第273話:状況確認

 スレイグの屋敷にやってきたカナタたちは、お互いの情報を共有することにした。

 カナタたちから伝えられたのは王都の状況や、王都まで辿り着いたスタンピードによる被害状況だ。

 王都に関しては特段これといった被害は出ていないものの、被害を受けた領地を支援するために大量の物資が必要になってくる。

 国庫には膨大な物資が保管されているだろうが、それでも限りはあるだろう。

 その限られた物資の中でどこに、何を、どうやって運んでいくのかを考えているのがライルグッドたちだ。


「となると、殿下やアルフォンス様は当分の間、身動きが取れないだろうな」

「そうですね。俺がワーグスタッド領に戻る時も、自分が行きたそうな顔をしていましたから」


 カナタが苦笑しながらそう口にすると、スレイグも似たような表情を浮かべた。

 仮にライルグッドがカナタたちと一緒にワーグスタッド領へ来たとすれば、それなりの対応をしなければならなくなる。

 スレイグは内心でホッとしていた。


「王都は問題ありませんが、やはり大変なのはスタンピードの通り道になった各領地でしょう」

「そちらに関しまして、皇太子殿下から書簡を預かっております」


 カナタとスレイグの会話に入っていったのはロックだった。

 彼は懐から書簡を一通取り出してスレイグに渡すと、すぐに封が開けられる。


「……まあ、そうなるか」

「どうしたんですか、お父様?」

「もしも被害が軽微であれば他領地への支援をお願いしたい、というものだ」

「皇太子殿下からは被害が大きいようであれば支援は不要だというお言葉もいただいております」


 続けてゲインが補足を付け足したものの、ワーグスタッド領の現状を見るに、他領地への支援を行うのは当然かもしれない。


「とはいえ、こちらから差し出せるものはそう多くないぞ」

「そうよね。鉱山はあるけど、鉱石を送ったところで加工できなければ使えないし、だったら魔獣被害に怯える人たちに自衛のための武具を送った方が助けになりそうだものね」

「食料も自給はしているが、他領地へ送り出せるほどの量は生産できていないからなぁ」


 スレイグとリッコが腕組みをしながら考え込んでいると、大きい声で口を挟んだ人物がいた。


「あんたたち、いったい何を考え込んでいるんだい? ここにはカナタがいるだろうが! 武具を作ってもらって、それを送り届けてやればいいんだよ!」


 ローズがそう口にしながらカナタの背中をバンッと叩いた。


「痛っ! ……ちょっと、ローズさん!」

「あははっ! すまないねぇ!」

「だが、それではカナタ君の負担が膨大になってしまう」

「そうですよ、ローズさん。カナタ君だってワーグスタッド領の問題だけにかかわっていられる立場じゃなくなっているんですよ!」

「なら、なんでここに戻ってきているんだい? 他にやることがあったなら、陛下が許しはしなかったんじゃないかい?」


 カナタに頼りっきりになることを危惧したスレイグとリッコだったが、それをローズは否定する。

 否定の中にライアンの存在を出したことで、二人は確かにと思わざるを得なかった。


「陛下も俺がワーグスタッド領に戻ることを許してくれました。リッコの存在も大きかったと思うけど、きっとスレイグ様を助けるようにという思いもあったんだと思います」

「……私はダメな領主だな。カナタにおんぶにだっこされている」

「そんなことありません。スレイグ様だからこそ、領民も大変な状況の中で逃げることなく、スライナーダに留まっているんですから」

「……ありがとう、カナタ。では、力を貸してくれるだろうか?」

「もちろんです!」


 ワーグスタッド領が他領地への支援を行う分野は決まった。

 次は、被害を受けた領地について考える番になった。

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