第249話:リッコVSダークフェイス

 もともと高機動を駆使して戦う戦法のリッコだが、アクアウィンドを手にした彼女の動きは以前の速さをはるかに凌駕していた。

 彼女に剣術を教えたスレイグですら見失ってしまうことがあるほどの速度で動き回るリッコを見て、彼は汗を流しながら自然と笑みを浮かべていた。


「……私はもう、リッコに勝てないだろうな」


 一方でローズはなんとか全ての動きを捉えているものの、リッコの手助けができるとは思えなかった。


「……それは、あたいも同じさね」


 二人が同じ意見を口にしながら、リッコとダークフェイスの戦いはさらに加速していく。


『いい加減に止まりなさい!』

「私の動きを捉えられないみたいね! このまま一気に倒してあげるわ!」

『この、これならどうです――ダークスピア!』


 ダークフェイスの背後を取ったリッコが首を落とそうとアクアウィンドを横薙ごうとした直後、足元の影からいくつもの黒い棘が飛び出してきた。

 串刺しになる手前で地面を蹴り大きく後退、それでもダークスピアは執拗にリッコを狙って伸びてくる。


「ふっ!」

『なぜ魔法を切れる! 私の魔法を!』


 態勢を整えたリッコが鋭い太刀筋でダークスピアを斬り裂くと、魔法の形をとどめることができずボロボロと崩れていく。

 魔法を切ることができないわけではないが、ダークフェイスの魔法はどれもこれもが膨大な魔力を込めて放たれている。

 そこらへんにある武具では当然だが、スレイグが持っている直剣でも実現することはできないだろう。

 それを理解しているからこそ、ダークフェイスはリッコがやすやすと自らの魔法を切っていることに驚愕していた。


「あなたは業物の一言で片づけていたけど、アクアウィンドはそんじょそこらの業物とは違うわ! これは――一等級だからね!」

『ふざけるな! そんなものをあなたが持っているはずがないではないですか!』

「それなら目の前の現実をどう論破するつもり?」

『くっ! ……ならば、あなたさえ倒してしまえばここはもう終わりということですね!』


 ダークフェイスが両手を広げてそう告げると、下卑た笑みを浮かべながら宣言した。


『全魔獣よ! 目の前の女だけを狙い、殺せ!』


 一対一では勝てないと判断したダークフェイスは勝利を確実なものにするため、全ての魔獣にリッコを襲うよう指示を出した。


「くっ! ついにそう動いたか!」

「リッコ! あんたは下がりな!」


 スレイグとローズが前に出ようと声を掛けたが、リッコは構うことなくアクアウィンドを構えた。


「こいつを逃がすわけにはいかないわ!」

『そうでしょうねぇ。私を倒すことができれば、それでここのスタンピードは終わるのですから。ですが……そんなことはできない』

「できるわ!」


 地面を蹴ったリッコの姿が消えた。

 この時だけはローズの視界からも消えており、気づけばダークフェイスの真横を抜けてその後方に移動していた。


「……手ごたえが、ない?」


 すれ違いざまにアクアウィンドを振り抜きダークフェイスの首を刎ねた――はずだった。


『……くくくく、あーはははは! まさか、私が本当に最前線へ出ていると思っていたのですか?』

「まさか、偽物!?」

『その通り! さあ、私の偽物に消耗したあなた方が魔獣の群れを抑え込めますか? 無理でしょうねえ! これで私の勝利は確定した――』

「――フリックス準男爵軍! ただいま到着した! 魔獣の掃討に力をお貸しします!」


 ダークフェイスが勝利を確信した直後、リッコたちに続いてヴィンセントが軍を率いて戦場に到着した。


「ヴィンセント様!」

「まずは魔獣を抑え込みましょう! 大本を叩くのはそのあとです!」

「……分かりました! 勝負はお預けよ、ダークフェイス!」


 リッコはそう口にしながら魔獣の群れへと突っ込んでいく。

 その姿を見送ったダークフェイスは勝利を確信しながらも援軍が現れたことに歯噛みし、そして怨念にも似た言葉を呟いた。


『……あなただけは必ず、私の手で殺して差し上げましょう! 待っていなさい――リッコとやら!』


 憤怒のこもった瞳でリッコの背中を睨みつけたダークフェイスの偽物は、靄となりその姿を消したのだった。



※※※※

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※※※※

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