第270話:立ち寄った自領
ワーグスタッド領へはほとんど寄り道なしに進んでいた。
だが唯一、一ヶ所だけ立ち寄った場所がある。
それは自領になることが確定している元ブレイド領であり、今はヴィンセント・フリックス準男爵が治めている領地だ。
すでにヴィンセントからカナタが領地を治めることが発布されているが、このまま彼が運営を行っていくことも説明されている。
領民からすると不安を感じる部分もあっただろうが、ヴィンセントが継続して治めると聞いて安堵したことだろう。
カナタもカナタで自分が領地運営をできるとは思っておらず、ヴィンセントの提案はありがたいものだった。
「あれ? ヴィンセント様、不在なのかな?」
ヴィンセントの屋敷が見えてきたものの、外から見える彼の部屋に人影はなく、屋敷も静かなままだ。
門番が立っていたのでそちらへ向かうと、彼はカナタのことを知っていたのか片膝をついて出迎えてくれた。
「カナタ様! おかえりなさいませ!」
「いや、あの、ここはヴィンセント様の屋敷ですから!」
慌てて馬を下りたカナタが門番を立たせると、ヴィンセントがどこに行ったのかを確認してみた。
「それで、ヴィンセント様はいらっしゃらないのですか?」
「はっ! ヴィンセント様は軍を率いてワーグスタッド領へと援軍に向かわれました!」
「えっ! そ、そうなんですか?」
まさかワーグスタッド領に援軍で向かったとは思っておらず、驚きの声をあげる。
「カナタ様の奥方の出身地ですから、当然のことだと仰られていましたよ」
そう言いながら笑った門番を見て少しだけ気恥ずかしくなったものの、ヴィンセントの心遣いが嬉しくもあり自然と笑みを浮かべた。
「カナタ様はこれからワーグスタッド領へ?」
「はい。王都にもスタンピードが迫っていて、そこの手助けをしていたので」
「なんと、王都にまで……だから東側が騒がしかったのですね」
「はい。ここまで一直線で進んできたんですが、魔獣が進んできた領地は酷いものでした」
否が応にも目に入ってしまう魔獣が踏み荒らしてきた領地を見て、カナタは胸が締め付けられる思いに駆られてしまった。
建物のほとんどが倒壊し、地面は踏み荒らされてボコボコになっており、人が住んでいたという痕跡がほとんど確認できないほどだ。
今後、これらの土地を再び人の住める場所にしていくのかと考えると、ライアンら王族は頭を抱えることになるはずだ。
「そういうことでしたら、カナタ様は急ぎワーグスタッド領へ向かってください」
「そうですね。ここまで被害が及んでいないので抑え込めたということだと思いますが、皆さんも気をつけてください」
「はっ! ありがとうございます!」
門番とのやり取りだけで屋敷をあとにしたカナタは、今度こそワーグスタッド領へと向かっていく。
抑え込めたのは間違いないだろう。しかし、だからといってワーグスタッド領が無事であるという確証はどこにもない。
ワーグスタッド領でスタンピードを抑え込んだということは、ワーグスタッド領が踏み荒らされているという可能性も否定できないのだ。
(頼む、無事でいてくれよ、リッコ! みんな!)
焦る気持ちを抑えつつ、カナタはロックが走らせる馬に跨るのだった。
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