第257話:カナタの出発
自分に可能な限りの速度で錬金鍛冶を行なってきたカナタは、ついに騎士団全員分の武具を整えることに成功した。
中には強い者に専用の武具を作った方がいいという意見も多くあったが、多くの命を無駄な犠牲にしないため、という騎士団長であるヴォルフの意見が通った形だ。
カナタもヴォルフの意見には賛成であり、体に鞭打って作業を進めていた。
「……よし、これでいいかな」
とはいえ、強い者に専用の武具を、という意見にも理解を示しており、カナタはこっそりではあるがヴォルフ専用の武具を作成していた。
そして、今日はその武具を渡す日でもあり、ヴォルフが北へ出立する日でもある。
現在騎士団は訓練場の中央に集められており、ヴォルフが号令をかけているところだった。
「ヴォルフ様!」
ヴォルフの号令が終わり、彼が後ろに下がったタイミングでカナタは声を掛けた。
「おぉ、カナタ殿! いったいどうされましたか?」
最初こそカナタの力を疑っていたヴォルフも、今では経緯を露わにするほど態度が一変している。
カナタも騎士団を任せられる人物であれば、王族を守るために誰であっても一度は疑ってかかるべきだろうと考えているので特に気にはしていない。
とはいえ、こうして態度が変わったのを見ると、自分が認められたのだと嬉しくなってしまう。
「実は、ヴォルフ様専用の武具を作ってみたので、一度試していただけないかと思いまして」
「……わ、私専用の武具、ですか?」
「はい。ヴォルフ様の意見は多くの者に質の良い武具を、というものでしたし、それには俺も賛成です。ですが、より力ある者が下の者を守るために力を得るという意見にも、理解できます」
「私も理解はできる。だが、私だけがそれを手にするというのは――」
「皆を守るためです。それに、騎士団長という地位は他の騎士たちと同等の立場なのですか? ヴォルフ様だからこそ、唯一無二の武具を持つにふさわしいと、俺は思います」
カナタの言葉を受けて、ヴォルフはハッとした表情をしたあと、大きく頷いた。
「……ありがとうございます、カナタ様。それでは一度、見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。よろしくお願いします」
ヴォルフだけではなく、カナタもごくりとつばを飲み込みながら彼専用の大剣を魔法袋から取り出す。
あまりに重量があり過ぎるため、カナタは柄だけを取り出すと、そのまま引き抜くようヴォルフに伝えた。
「い、いいですか?」
「はい、お願いします」
言われた通りに柄を握ったヴォルフは、それだけで手に馴染むことに驚いてしまう。
そのまま引き抜くと、そこには銀と茶の色が太く長い剣身の上を波打たせる、巨大で美しい大剣が現れた。
「……おぉ……これは」
「ど、どうでしょうか?」
「……はは、どうもこうも、素晴らしいです、カナタ様!」
カナタからすると重量のある大剣だったが、ヴォルフはそれを軽々と持ち上げ、その場で二度、三度と素振りを繰り返す。
気づけば騎士たちの視線がヴォルフへ集まっており、誰も口を開くことなく静まり返ったまま見つめていた。
「……まさかこれも、一等級なのですか?」
「はい。切れ味、丈夫さ、重量。ヴォルフ様の戦闘スタイルも聞いていましたので、攻撃特化の武具に仕上げてみました」
「これがあれば、どんな魔獣を相手にしても倒せそうな気がしてきますな!」
「そうしてくれると助かります」
年を重ねたヴォルフの表情が、まるで宝物を手に入れた子供のようになっている。
それだけで彼が満足いく作品を作れたのだと、カナタは嬉しくなる。
「感謝いたします、カナタ様」
「スタンピードを抑え込む。どうかよろしくお願いします、ヴォルフ様」
「はっ! 絶対にアールウェイ王国の危機を救って――」
――カラン! カラン! カラン! カラン!
突如、満面の笑みを浮かべながら語っていたヴォルフの声を遮るようにして鐘の音が激しく打ち鳴らされた。
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