第252話:到着
――ドゴオオオオォォン。
地響きを伴う轟音が最前線から響き渡った。
音はライルグッドが待機している場所まで聞こえてきており、天幕の中にいた彼は弾かれたようにして外へ飛び出した。
「……な、なんだ、あれは!」
氷の世界のさらに奥に見えたのは、もうもうと立ち上る砂煙だった。
風に乗って砂や埃が降り注ぎ、強烈な力によって舞い上がったものだということをすぐに察することができた。
「俺も行くぞ!」
「ダメです、皇太子殿下!」
「アルを見殺しにするつもりか!」
「アルフォンス様を信じましょう! それに殿下は彼と約束したではありませんか!」
援軍が駆け付けてからでなければ最前線に出てくることを許さないと、自らの立場を考えるようにと、ライルグッドはアルフォンスに強く言われている。
だからこそ自分の代わりに護衛として信頼できる人物が到着しなければ前に出ることは許さないと。
「……くそっ! あれだけの力を持つ魔獣となればSランクだろうな」
「そうでしょうな。Sランク魔獣以外にそんな力を持つ魔獣がいられては、人間は窮地に陥るでしょう」
アルフォンスの代わりに護衛を務めている騎士の言葉を耳にして、ライルグッドはハッとした表情で顔を上げる。
「……待て、そうとは限らないぞ」
「そうですか? Sランク以上の魔獣がいると仰るのですか?」
「いや、魔獣ではない。俺たちがボルフェリオダンジョンで遭遇した相手――魔族だ」
「魔族ですと! ……道中で話は伺いましたが、殿下やアルフォンス様たちが力を合わせてようやく倒せたという相手ですか」
「あぁ。アルはあの時よりは間違いなく強くなっている。最後の方がむしろ相手を圧倒していたからな。だが、ここには魔族だけではなく魔獣もひしめいている。それも奥に行けば行くほど、ランクの高い魔獣がな」
ライルグッドは相手が魔族一匹だけなら問題はないと考えているが、そこにランクの高い魔獣が加われば話は変わってきてしまう。
「今のところ爆発のような音は一度きりでしたが……」
「くそっ! 今ほど自分の立場を呪ったことはないぞ!」
「失礼いたします! 皇太子殿下!」
ライルグッドが恨み節を口にした直後、息を切らせながら彼のもとへ駆け付けた騎士が現れた。
その身なりは先遣隊のものではなく、さらに言えば北部軍のものでもない。
「東部の領地より兵を集めた東部軍、ランブドリア侯爵を筆頭に到着いたしました!」
「ようやく来たか!」
グッと拳を握ったライルグッドは近づいてくる足音の方向へ視線を向ける。
そこには話に出てきたランブドリア侯爵であるレフィに続き、ライルグッドが待ち望んでいた女性の双剣士であるアルマの姿があった。
「遅くなりました、皇太子殿下!」
「早速ですまないが、アルマを借りるぞ!」
「私たちからも見えておりました。先ほどの煙の所にアルフォンス殿が?」
「あぁ。もしかすると、魔族と戦っているかもしれん。魔獣もいる中での戦闘となれば、アルでも厳しいはずだ」
「かしこまりました、皇太子殿下」
アルマは腰に差していた双剣を抜き放ち、ライルグッドの目の前で片膝をついた。
「我が双剣を皇太子殿下に捧げ、目の前の敵を切り刻むと誓いましょう」
「頼むぞ、アルマ」
「レフィ様、行ってまいります」
「必ず殿下をお守りするんだぞ」
「はっ!」
こうしてライルグッドとアルマは、アルフォンスが激戦を繰り広げているだろう最前線へと向かったのだった。
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