第203話:ボルフェリオ火山②
ボルフェリオ火山は麓から火口が見える山頂まで登り、そこから中へと入りさらに下っていかなければならない。
そして、山頂まで登る道中ですら火口から放たれる熱波によって汗が止まらなくなるほど暑くなっているのだから、火口から下りていく中はどれほどだろうか。
想像しただけで汗が止まらなくなりそうだが、中腹まで登ってきた時点ではアルフォンスのおかげで涼しく登山を楽しむことができていた。
「これ、アル様がいなかったらヤバかったわね」
「うぅぅ、私も氷魔法に適性があったら、役に立てたっすのに」
「こればかりはどうしようもないからな。リタも落ち込むんじゃない」
「はいっすぅぅ~」
アルフォンスが慰めようとそう伝えても、リタは気合いを入れていた分、その落胆は大きかった。
「これから活躍する場面は増えてくるはずだから気にするなって」
「……なんか、カナタ様に言われても納得しにくいっすねぇ」
「なんでだよ!?」
「カナタは存在自体が規格外だからな! お前以上に活躍できる奴はそういないぞ!」
「となると……はっ! 賢者の石が活躍する場面が訪れるかもしれませんね! そしたらぜひとも観察しなければいけませんね! はぁぁ、楽しみですううううっ!」
「……あの、皆様? 一応、魔獣が隠れているかもしれないので、警戒はしておいてくださいね?」
緊張感のない会話の中で、アルフォンスだけが注意を促した。
「しかし、おかしなものだな」
「えぇ、そうね。ここも大量の魔獣がいるのかと思いきや、ここまで一匹も遭遇しないなんて」
「はい。周囲を警戒しておりますが、気配すら感じられません」
「まさか、ここが安全地帯だなんて、言いませんよね?」
「「「絶対にない」」」
「……い、一応の確認じゃないか」
ポロリと呟かれたカナタの言葉に、リッコとライルグッドとアルフォンスが同時に否定した。
「ですが、どうして魔獣が一匹もいないっすかねぇ? ロタンさん、何かわからないっすか?」
「うーん、魔獣は基本的に知能が低いし、自らの本能に従って行動するはずです。なので、普通は縄張りから出るようなこともしないんですが……」
ロタンはそこまで口にすると、急に黙り込んで何やら考え込んでしまう。
短い付き合いだが、こうなったロタンに声を掛けても返事は返ってこないので、カナタたちは無言のまま山を登っていく。
しばらく進んでいくと、ロタンがハッとした表情を浮かべてから口を開いた。
「……本能的に、縄張りを移動した?」
「ん? 本能的にとはどういうことだ?」
「この辺りに逃げるべき対象がいたかもしれない。……いいえ、でも、それじゃあここが荒れていない説明がつかないですね」
「フェルトレントみたいな魔獣を操る魔獣がいたということはないですか?」
「カナタさんの言う可能性もありますが、火山地帯に生息する魔獣にそのような特性を持った魔獣がいたかしら?」
結局、答えが出ない状況のままカナタたちは足を進めていき、一度も魔獣と遭遇することなく山頂――火口に到着してしまった。
このまま中に入るべきか、それとももう少し周囲を探るべきか。
不確かなことが多過ぎて、誰もその答えを持ち合わせていない。
しかし、この場に留まるという答えは選択肢の中にはなく、二択の中から選ぶしかなかった。
「……行こう」
「……カナタ君?」
そして、カナタが行こうと口にするとは誰も思っておらず、この場にいる者を代表してリッコが問い掛けた。
「陛下の剣の素材を探していた時にも感じた直感が言っているんだ。この中で手に入る素材は、今の俺たちが求めているもので間違いはないって」
「ふむ。となれば、俺たちの目的の一つがこの中にあるというわけだな」
「はい。ただ、それがランブドリア領で起きている異変の解決に繋がるのかまではわかりませんが……」
最後の方は声が尻すぼみになってしまったが、目的の一つがあるのであれば答えは一つしかないと全員が頷いた。
「アルフォンス、魔力はどうだ?」
「問題ありません。念のためにマジックポーションも常備しております」
「なら、進むしかないわね!」
「が、頑張るっす!」
「私も周囲の観察を続けますね」
「……ありがとう、みんな」
全員がカナタの言葉を信じてくれたことに、彼はとても感謝した。
そして、必ず勇者の剣を作るのに必要な素材を確保するのだと決意して、カナタたちは火口へ足を踏み入れた。
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