第259話:王都襲撃
騎士団の動きは迅速で、南門を背にした陣形が即座に形成された。
外壁の上からは魔獣の群れが一望できているが、最後尾までは確認できていない。
それだけ大量の魔獣がアルゼリオスへ迫ってきている。
「……カナタ殿。この剣の銘はなんというのだ?」
陣形の先頭に立つヴォルフは、一緒に並び立っていたカナタへ声を掛けた。
「ヴォルフ様がつけてください。使い手が名付ける方がいいと思うので」
「……では、アースヴォルグと銘させていただきます」
背負っていた大剣――アースヴォルグを抜いたヴォルフが突き上げると、騎士団全体に届くほどの大声で号令を発した。
「我々が背にしているのは王都アルゼリオス! この命に代えても絶対に守り抜くのだ! いいか、決して諦めるな! 最後の一兵になろうとも戦い抜くぞ!」
ヴォルフの大号令に呼応して騎士団が一糸乱れぬ動きで地面を蹴りつける。
ズン! と音が響き渡り、地面が揺れたのではないかと錯覚してしまう。それほどに騎士たちの士気は高く、その気配が揺れを錯覚させていた。
「先手必勝! 先兵を打ち砕くぞ!」
そう口にした直後、突き上げたままのアースヴォルグから強烈な茶の光が放たれ始めた。
「爆砕――アースブレイク!」
ヴォルフがアースヴォルグを振り下ろしたのと同時に、前方の地面から同じ茶の光がほとばしり魔獣へ向かい突き進んでいく。そして――
――ドゴオオオオオオオオォォン!!
広範囲の地面が一気に盛り上がると、そのまま岩盤もろともひっくり返したのではないかと思われる規模で魔獣を飲み込んでしまった。
「……な、なんだ、これは」
「……団長だ……ヴォルフ団長だ!」
「すごいぞ! さすが団長!」
アースブレイクの威力を見て、騎士団から驚きと歓喜の声があがった。
しかし、一番驚愕していたのは当の本人だ。
「……これが、アースヴォルグの力、なのですか?」
「はい。土属性と相性のいい素材を使っていますから、魔法の威力も増幅されているはずです」
「これは、増幅と一言で終わらせていい威力ではないと思いますが……」
カナタの説明を聞いてもすぐには納得できなかったヴォルフだが、今この時、この状況においては嬉しい誤算だった。
「……だが、ありがたい!」
驚きの表情は獰猛な戦士のものへと変わり、剣先を大地が砕けた先へ向けた。
「アースレイン!」
砕けて盛り上がった大地から土塊が渦を巻きながら舞い上がっていく。
巻き込まれた魔獣が撃ち抜かれて倒れていき、土塊と一緒になって上昇。
「降り注げ!」
そして、舞い上がった土塊はヴォルフの合図とともに彗星のごとく魔獣へと降り注ぎ、大量の魔獣が絶命していく。
魔獣の悲鳴が聞こえてくると、騎士たちからは歓声があがる。
しかし、ヴォルフとカナタの表情だけはいまだ変わらず引き締まったままだ。
「魔力は大丈夫ですか?」
「問題ない。だが、魔獣の主力と激突するまでは温存しておきたいのも本音よ」
そう告げたヴォルフは再び大声をあげた。
「ここからが本番だ! 武器を取れ! 魔獣を倒せ! 我らが都市を! 王都アルゼリオスを守るのだ!」
「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉおおぉぉっ!!」」」」
大号令と共にヴォルフが駆け出すとカナタが続き、さらに騎士団が地鳴りをあげなら魔獣の群れへと突っ込んでいった。
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