第263話:必滅のラストナイト③
『……面白い!』
「「――!?」」
ギラリと瞳を赤く光らせたラストナイトが片足を踏みしめると、彼を中心に強烈な漆黒のオーラがドーム状に顕現する。
マグマは押し返され、ヴォルフのエンドブレイクは一瞬の拮抗の後にはじき返されてしまう。
「こ、こいつ、力を隠していたのか!」
「ダメだ、マグマが利かない!」
『くくくくっ、言ったであろう。先ほどは五割だったと』
先ほど顕現した漆黒のオーラは消えることなく、今はラストナイトを包み込むようにして留まっている。
『だが、私にこれを出させるとは、なかなかであるぞ』
一歩、ラストナイトが踏み出す。
それだけのことなのだが、彼が秘めていた猛烈な殺気が周囲へと広がりを見せ、カナタとヴォルフは気圧されてしまう。
その一瞬の隙を、ラストナイトは突いてきた。
『まずは、一人』
「ヴォルフ様!」
「はや――ぐがああああっ!?」
鋭い爪がヴォルフへと襲い掛かる。
離れた場所から見ていたカナタが声をあげたが、最も近くにいたヴォルフにはラストナイトの動きが見えていなかった。
間一髪、カナタの声を受けてアースヴォルグを正面に構えたこと。ラストナイトの攻撃が真正面から放たれたことが不幸中の幸いだった。
ラストナイトの爪撃をアースヴォルグが受け止め、ヴォルフは吹き飛ばされたものの致命傷だけは避けることができた。
『運の良い人間だ。だが、それだけであったな』
気絶したヴォルフに冷めた視線を向けていたラストナイトは、そう口にしたあとにゆっくりと顔を横へ向けていく。
その先にいたのはカナタであり、全ての殺気が彼に向けられる。
「ぐっ……か……はっ!?」
騎士ではないカナタには、ラストナイトが放つ殺気を真正面から受け止めることはできなかった。
呼吸が浅くなり、冷や汗が全身から噴き出し、寒気により体が震え始める。
(……だ、ダメだ……死んで、しまう……殺される……!)
『……つまらないな、貴様は』
「がっ……かは……っ!」
そのまま膝から崩れ、地面に両手をつく。
そんなカナタの姿を見てため息をつきながら、ラストナイトは右腕を軽く横薙ぐ。
――ごうっ!
突風が巻き起こり、カナタは大きく吹き飛ばされる。
「がはっ!?」
受け身も取れずに地面を何度もバウンドし、大木に背中から激突する。
肺の酸素と共に血を吐き出し、視界が真っ赤に染まる。
それでもアルフォンスとの鍛錬のおかげか、カナタはギリギリのところで意識を繋ぎ止めていた。
「ぐはっ! ……ぅぅ……ヴォルフ、さま……」
『あ奴はもう立ち上がらん。そして貴様もな、賢者の石の持ち主よ』
次の一撃でカナタは死んでしまうだろう。
だが、ラストナイトの攻撃を防げる者がこの場にはいない。
唯一渡り合えていたヴォルフの意識も戻らないまま。
(くそっ! ……ごめん、リッコ!)
死を覚悟した。
脳裏に浮かんできたのは、愛するリッコの満面の笑みだった。
ワーグスタッド領での再会を約束したが、それを自分から反故にしてしまった。
後悔はしていない。だが、悔いは残ってしまう。
「――まだ終わりではないぞ?」
そこへ響いてきたのは、威厳と自信に満ちた太く逞しい声だった。
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