第245話:激戦
「――絶対に魔獣を都市の中に入れるなよ!」
スレイグが号令を発すると、騎士や冒険者たちが武器を掲げて魔獣の群れへと突っ込んでいく。
鋭い視線を左右へ忙しなく動かし、魔獣が防衛線を超えてこないかを注視しながら指示を飛ばしている。
ローズはといえば最前線で魔獣を吹き飛ばしており、皆の士気を上げる一翼を担っていた。
「おりゃああああっ!」
『ギャインッ!?』
「おらおらてめえらあ! こっちに来なあ! ぶっ飛ばしてやるよお!」
自分よりも巨大な大戦斧を振り回しながら声をあげ、魔獣の意識を引きつけている。
元Sランク冒険者の実力を見せつけながら魔獣を圧倒しているのだが、長らく戦場から離れていたせいもあり、徐々に疲れが出始めていた。
(だが、ひよっこどもに疲れを見せるわけにはいかないさね!)
歯を食いしばりながら大戦斧を振り回し、魔獣を吹き飛ばしては雄たけびをあげて仲間を鼓舞する。
一度は防衛線が崩れてしまったが、スレイグとローズが参戦したことで徐々にではあるが戦線を押し上げることに成功しつつあった。しかし――
『――ブモオオオオオオオオォォォォオオオオォォッ!!』
耳をつんざくほどの大咆哮が、魔獣が押し寄せてくる先から響き渡った。
ローズは小さく舌打ちをするだけだったが、ギリギリ戦線に踏みとどまっていた者たちは恐怖に体を震わせてしまう。
「戦えない者は下がりな! 今の声の奴はあたいが相手してやるよ!」
「無理をするなよ、ローズ!」
「だーれに言ってんだい!」
「戦える者はローズに他の魔獣が向かわないよう援護しろ! いいか、ここが踏ん張りどころだぞ!」
「「「「おうっ!」」」」
魔獣は数を増しているが、前線で戦える戦力は減っていく。
スレイグが言う通り、ここが踏ん張りどころになってきている。
それは一騎当千の活躍を見せていたローズが、たった一匹の魔獣の相手をすることになるのだから当然であり、誰もがそれを理解していた。
「……あんたかい、親玉は?」
『……ブルフフゥゥゥゥ』
「……漆黒のミノタウロス、亜種かい」
やや表情を引きつらせながら、ローズは大戦斧を構え直す。
相手は魔獣なのだが、その右手には大剣が握られており、剣身が地面に引きずった跡を作っていた。
「…………どらああああっ!」
『ブルオオオオッ!』
ローズが動いたのを見てミノタウロスも大剣を斬り上げる。
大戦斧と大剣がぶつかり合うと、ローズの両腕が大きく跳ね上げられた。
「こいつ、やるじゃないか!」
『ブルオオオオッ!』
ミノタウロスの両腕が大きく膨れ上がると、力任せに大剣が振り下ろされる。
斬り上げからの振り下ろしに、両腕が跳ね上げられていたローズはどうしようもない――はずだった。
「甘いさね!」
『ブモオッ!?』
ローズの声と同時に地面が大きな揺れを起こし、ミノタウロスの振り下ろしが逸れて彼女の右横の地面を抉る。
直後には体勢を整えたローズが地面を踏みしめながら渾身の横薙ぎを放つ。
『ブモオオアアアアッ!』
「ちいっ! しぶといねえっ!」
決まったと思ったローズだが、ミノタウロスは大剣を盾にしつつ自らの左腕を犠牲にして体が両断されるのを防いでいた。
とはいえこれでミノタウロスの大剣を破壊し、左腕を完全に落としている。
相手の戦力が大幅に削れたことでローズ有利の見方をする者が多くいただろう。
(……決めきれなかったかい!)
『……ブルフフフフゥゥゥゥ』
地面を揺らしたのはローズが唯一使える魔法であり、切り札でもあった。
切り札を使っても倒しきれなかったという事実が、ローズに焦りを感じさせていた。
『ブボボオオオオオオオオッ!!』
「やっぱり、来るかい!」
片腕になったところで、魔獣は魔獣だ。目の前の獲物を逃がすほど甘い存在ではない。
漆黒の体に光る深紅の瞳がローズを睨みつけ、一直線に突っ込んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます