第204話:ボルフェリオ火山③

 真っ赤に揺れるマグマが周囲を照らし、火口の中を赤く染めている。

 山道を進んでいる時にはアルフォンスの魔法で熱気を遮っていたが、ここまで来ると魔法では遮れない程の熱を持っている。

 故に、カナタたちの体からは大粒の汗が噴き出しており、洋服が肌に張り付いてしまう。


「……アル、もう少し、どうにかならないのか?」

「可能ではありますが、緻密な冷気操作が必要になりますので戦闘には参加できなくなります」

「構わん、やってくれ」

「……わかりました」


 あまりの熱気に体力を奪われてはレッドホエールとの戦闘時に倒れてしまうかもしれないと、ライルグッドが提案した。

 すると、周囲の冷気が強まっていき熱気を遮り、カナタたちは大きく深呼吸をした。


「すううぅぅぅぅ……はああぁぁぁぁ……す、涼しい」

「これがいいです! アル様、これでお願いします!」


 カナタが心底といった感じで呟くと、ロタンは感動しながらアルフォンスへ懇願する。

 事実、二人はこのままいくと体力の限界をすぐに迎えそうだったこともあり、安堵の言葉でもあった。


「お二人とも、水を飲むっすよ」

「ありがとう、リタ」

「あぁぁ~! リタ様がいてくれて、本当によかったです~!」


 リタは魔法で飲み水を作り出すと、それをコップに注いで手渡した。


「アル、氷を入れてやれ」

「かしこまりました」


 そしてアルフォンスが氷魔法でコップの中に氷を作り出したものだから、ロタンは体を震わせながら喜んでいた。


「……ん……んぐ……ぷっはああああっ! さいっっっっこうです!」

「ありがとうございます、アルフォンス様」

「あまり体を冷やし過ぎるのもいけませんので、程々にしておりますが」

「それでも最高です! ありがとうございます!」


 本来であればラズガンダでボルフェリオ火山へ向かうための物資を補給しようとしていたのだが、都市の状況があまりにも酷く、民のための物資を分けてもらうのは遠慮した。

 食べ物は魔獣素材があるのでどうとでもなるのだが、水に関してはリタに頼ることにしたのだ。


「ここにランブドリア領の異常の原因がいてくれることを願うばかりだな」

「そうね。そうじゃないと、しばらく足止めをくらいそうだものね」


 カナタの呟きにリッコが答える。

 ライルグッドはついでに解決するとは口にしていたが、内心ではそちらも目的の一つになっているだろう。

 ついでなどではなく、必ず解決するという決意のもとでここまで来ている。

 もしもダメなら、次はさらに東へ向かうことになるはずだ。


「……まあ、わからないことを考えても仕方ないわね」

「当然だ。それに、今の俺たちは考えなければならないことがあるからな」

「そうですね。まさか、ここまで来てまだ魔獣と遭遇しないとは思いませんでした」


 ライルグッドの言葉にアルフォンスが頷きながら考え込む。

 火口の中には火属性に特化した魔獣がいるはずだった。

 しかし、火口に侵入してからかれこれ一時間ほど経ったが、山道の時と同じように魔獣との遭遇はいまだにない。


「だが……いるのよねー」

「あぁ、いるな」

「何故襲い掛かってこないのでしょうか?」


 火口に入った直後から、魔獣の気配は感じ取っている。

 しかし、本能のままに襲い掛かってくるはずの魔獣は、まるでこちらの様子を見ているかのように息をひそめ、奥へ進むカナタたちを監視している。

 それはまるで、魔獣の巣へと誘い込んでいるかのようでもあった。


「……まあ、行ってみたらわかるでしょう」

「気楽だな、リッコは」

「必要なことだからね。それにここ……もしかしたら、ダンジョン化しているかもしれないしね」

「…………ダンジョン化?」


 初めて聞く言葉に、カナタは首を傾げてしまった。

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