情が険しいものに変わった。
「……えっ? も、もしかして?」
「……スレイグ様、ご存じなかったのですか?」
「…………カナタよ」
「は、はい!!」
そのままカナタに見据えたスレイグは、ゆっくりと彼の方へ歩いていき、その肩をガシッと掴んだ。
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