第246話:共闘
「はああああっ!」
『ブルガアアアアッ!?』
「あんた――スレイグ!」
ローズが苦戦していると察したスレイグは別の人物に指示を託し、前線に出てきていた。
鋭く振り抜かれたのはカナタから与えられた三等級の直剣。
額から伸びていた漆黒の角がローズを捉えようとした直前、スレイグの剣がミノタウロスを襲う。
狙いは首だったが間一髪で気づかれてしまい体を引いたミノタウロスだったが、その雄々しい角が半ばから斬り落とされていた。
「な、なんだい、その剣は!」
「カナタから貰ったものだ。とはいえ……素晴らしい切れ味だな」
「素晴らしいなんて、一言で片づけていいもんじゃないだろう! こんなことならあたいも作っておいてもらうんだったかねぇ」
冷や汗を流しながらも助かったと内心で思っていたローズがニヤリと笑い、そのままスレイグと共にミノタウロスを睨みつける。
左腕と角を失ったミノタウロスはやや後退していたが、二人から殺気を向けられたことで魔獣の本能に火がついた。
『ブルルゥゥ……ブモオオオオオオオオォォォォオオオオォォッ!!』
大咆哮をあげた直後、ミノタウロスの体から禍々しい紫紺のオーラが噴き出した。
「な、何が起きているのだ?」
「あたいが分かるわけないだろう!」
二人も初めて見る現象に、自然と武器を握る手に力が入る。
「……まさか、冗談だろう?」
「……はは、あれはもう、魔獣なのかねぇ?」
斬り落としたはずの左腕、その切り口がボコリと盛り上がると、元々の腕よりも一回り太い腕が生えてきた。
「……角が生えなかったのは、不幸中の幸いか?」
「……不幸はどっちにしても不幸じゃないかい?」
「……確かにな」
初見の魔獣ほど恐ろしいものはない。
何をしてくるのかも分からず、探り探りで戦っているうちに追い詰められることも多い。
二人とも似た経験をしてきており、目の前のミノタウロスがただのミノタウロスではないことも十分に理解していた。
「あたいが仕掛ける。スレイグは隙を見て攻撃しな」
「ダメだ! 速さに秀でた私が仕掛け、ローズが止めを狙うべきだろう!」
「それこそダメさね。あんたはスレイグ・ワーグスタッド騎士爵で、領主様さね。というわけで、先に行くよ!」
「待て! ローズ!」
「完全に動き出したらヤバい気がする! 今のうちに仕掛けるのが正解のはずさね!」
地面を蹴り大戦斧を上段に構えたローズは、いまだ紫紺のオーラを噴き出しているミノタウロスめがけて振り下ろした。
「これで倒れな!」
『…………黙れ』
「「――!?」」
聞き慣れない低く、太い声が二人の耳に響いてきた。
直後、大戦斧を振り下ろしていたローズの背筋に悪寒が走り、攻撃を中断して大きく飛び退く。
『邪魔者には死んでもらうとしよう――ダークバレット』
「避けろ! ローズ!」
「これは、死んだかねえ!」
左の人差し指がローズに向けられると、指先から漆黒の弾丸が撃ち出された。
一直線に伸びたダークバレットはローズの眉間を狙っており、大戦斧を盾にしようとしたが、彼女の目の前で粉々に砕けてしまう。
死んだ。そう思ったローズが覚悟を決めた――その時だった。
「ぬおおおおおおおおっ!」
スレイグがカナタから与えられた直剣をダークバレットへ振り抜き、大戦斧を破壊した弾丸を真っ二つに両断した。
「スレイグ! あんた、バカかい!」
「助かったのだから文句を言うな!」
『……ほほう? 面白い人間がいるではないか。いや、面白いのはその武器か?』
ミノタウロス、と言っていいのか二人には分からなくなっていた存在が、スレイグの持つ武器に視線を向ける。
『……ふむ。まだ大陸の端ではないか。隣のスタンピードはもう先へと進んでいるというのに』
「んなっ! 貴様、それはどういうこと――!?」
『……今、私に対して貴様と言ったのか?』
「……な、何さね、この殺気は!」
スレイグの言葉に反応したミノタウロスが睨みつけると、二人は全身から汗を噴き出させた。
『まずはお前たちから殺すとしようか。光栄に思うがいい。私は五大魔将の一人――漆黒のダークフェイス』
ダークフェイスはミノタウロスの顔のまま、ニタリと下卑た笑みを浮かべた。
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