第243話:カナタの仕事

 そこからは会議室に大量の銀鉄と精錬鉄が運び込まれると、カナタが錬金鍛冶で作品を複製させていく。

 先ほどは銀鉄で作ったものなので、精錬鉄でも三等級の武具を作っており、こちらは短剣ではなく剣身の長い直剣になっていた。

 短剣に比べて扱う騎士は少なくなるものの、二番目に多く支給されている武具ということもあり、ヴォルフからお願いされたのだ。

 キリの良いところでそれぞれ百本の短剣と直剣を作ると、次は軽鎧の作成に入っていく。

 全身鎧は一人ひとりの体に合わせて作らなければいけないので複製できないのだが、軽鎧であれば多少のサイズ違いは問題なく身に着けられる。

 三等級の武具で命を救われることも多くあるだろうと、こちらもヴォルフたっての願いだった。


「……くっ!」

「カナタよ、大丈夫か?」

「……はい。まだ、大丈夫です」


 連続で休みなく錬金鍛冶を行使していたカナタが苦悶の表情を浮かべたことで、ライアンが心配の声を掛ける。

 それでもカナタは作り笑いを浮かべ、ギリギリまで錬金鍛冶を続けていく。

 頭痛から倦怠感が出始めており、視界の中にチカチカと謎の明滅が見えている。

 倒れる一歩手前まで来てしまっているが、カナタは錬金鍛冶の手を止めることをしなかった。


「……ひとまず、これで、ラストです!」


 気合いを入れ直すために声をあげたカナタは、運び込まれた最後の精錬鉄で軽鎧を作り出すと、作品を運び出すために呼び出されていた騎士たちから感嘆の声が漏れた。


「……これだけの数の装備を、たった一人で?」

「……奇跡だろ、これは」

「……俺たちがこれを使えるのか?」

「お前たち! 無駄話はあとにしてさっさと運び出せ!」

「「「は、はい!」」」


 ヴォルフの声に背筋を伸ばした騎士たちが作品の入った木箱を担ぎ、大急ぎで運び出した。

 残されたカナタはテーブルに突っ伏しており、肩で呼吸を繰り返している。


「無理をさせてしまったようだな、すまない」

「いえ……皇太子殿下も、アルフォンス様も、リッコも自分のやるべきことをやっているんです。俺だって、できることを全力でやらないと」

「そうか……うむ、そうだな。私たちも全力でスタンピードを抑え込めるよう、迅速に行動しよう」

「よろしくお願いいたします」


 ヴォルフはカナタの態度に一切言及することなく、むしろここまで頑張ってくれたことを労うように優しく肩を叩いて部屋を出ていった。

 これから北と北北東のスタンピードを抑え込みに向かうのだろう。

 先遣隊として先に向かったライルグッドとアルフォンスも心配だが、カナタが複製した武具を装備した騎士団が到着すればきっと問題はないはずだと信じている。

 カナタもまだまだやるべきことは多い。

 一休みしたら、また武具を作り始めなければならないのだ。


「一度部屋に戻るといいぞ、カナタよ」

「……いえ、ここで軽く休んでから、また作らないと」

「全く。本当に、ライルが言った通りの男であるな」

「……ライル様が、何か言っていたんですか?」

「自分の無理を当たり前だと思っていると。そして、ストッパーがいないと永遠に働き続けるとな」

「うっ! ……すみません」


 まさかライアンにまで自分の情報が伝わっているとは思わず、カナタは恥ずかしくなってしまう。


「休む時はしっかりと休むべきだ。これで錬金鍛冶が上手く使えなくなりでもしたら、我はライルやリッコから恨まれてしまうだろうからな」

「それはさすがに……でも、分かりました。しっかりと休んでから、また作業に入りたいと思います」

「そうしてくれ」


 一度息を吐き出してから立ち上がったカナタは、足取りがおぼつかない。

 すぐにライアンが近衛騎士の一人の声を掛けて、肩を貸すように伝える。


「カナタよ」

「……はい、陛下」

「本当にありがとう。この恩は、いずれ必ず返すと約束しよう」


 ライアンの言葉に驚いたカナタだったが、すぐに笑みを浮かべるとこう返した。


「俺もアールウェイ王国の国民の一人です。国のために全力を尽くすのは当然であり、これが役目だと考えております」


 今度こそゆっくりと廊下を進んでいくカナタの背中を見つめながら、ライアンはグッと拳を握るとこれからの成すべきことに思考を向けたのだった。

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