第205話:ボルフェリオ火山④

 ――ダンジョン化。

 それは魔獣が集まり過ぎて濃厚になった魔素の影響を受けてダンジョンになり掛けている状況のことだ。

 ボルフェリオ火山は魔獣が生息しているものの、魔素が濃厚になるような膨大な数の魔獣がいるわけではない。

 故に、閉鎖的な空間であっても空気の流れで魔素が押し出されて溜まるということはなかった。

 しかし、今は違う。

 空気の流れによって排出されていた魔素だが、その量があまりにも多過ぎて排出が間に合わず、火山内部に蓄積されてしまっている。

 本来であれば魔素は徐々に蓄積していきながらダンジョン化もゆっくりと行われるものだが、ボルフェリオ火山では急激に魔素が蓄積したこともあり、ダンジョン化も過去類を見ない速度で行われていた。


「まさか、ダンジョン化している場所に足を踏み入れることになるとはねぇ」

「ですが、この程度であればレッドホエールやここの魔獣を掃討できればダンジョン化を止められるのではないですか?」

「かもしれんな。まさか、レッドホエールの素材を取りに来てスタンピードと遭遇、さらにダンジョン化に遭遇することになるとはな」


 しかし、ダンジョン化に気づけたリッコたちだったが、その速度までは気づいていなかった。

 ダンジョン化はゆっくりと行われるという常識が、異常事態においてのイレギュラーを見落としてしまっていたのだ。

 だが、それも仕方がないと言えるだろう。

 もしもここに至るまでに魔獣と遭遇し、それを倒すことができていれば――ボルフェリオ火山が完全にダンジョンと化していいることに気づけたはずだ。


 ――ゴゴゴゴゴゴ。


「な、なんだ?」

「じ、じじじじ、地面が揺れてるううぅぅ!?」

「これは、マズいっすかねぇ?」


 火山が揺れている。その理由として考えられることはただ一つ。それは――


「「「「「「……ふ、噴火する!?」」」」」」


 カナタたちは火口の中腹まで下りてきている。

 ここから全力で戻ったとしても噴火に巻き込まれて死んでしまうだろう。

 だが、ここに至るまで一度たりとも地震に見舞われたことなどなかった。

 つまり、噴火の兆候など皆無だったのだ。


「まさか、ダンジョン化が関係しているのか!」

「あちゃー。これはさすがに死んだかなぁ」

「そ、そんな簡単に言っていいことじゃないだろう!」


 ライルグッドの表情には珍しく焦りの色が見える。

 リッコは半ば諦めの入った言葉を呟き、カナタが怒鳴りつけていた。

 しかし、地震は徐々にその震度を弱めていき、最終的にはピタリと止まってしまった。


「……と、止まった?」

「……そのようですね」

「…………こ、ここここ、怖かったよおおおおぉぉ!!」


 リッコの呟きにアルフォンスが答えると、後ろではロタンがへなへなと座り込みながら声をあげる。

 地震は止まり噴火は怒らなかった。だが、この場が安全というわけでは一切ない。


「どうしますか、殿下?」


 そのことを理解しているアルフォンスは、すぐにライルグッドに指示を仰いだ。


「……下りるぞ」

「だ、大丈夫なんですか、ライル様?」


 心配そうに声を掛けたのはカナタだ。他の面々も不安そうに彼を見つめている。


「……放っておくわけにもいかんだろう。もしも俺たちが逃げて火山が噴火してしまったら、ランブドリア領に大きな被害が出てしまう。それに――帰り道はもうないみたいだからな」


 最後の言葉を口にする際、ライルグッドは視線をカナタから後方の道へ向けていた。

 そこで全員が慌てて振り返ると、先ほどまであったはずの帰り道が突如として現れた岩に塞がれていたのだ。


「……い、いつの間に?」

「……全然、気がつきませんでした」


 リッコも、そしてこの中で一番の腕利きであるアルフォンスですら気づいていなかった。

 もちろん、ライルグッドも気づいていたわけではない。

 カナタに声を掛けられて振り返った時に、たまたま目に入っただけだ。

 しかし、この出来事がライルグッドに気づかせてくれた。


「……どうやら俺たちは、勘違いをしていたみたいだな」

「勘違い、ですか?」

「あぁ。ボルフェリオ火山はダンジョン化が進んでいるわけじゃない。すでにダンジョンになってしまっているんだ」


 この事実に、カナタたちは目を大きく見開いた。

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