第207話:ボルフェリオ火山⑥
「ど、どういうことよ! レッドホエールはマグマの中にいるんじゃないの!」
リッコが大声をあげて確認を取ると、ライルグッドだけではなくアルフォンスも急いでカナタたちのところまで下がってきた。
「アル!」
「はっ! アイスワールド!」
そして、戻って来るなり広域殲滅魔法であるアイスワールドを発動させた。
何が起きているのか理解が追いつかず、カナタは前方に視線を固定することしかできない。
しばらくして、突然レッドホエールが現れた理由がはっきりした。
「……マグマが、せり上がってきている?」
「う、嘘でしょ!?」
「それが本当なのだ、リッコ」
「くっ! やはり自然のマグマを魔法で抑え込むのには、限界があります!」
今まで圧倒的な実力を見せてきたアルフォンスが冷や汗をかいている。
マグマの表面を凍りつかせたアイスワールドだったが、氷の下から徐々にマグマがせり上がってきており、いたるところで氷が砕け始めていた。
「く、空気も熱くなってきているっすか?」
「汗が……止まらない……」
リタの言葉を肯定するかのようにロタンが噴き出してきた汗を拭う。
「どうやらダンジョンが私たちを殺そうとしているみたいね」
「ダ、ダンジョンが殺そうとするのか?」
「ダンジョンとして完成されて長い場合はそうそうないけど、できたばかりの若いダンジョンだとよく見られるわ。要は、体の中に入ってきた外敵を撃退しようとしているのね」
すでにダンジョンとなったボルフェリオ火山だが、出来上がってまだ間もない。
ここからは少しずつ、周囲の環境に合わせた変化を行っていくのだが、それも外敵がいては集中して行うことができない。
だからこそダンジョンは迅速に外敵を排除しようと考えたのだ。
「で、でも、いきなりマグマだなんて、俺たちだけじゃなく魔獣も死ぬだろう!」
「ダンジョンとして成熟すれば、魔獣が生まれ落ちることも簡単になるわ。でも……ここまでするなんて話は聞いたことがないわね」
レッドホエールはダンジョン化するまえのボルフェリオ火山であれば、火口の最下層に生息する、いわば主のような存在だ。
その主がいきなり現れたということは、ダンジョンでいえばいきなりのボス戦と言えなくもない。
「レッドホエールを倒せばボルフェリオ火山が元に戻る可能性もあるということか?」
「可能性はゼロではないはずよ。でも、マグマの中にいる魔獣をどうやって倒すのかよね」
当初の予定ではアルフォンスとリタ、それにライルグッドも加わって魔法で一気に仕留める予定だった。
しかし、今はアルフォンスが防御に専念しなければならない状況に陥っており、リタとライルグッドの魔法でレッドホエールを倒せるかはわからない。
もしも二人に攻撃させて倒せなかった場合、カナタたちは帰り道を閉ざされたダンジョンで閉じ込められることになる。
『『『『ゲラゲラゲラゲラッ!』』』』
「……ほ、他の魔獣が!」
「結界の外に出て迎撃するわ!」
「待てリッコ! 今出ていけば、熱気で肺がやられるぞ!」
「それじゃあどうしろっていうのよ!」
魔獣が笑い声をあげながら物陰から飛び出してきた。
その数は一〇や二〇を優に超えており、リッコだけではすぐにじり貧になってしまう可能性が高い。
「だったらどうしろっていうのよ!」
「……私に考えがあるっす!」
「リタ、何かあるのか?」
ライルグッドの言葉に大きく頷いたリタは、彼とリッコを見つめながら一つの魔法を発動させた。
「エアヴェール」
リタが魔法を発動させると、ライルグッドとリッコの周囲に風が展開された。
「エアヴェールは少しだけですが、外気を遮断することができるっす」
「これなら結界の外に出ても平気なのね?」
「はいっす。でも、私の魔力では熱を完全に遮断できないっすから、熱気を感じ始めたら戻ってきてほしいっす。そうしたらもう一度魔法を掛け直すっす」
「時間との勝負ということだな。わかった、助かるぞ、リタ!」
「は、はいっす!」
「抜けてきた魔獣は賢者の石で対処します!」
「任せたわよ、カナタ君!」
こうしてカナタたちは、ダンジョン化したボルフェリオ火山での初戦闘と初ボス戦を同時にこなすことになった。
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