第六章:新五大魔将
第268話:プロローグ
――大陸中に散らばっていた猛者と呼ばれる者たちが、王都アルゼリオスの王城、それも王の間に集結していた。
国家騎士の中でも随一の実力を持っている騎士団長のヴォルフ・ガードナーに、皇太子であるライルグッド・アールウェイ、そして皇太子の護衛騎士を務めているアルフォンス・グレイルード。
Aランク冒険者ながらSランク魔獣の討伐や魔族の撃退に貢献しているリッコ・ワーグスタッド。
さらにはライルグッドの推薦によりランブドリア侯爵の私兵であるアルマの姿もあった。
他にも各領地で名前を轟かせている騎士や、Sランク冒険者の姿もあり、事情を知らない者たちは何が起きているのかと首を傾げるばかりである。
「――皆の者、よく集まってくれた」
そこへ国王であり、本人も凄腕の剣士であるライアン・アールウェイが姿を現すと、その場にいた全員が片膝を床につけて首を垂れた。
「顔を上げよ。これから話すことは、皆の顔を見ながら伝えなければならないことだ」
陛下に対して直答が許されるなど、緊急事態の時以外では考えられない。
それが騎士であればまだしも、実際に陛下に仕えていない冒険者にまで直答が許されたとあっては、驚かないわけにはいかなかった。
「この場にいる誰もが、各地で起きているスタンピードの鎮圧に助力してくれたことだろう。だが、これで終わりではない」
ライアンが終わりではないと言い切ったことで、集まった者たちからざわめきが広がっていく。
「魔獣に踏み荒らされた領地も多く、王都にも魔獣の魔の手が迫っていた。そして我らは、魔獣を先導する者と相まみえている」
「そ、その者は倒したのですか?」
集まった者の一人が声をあげると、全員の視線がライアンに集まる。
「王都に迫った魔獣を先導していた者は倒している。しかし、それだけではなかったのだ」
「いったいこの地で何が起きているのですか!」
声を荒らげる者もいたが、ライアンはそれを制するわけでもなく、冷静に言葉で説明していく。
「……この地に、魔王の復活が迫っている」
魔王という単語を受けて、ほとんどの者が顔を見合わせ、首を傾げてしまう。
それも当然で、魔王という言葉自体がおとぎ話でしか聞かないものであり、本当に存在しているなどとは夢にも思わなかったことだろう。
「疑問に思う者もいるだろう。しかし、各地で起きているスタンピードは魔王の配下である魔族が引き起こしたものであり、王都へ迫った魔獣を先導していた者も魔族であったのだ」
普段は静寂に包まれることが多い王の間も、今回ばかりはざわめきが段々と大きくなっていく。
各地の実力者と呼ばれる者たちも、自分たちが経験したことのない相手が敵だと知らされてはどう対処していいのか分からなくなっていたのだ。
「今回、そなたらを呼びだしたのは他でもない、各地でスタンピードを先導している魔族の討伐をしてもらいたいからだ」
「で、ですが陛下! 私たちにそのような大役、務まるのでしょうか?」
「そっちはそれでいいかもしれねぇが、俺は冒険者だ。依頼をするからには、それなりの報酬もあるんだろうなぁ?」
「国のためだぞ、命を懸けるのは当たり前だろう!」
「んだとこらあっ! それを決めるのはてめぇじゃねぇ、俺自身なんだよ!」
ついには怒号まで飛び交うようになってしまい、この場を誰が治めるのかと傍観する者まで現れ始めている。
だが、傍観者を含めた集まった全員が突如として膝をつくことになった。
「ぐおっ!?」
「な、なんだ、これはっ!!」
「……すまんな、皆の者。こうでもしないと、鎮まらないと思ってな」
いつの間にか剣を抜いていたライアンが、重力魔法のグラビティホールを発動させていた。
王の間が大きく揺れ、ぱらぱらと衝撃に耐えられなかった破片が零れ落ちていく。
すぐに魔法を解かれた者の、多くの者がライアンに対して畏怖を覚えていた。
「さて、報酬の話も出たことだ。協力してくれた者には当然、国から報酬を出そうと思っている。だが、それは単純な金ではない。相手は魔族で、強大な力を持っている。死んでしまっては元も子もないからな」
ライアンが話し始めたことで再び静寂が訪れ、全員の視線が彼に集まっていた。
「我が持つこの大剣、グラビティアーサーは一等級である。そなたらには、これと同等の武具を報酬として渡すつもりだ」
そうして告げられた言葉に、今度は全員が声を発することも忘れて驚愕していた。
「グラビティアーサーは出土品ではなく、新たに一人の職人が作り出したものである。その存在を公にすることはできないが、そなたらから希望を聞き、オーダーメイドで武具を作成させることを約束しよう」
「そ、それは本当なのですか、陛下!」
「おいおい、それがマジだったら、世界がひっくり返るんじゃねぇか?」
「……そういうことであれば、協力することもやぶさかではないか」
ライアンの言葉を受けて、この場に集まった全員が魔族の討伐を約束してくれた。
そして、姿を見せることがなかった職人は実のところ、ライアンが座っていた豪奢な椅子の後ろに隠れて話を聞いていた。
(……これだけの数の武具を一等級で作るのか……はは、腕が鳴るじゃないか!)
この世界で唯一の錬金鍛冶師であるカナタは、やる気に満ち溢れた表情を浮かべながら目をぎらつかせていたのだった。
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