第266話:決着

 鋭利な刃と化した賢者の石がラストナイトに殺到する。

 強固な皮膚が難なく斬り裂かれていき、どす黒い血が噴き出してはグラビティホールによって地面に叩きつけられていく。

 血だまりができるのではなく一瞬で土に吸収されていき、血に染まった地面が出来上がっている。


『ぐぬぬ……あり得ん……あり得んぞおおおおっ! この私が、五大魔将筆頭の、必滅のラストナイトがああああぁぁああぁぁっ!!』


 別の戦地で戦っていた他の五大魔将とは異なり、ラストナイトは本当の意味でピンチに陥っていた。

 金剛のフラのように脱出手段があるわけでもなく、漆黒のダークフェイスや魅惑のサキュリーサのように偽物を用意しているわけでもない。

 実体でカナタたちに戦いを挑み、そして殺されようとしている。


『……貴様さえ、貴様さえいなければああああっ! 私は一人では死なんぞ、貴様だけは道連れにしてやるぞおおおおっ!』


 ボロボロになった体でなんとか立ち上がるラストナイト。その傷口からはドパッと血が零れ落ちていく。

 それでも力を抜くことはなく、顔を上げて目の前の相手を視線で射殺さんと睨みつけた。


『賢者の石の持ち主めがああああああああっ!!』


 ラストナイトの狙いはライアンではなく、カナタを狙って拳を振り上げ、地面へ振り下ろした。

 衝撃で地面が割れ、その割れ目がカナタめがけて広がっていく。


「カナタ!」


 グラビティホールを解いてしまえばラストナイトが自由になってしまう。

 そのせいもありライアンは今いる場所から動くことができず、カナタを助けに向かうことができない。

 一方でカナタ自身もダメージが大きく身動きが取れない。

 今度こそ死んだ――カナタがそう思った時だった。


「やらせんぞおおおおっ!」


 カナタの目の前に大きな背中が立ちふさがった。


「……ヴォ、ヴォルフ、様?」

「絶対に守り抜けよ、ヴォルフ!」

「はっ!」


 ライアンの言葉に気合いで返事をしたヴォルフは、地面にアースヴォルグを突き刺し、ありったけの魔力を込めて土魔法を発動させた。


「アースブレイク!」


 破壊には破壊をぶつけようと、広がる割れ目めがけて広域殲滅魔法のアースブレイクを放つ。

 割れ目がカナタとヴォルフに到達する前に、二人の前方に広がっていた地面が捲れ上がる。

 その勢いに押されて、割れ目は二人を避けて左右に広がりを見せた。


『……ぐ、ぐぬぬ……無念……だ……』


 最後の力を使い果たしたもののカナタを殺すことができず、ラストナイトはそう呟きながら全身から力が抜けた。

 うつ伏せに倒れ込み、そのままグラビティホールに押し潰されたまま、ラストナイトはついに絶命した。


「……あ、ありがとうございます、ヴォルフ様」

「いえ……むしろ、今の今まで気を失ってしまい、申し訳ございませんでした」

「良い仕事ぶりだったぞ、ヴォルフよ」

「ありがとうございます、陛下。ですが、お手を煩わせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」


 ヴォルフは片膝を地面につけて頭を下げる。

 謝罪の意もあっただろうが、実際は立っているのもやっとの状態だったからだ。


「構わん。結果さえ伴えばな」

「はっ!」

「だが、まだ魔獣の存在は残っておる。もう一度だけ、力を振り絞ってもらえるか?」

「もちろんでございます!」

「そ、それなら、俺も……」


 ヴォルフが戦うならとカナタも立ち上がろうとしたが、体に力が入らない。

 そこにライアンから手を伸ばされ、グッと体を引き上げられた。


「肩を貸そうぞ」

「そ、そんな! それはさすがに!」

「構わん。カナタは今回の勝利最大の功労者じゃからな」

「……か、感謝の極みでございます」


 こうして、王都に迫っていたスタンピードは決着を見た。

 五大魔将筆頭のラストナイトの襲撃というアールウェイ王国最大の危機を乗り越え、他の戦場でも一応の戦果を挙げたと言えるだろう。


 しかし、南東から王都まで迫ったスタンピードということもあり、ハーマイル子爵領を始め、進路上にあった領地は多大な被害を受けてしまった。

 残る五大魔将はあと三匹。さらには魔王も残っている。

 魔族という脅威の存在は国民も知るところとなり、アールウェイ王国は早急な対応策を講じる必要が出てきたのだった。

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