第260話:アースヴォルグ
「――賢者の石! 斬り裂け!」
カナタの攻撃手段は賢者の石。
空中を自由自在に動き回る賢者の石の動きに魔獣が翻弄されており、動きの速い小型魔獣ですら一瞬で斬り裂いてしまう。
ヴォルフの広域殲滅魔法によって多くの魔獣が倒されている中、カナタも彼に続く活躍を見せている。
その活躍にヴォルフは舌を巻き、他の騎士たちは負けてはならないと奮起した。
「助かります、カナタ殿!」
「これくらいは当然です! 剣術はまだまだですが、賢者の石は最高の攻撃手段であり、防御手段なんです!」
お互いに背中を守りながら最前線で戦っていると、ついに中型から大型の魔獣が姿を現してきた。
『グルオオオオアアアアァァアアァァッ!!』
大咆哮がカナタたちを襲い、一部の騎士の動きが鈍くなる。
「アーススピア!」
「貫け! 賢者の石!」
そこへヴォルフの魔法とカナタの賢者の石が放たれる。
中型の魔獣を貫き、そのままの勢いで大型魔獣にダメージを与える。
苦悶の声が聞こえてくると、大咆哮に委縮していた騎士たちの体にも力がみなぎり、声をあげて自らを鼓舞していく。
「怯むな! 王都を守る騎士たちよ! 我らには共に戦う知恵がある! 一人で戦うな、仲間と共に戦うのだ!」
「「「「おうっ!」」」」
魔獣への対処法は常に頭の中に叩きこんでいるが、それでもいざ実戦となれば話は変わってくる。
体に染みついていたと思っても体が動かず、気づけば魔獣が目の前で腕を振り上げている。
そんなことにならないよう、ヴォルフは声をあげて騎士たちの奮起を促した。
「お前たちは前線を維持しろ! 私は敵の首級を仕留めに行く! 腕に自信のある者はついてこい!」
ヴォルフの言葉に数名の騎士が名乗りを上げ、さらにカナタも肩を並べた。
「奥までついてこられるのですか?」
「ここまで来たら、最後まで付き合いますよ。それに、死ぬつもりなんてないですしね」
「確かに。では、向かうぞ!」
「「「「おうっ!」」」」
カナタたちはヴォルフを先頭に三角形の陣形を取り、一点突破で奥へと突き進んでいく。
大型の魔獣が現れたとしても、アースヴォルグを持つヴォルフの一撃が放たれると、巨大な体躯が両断されてしまう。
アースヴォルグをヴォルフが持つだけで、元々一騎当千だった実力にさらなる迫力を与えることとなった。
「散れ! 貴様らに用はないのだああああ!」
カナタや騎士たちはこぼれた魔獣を仕留めているが、それらも傷を負った魔獣ばかりであり、苦戦することは一度もない。
とはいえ、中には一撃で仕留められない耐久力の高い魔獣もいる。
しかし、それをすぐに察知したヴォルフは一撃ではなく、返す刃で二撃目を浴びせて一瞬で肉塊に帰してしまう。
「……すごい迫力だなぁ」
思わず呟いたカナタの声に、騎士たちもごくりと唾を飲みながら頷く。
ヴォルフの気迫は魔獣にも伝わっており、動きが完全に委縮していた。
「一気に駆け抜ける! この場に来たものは自分の身は自分で守り抜くのだ!」
「「「「はっ!」」」」
「分かりました!」
騎士たちが、カナタが返事をした直後――ズンと強烈な殺気が彼らに放たれた。
「……どうやら、首級が現れたようだな」
「……そう、ですね」
ヴォルフがアースヴォルグを構え、カナタは賢者の石を呼び戻し自らの身を守る。
騎士たちは全身から冷や汗を噴き出させているが、ヴォルフの鼓舞が利いているのか委縮しているということはない。
『――ほほう? なかなかの強者ではないか』
進行方向の奥から声が響いてくるのと同時に、魔獣たちが左右に割れていく。
魔獣たちのまさかの行動にカナタたちは驚愕し、その先から姿を見せた存在にヴォルフまでもが汗を噴き出してしまう。
『そこの人間、貴様だ』
「……なんのつもりだ?」
『私の相手をする栄誉を与えてやろう』
「……いいだろう」
「ヴォルフ様!」
「カナタ殿は騎士たちを頼みます」
一歩前に出たヴォルフがアースヴォルグを構えて目の前の存在と相対する。
『私は五大魔将筆頭、必滅のラストナイト。人間どもを必滅してやろう』
「国家騎士団長、ヴォルフ・ガードナー。参る!」
気合いの声を張り上げたヴォルフの周囲に、土魔法が展開された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます