第264話:現役の強者

 声の主は本来この場にいてはいけない人物だった。

 守られるべき人物であり、万が一にも殺されるようなことがあれば、アールウェイ王国は存亡の危機に瀕してしまうことだろう。


「……へ、陛下?」

「ここまでよく耐えてくれた、礼を言うぞ、カナタよ」

『……ほほう? 先ほどの奴以上の強者がいるとはな、驚きだ』


 ラストナイトの視線がカナタから後方に立つライアンに向けられる。

 強烈な殺気は今もなお放たれ続けているが、ライアンは平然とそれを受け流し、真っ直ぐに鋭い視線でラストナイトを睨み付けていた。


「ここからは我が相手をしてやろう」

『ここにきてまだ楽しみがあろうとはな……いいだろう、相手になってやるぞ!』

「き、危険です、陛下……」


 痛みを堪えて立ち上がろうとしたカナタだったが、すぐにガクンと膝が折れてしまい顔から地面に倒れそうになる。

 そこでガシッと腕を掴まれ抱き上げられると、素早い動きで大木の幹に優しく下ろされた。


「ここで休んでおれ」

「ですが、陛下……」

「安心せい。我にはこれがあるからな」


 そう口にしてライアンが見せたのは、カナタが彼に献上した王の剣、グラビティアーサーだった。


「さあ、やろうか。異形の魔獣よ」

『私を魔獣と同類とするか……決めたぞ。貴様は圧倒的苦痛を与えながら、ゆっくりと殺してやろう』


 ライアンとラストナイトが向かい合い、殺気と殺気がぶつかり合う。

 それだけで周囲の空気が何倍も重苦しくなったとカナタは感じており、大木の枝から葉っぱがはらはらと舞い落ちていく。そして――


 ――ガキイイイインッ!


「えっ!?」


 カナタの口から思わず声が漏れる。

 ライアンとラストナイトが前に出てぶつかる瞬間まで、彼は二人が動いたことに全く気づかなかった。

 轟音が響き渡り、衝撃波が吹き荒れたことでようやく気づけた。


『ほほう! やはり貴様が真の強者か!』

「知らんな! だが、貴様より強いのは確かだろうな!」

『ほざけ!』


 激しい攻防が繰り広げられ、その度に轟音と衝撃波が発生し、砂埃は落ち葉が吹き飛び、同時に粉々に砕けてしまう。

 この攻防の全てが見えている人間がこの場にいるだろうか。

 もしかするとヴォルフが起きていれば見えていたかもしれないが、それでも微かに見える程度だっただろう。

 玉座に収まり最前線へ出ることがなくなっていたライアンだが、その玉座を実力で掴み取った者として十分な実力を見せつけている。

 一進一退の攻防にカナタは唖然とせざるを得なかった。


「……陛下、なんでこんなに、強いんだ?」


 ライアンが玉座を掴み取った経緯を詳しく知らないカナタは驚いているものの、それでもまだ優位を取れているわけではない。

 その時、ふとカナタはライアンと目が合った気がした。


(ラストナイトと戦っている時に、よそ見をするか?)


 そう思い気のせいだと思おうとしたものの、すぐにもう一度目が合ったように感じた。


(……違う、気のせいじゃない! 陛下は待っているんだ、俺の援護を!)


 カナタ自身は動くことがままならない。

 しかし、彼の武器は自らの肉体でも、作り上げた武具でもない。それは――


「……いけ、賢者の石!」

「よし!」

『なんだと!?』


 ライアンの思惑を完璧に読み切ったカナタは、賢者の石を飛ばして彼の援護に入った。

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