第267話:エピローグ

『――あーははははっ! 何よあいつ、やられているじゃないのよ!』


 五大魔将のダークフェイス、フラ、サキュリーサが集まっているとある古城。

 そこでラストナイトが倒されたことを知ったサキュリーサは、楽しそうに大きな声で笑っていた。


『五大魔将筆頭~? 冗談も程ほどにしてほしいわ~!』

『確かに、あいつの態度は昔から鼻についていたからなぁ。いい気味だぜ!』

『落ち着きなさい、お二方』


 フラも同意見だと言わんばかりに鼻で笑っていたのだが、唯一ダークフェイスだけが現状を冷静に見極めていた。


『実際のところ、魔王様の復活を前にして五大魔将の二人も倒されているのですよ? この現状を魔王様が目の当りにしたら、どう思われると思っているのですか?』


 ダークフェイスの言葉を受けて、サキュリーサとフラも黙り込んでしまう。


『……なら、私たちで人間どもを駆逐すればいいんじゃないかしら~?』

『そう言っている貴様も人間の女に負けていたではないか!』

『あら~? そういうあなたもじゃないかしら~?』

『こんな時にまで仲間割れですか、あなた方は』

『そもそも、私たちに仲間なんて言葉は似合わないわよね~』


 魔王を中心に結束している魔族たちだが、彼らに仲間意識というものは存在していない。

 魔王がいなければそれぞれが、それぞれの意思で行動することの方が多いのだ。


『ならば、どうするのですか? あなたが言う通り、人間を駆逐するのですか?』

『……おい、ダークフェイス。勝手にてめぇが仕切っているが、てめぇも人間の女に負けたんじゃなかったのか、あぁん?』


 立ち上がったフラがダークフェイスに詰め寄っていく。


『殺し合いなら後にしてください。今の私は漆黒のダークフェイスではなく、魔王様に付き従う五大魔将として話をしているのですよ』


 拳を振り上げていたフラだったが、魔王の名前を出されたことで振り下ろす瞬間に動きを止めていた。


『……ちっ!』

『そこまで言うならさ~、何かいい考えでもあるのかしら~?』


 フラだけではなく、サキュリーサも表情を引き締めており、ダークフェイスの考えを聞こうと話を促した。


『煉獄のディブロ、そして五大魔将筆頭である必滅のラストナイトが欠けました。ですが、五大魔将が欠けたのは何も今回が初めてではありませんよね?』

『……んだよ、簡単なことじゃねえか!』

『確かに、ダークフェイスの言う通りねぇ~』


 フラとサキュリーサからそう答えが返ってきたこともあり、ダークフェイスはニヤリと笑みを刻んだ。


『えぇ、その通りです。欠けたのであれば――新たな五大魔将を任命すればいいだけの話なのですよ』


 魔族は何も五大魔将だけではない。

 魔王の復活を前にして、各地で名もなき魔族が目を覚まし始めている。

 彼らの中でより強い魔族を選定し、五大魔将として任命することができれば、魔王も人間を相手に後れを取ったことを許してくれるだろうと考えたのだ。


『私が各地へと向かい、魔族の選定を行います。あなた方はここでゆっくりと休まれていたらいいでしょう』

『俺以外の五大魔将に興味なんかねぇな。任せたぜー』


 そう口にしたフラは、古城の一室に入ると古びたベッドにゴロンと寝そべった。


『……ダークフェイス、何を企んでいるのかしら~?』

『何をとは、どういうことでしょうか?』

『あなた、自分に都合のいい魔族を選ぶつもりじゃないでしょうね~?』

『まさか。ですが、もしも心配でしたら、私が一人、あなたが一人を選定するというのはどうでしょうか?』


 疑いの眼差しを向けるサキュリーサを前に、ダークフェイスはこんな提案を口にする。

 黙ったまま眼差しを向けていたサキュリーサだったが、しばらくして小さく笑みを浮かべた。


『……いいわ、あなたを信じましょうかしら~』

『ありがとうございます』

『それじゃあ、頼んだわよ~』


 そう口にしたサキュリーサもまた、別の部屋へ足を向けた。

 残されたダークフェイスは変わらない表情のまま古城をあとにし、新たな五大魔将を選定しようとその姿を影の中に消したのだった。

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