第254話:本気と本気

 若干守りに入っていたアルフォンスが、本気でフラとの戦いに臨む。

 ホワイトダンスから冷気が立ち上り、周囲に展開した魔法を解き放つ。


「アイスランス」

『金剛防壁!』


 無数のアイスランスがフラへ襲い掛かるが、地中に混ざっている微量の金属を操り鋼鉄の壁が立ちはだかる。

 全てのアイスランスが防がれるものの、アルフォンスはすでに動き出して金剛防壁を回り込んでいた。


「はあっ!」

『ふんっ!』


 再びぶつかり合うホワイトダンスとフラの拳。


『むっ! はは、やるじゃないか!』


 しかし、今回は強烈な冷気がホワイトダンスに宿っている。

 受けた拳が一気に凍結していき、思わずフラは下がってしまう。


「逃がすか!」

『いいねえ! やろうぜ!』


 だが、フラもこれで終わるほど弱くはない。

 五大魔将は魔王に次ぐ実力を持っている魔族である。

 フラは全身に熱を帯びさせた血液を循環させると、氷を溶かすだけではなく、金属を溶かして成形し、自由自在に操り始めた。


『ははっ! ここからが俺様の本気だ!』

「貴様の熱が勝つか、私の氷が勝つか」

「『勝負!』」


 周囲を冷やしながら氷を展開し魔法を放つが、その全てがフラが放つ熱によって溶かされてしまう。

 時間が経てば経つほどにフラの熱は高温になり、冷気よりも熱気の方が勝り始めてくる。


『あはははは! どうした、どうしたああああ!』

「……」

『なんだ! 何か言えよ、おい! つまらねえだろうがあ!』

「……ダイヤモンドダスト」

『んだよ! また魔法か! もっと殴り合おうぜ! 斬り合おうぜ!』

「悪いが、貴様に付き合うつもりはないんだ」

『ふざけんな! 俺ともっと楽しもう……あぁん? なん、だ……こりゃ?』


 アルフォンスは最初から仕掛けていた――ダイヤモンドダストを。

 微細な氷をフラに気づかれないよう周囲に展開し、少しずつ体内を侵食させていた。

 フラの熱で溶かされていたものの、氷は水になって体内に蓄積し、アルフォンスは冷気を極限まで上昇させて一気に凍りつかせたのだ。


『ちっ! こんなもん、俺様の熱で――』

「アイスブレイド」

『――ぐはっ!?』


 フラの体内から氷の刃が無数に突き出し、熱を帯びた血が噴き出す。氷と接触して蒸発させ、水蒸気へと変わる。

 水蒸気にどす黒い血が混ざり、フラの周囲を黒い煙が包み込んだ。


「言い残すことはないか?」

『……はは……はははは……いいねえ、あんた!』

「貴様、何を言って――!?」


 勝利を確信したアルフォンスだったが、それが間違いだったとすぐに理解する。

 フラが高笑いを始めたのと同時に覚えた違和感。

 アルフォンスは自らの直感を信じてフラから大きく飛び退いた。


『はは! マジでいいねえ、あんた!』


 直後――フラの体が強烈な熱波で周囲を焼き払いながら爆発した。


「アイスワールド!」


 熱波にアイスワールドをぶつけて相殺していく。

 しかし、熱波はアイスワールドの冷気を凌駕しており、アルフォンスは皮膚を焼かれながら発生した衝撃波に乗ってあえて吹き飛ばされた。


「ぐぅっ!」


 なんとか受け身を取ったアルフォンスはすぐに立ち上がりホワイトダンスを構えた。

 しかし、彼の視界の中にフラの姿はなく、一面焼け野原になった光景だけが飛び込んできた。


「……逃がしたか」


 逃がしたのか倒したのか、その判断は早計かもしれない。

 しかし、アルフォンスに手ごたえは一切なく、むしろ強者の気配は残されたままだ。


「……仕方がない。殿下とアルマの援護に――」


 ――グルオオオオオオオオォォォォッ!


 ライルグッドたちのもとへ向かったサキュリーサの討伐を考えたアルフォンスだったが、前方から魔獣の咆哮が大量に聞こえてきた。


「……ダメだ。まだスタンピードは終わっていない」


 この場にとどまることを選択したアルフォンスは、サキュリーサの相手をライルグッドとアルマに任せることを決めた。



※※※※

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▼ISBN

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https://kakuyomu.jp/users/toguken/news/16817330648625607945


次回の更新は一度だけ二日後の11/10、以降は三日に一回のペースで更新を行います!

これからもweb版、書籍版共に『錬金鍛冶師』をよろしくお願いいたします!

※※※※

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