第253話:激突

 ――ドンッ! ドンドンッ!


 ホワイトダンスとフラの拳がぶつかり合うたびに轟音が鳴り響き、衝撃で地面が吹き飛び、衝撃波で周囲に砂煙が舞い上がる。

 アルフォンスは斬れないことに驚愕し、フラは砕けないことに歓喜している。

 倒したい者と楽しみたい者、その違いが二人の表情にはっきりと出ていた。


『ふはははは! いいなあ、あんた!』

「楽しみたいなら一人で楽しめ!」

『そりゃ無理だ! 強い相手がいないとつまらないからなあ!』


 楽しそうに声をあげるフラだが、アルフォンスとしては彼だけに注意を払えばいいわけではないい。

 ここまでは手を出していないものの、魔族はフラとは別にもう一人いるのだから。


(ここは一度、フラとあいつを分断するべきか)

『余計なことを考えるなよおおおお!』

「くっ!」


 両方に気を配っているはずが、一瞬の隙もフラは見逃さない。

 思考が分断へと移った瞬間に間合いを詰められ、渾身の一撃が突き出される。

 なんとか受け止めたものの踏ん張りが利かずに大きく吹き飛ばされてしまう。


『俺を見ろ! 俺に集中しろ! そうでなければ面白くないだろう!』

『安心してちょうだ~い。私は攻撃しないから~』

「それを信じろというのか?」

『うふふ~。それはあなたにお任せするわ~』


 意識をフラへ向けた途端に攻撃される可能性もある。

 しかし、二匹に意識を向けたまま勝てる相手ではないことも、この短い戦闘で理解してしまった。

 ならばとアルフォンスは意識を全てフラへと向けて、女性魔族には都度対応することに決めた。


「ならば貴様から斬り捨ててやる! 後悔するなよ!」

『いいねえ! おい、サキュリーサ! 絶対に手を出すんじゃねえぞ!』

『だから出さないさよ~』


 フラだけではない。サキュリーサもこの状況を楽しんでいる。

 これが魔族なのかと嫌悪感を抱きながら、アルフォンスは魔法を周囲に展開しながらフラへと突っ込んでいく。


『あらあら、男の子なのね~』


 ぶつかり合う二人を空中から眺めながら、サキュリーサと呼ばれた魔族は視線を遠くの方向へ向ける。

 そこはアルフォンスがやってきた方向であり、軍の拠点が設置されている場所だった。


『……うふふ。私はあっちの方へ行ってみようかしら~』


 サキュリーサがそう口にした直後――視線の先で強烈な火柱が立ち上った。


『おおっ! なんだ、あっちにも強敵がいるじゃない――』

「貴様こそ余裕だな!」

『うおっ!? ……はは、そうだな! あんたを楽しまないと勿体ないな!』


 一瞬だけ視線をサキュリーサに向けたアルフォンスが見たものは、彼女が舌なめずりをしながら火柱を見つめている姿。


(……よし、あちらは任せましたよ。殿下、アルマ!)


 飛んで行ったサキュリーサには目もくれず、アルフォンスは目の前のフラに集中する。


「さあ、やろうか」

『楽しく殺し合おうぜ!』


 アルフォンスとフラの第二ラウンドが幕を開けた。



※※※※

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